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▷現役主人公の物語Re▷  作者: 加藤 大生
『燈和=フラデリカ』編
40/47

氷戈VSフラデリカ

「『大炎浪フランドルテ』ッ!!」


「ッ⁉︎ なッ...」


 フラデリカは両の手を氷戈の方へ向け、唱えた。


 するとこれでもかという量の炎が彼女の周りから横一直線に吹き出し、そのまま氷戈を襲う。

例えるなら『炎の津波』であり、先ほどラヴァルドの出現させたマグマや火山を跡形も無く消し去ったのは恐らくこの技だろう。

 初めはその炎の量とデタラメな攻撃範囲に驚いた氷戈だが、ここは冷静に対処する。


「『氷盾結界ひょうじゅんけっかい』…」


 静かに唱えると、氷戈の前に分厚い氷の盾が一瞬で形成された。と、同時に彼を覆うようにして薄い氷の膜が張られる。

 生成した全ての氷にはもれなく『絶対防御』の能力が組み込まれている。これによりカーマ及び源術アルマ由来の攻撃を全て無効化し、盾を向けている方向へは物理攻撃からも身を守ることが出来るようになる。

 つまり幾らフラデリカの使う技の規模が大きくとも、それがアルマである限り氷戈に届くことは無いのである。


「…」


 十数秒間続いた炎の波の押し寄せを顔色ひとつ変えず防ぎ切る氷戈。とはいえ、氷戈でなければ防いだり相殺するのはほぼ不可能な威力であったのは事実である。

 実際、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。こんなことは初めてだ。

『忘レ人』由来の基本源素量の暴力とはこのことか、と実感する氷戈だった。


 -なるほど…。こりゃ一年でNo.2(ツヴァイル)にまで上り詰める訳だ。リグレッドの言った通り、俺じゃなきゃ苦戦どころじゃないなこれ-

 ___________________

 介戦学園『茈結しけつ』内講堂、リグレッドによる『フレイラルダ=フラデリカ殺害計画』解説より__


「それはそうと、だ。フラデリカってのは相当強ぇンだろ?大丈夫なのか?」


 ギルバートが氷戈の護衛を引き受けると言い出し、そのやりとりが一段落した後のことだった。


イサギは逸れてしまった話題を引き戻す。

するとリグレッドは戯けた感じで言った。


「お、なんやイサギさん? 氷戈のことが心配なんか?」


「死ね。……仮にも、知った顔だ。ただでさえ寝つきが悪ぃのに、死なれちゃあ目覚めも悪くなンだろ」


「そ、そうなんか…」


照れ隠しにもなっていない発言に困惑するリグレッドだったが、イサギに睨まれると背筋を正して解説を始めた。


「わ、分かった分かった!! 別にこれに関しては隠す必要もあらへんしな…。結論、勝算はある。むしろ大アリや。言うてまえば、今居る茈結の人間の中だといっちゃん安定して勝てるんがこの氷戈なんよ」


「先生たちも含めてって話、それマジだったのか…」


 オリバーは呆然と言った。

ずっと氷戈の隣で戦って来たオリバーにとって、この回答はよほど予想外だったのだろう。

何せオリバーは氷戈の実力はもちろん、茈結講師陣の実力も実技を通して凡そ把握しているからだ。それ即ち、氷戈と彼らとの実力の差を誰よりも知っていると言うことである。


 察したリグレッドはニヤついて答える。


「…『相殺』。それがフレイラルダ=フラデリカの有すカーマの名であり、能力や。内容は読んで時の如く、『対象となる全てのものを自身のカーマの出力分だけ相殺する』っちゅうもんや」


「ん? でもそれって普通に技をぶつけて相殺するのと何が違うの?」


 オリバーの疑問はもっともだ。

 確かに両の出力が同じでなければどんな攻撃も相殺できないというのは、普通に戦っていてもその通りである。わざわざカーマの能力である必要が無い。


 リグレッドはこれに人差し指を立てて、教師のように解説を始める。


「早いとこ、()()()()()()()()()()()()()と考えて貰ったらエエ。例えば向こうの放つ火の源術アルマには、水のアルマをぶつけるんが定石やんな?普通なら半分程度の出力で相殺できる。せやけども『相殺』のカーマが付与された炎を放たれた場合、仮に水のアルマであったとしても出力がその半分やと相殺できずに打ち負けてまうんや」


「ふーん」


 オリバーはまたも腑抜けたような声で応じる。

どうやら『相殺』の能力が予想より壊れていないと思っているらしい。


「『全ての事象』というのは当然、カーマやそこらの物質も見境無く含まれるんだろう?そうであるならとんでもないじゃないか」


 オリバーの安直な考えに釘を刺したのはアビゲイラであった。

 リグレッドはこれに便乗するように言う。


「流石ラビさん、その通りや。どのようなカーマにも相性を問わず出力勝負へ持っていける上、武器として主流な源素由来の鉄鋼類ももれなく対象。……せや、ラビさんの飼っとるバケモン居るやろ?あのおっそろしく強いバケモンも、ことフラデリカの『相殺』の前では一瞬で溶かし崩されてまうやろな」


「ッ!? うそだろ…」

 ザワザワ……


 オリバーは絶句し、講堂にもざわめきが走る。

 氷戈も二匹ほどお目にかかったことがあるが、確かにアレらをイチコロできるのであれば恐ろしい能力なのだと改めて実感できる。


 自分のカーマを出汁にされたアビゲイラは気持ち不満そうだったが、変わらず落ち着いた口調で話す。


「一瞬で、と言っても私のペットが顕現を維持できるエネルギー以上の出力を浴びせないとダメだろう? …まぁあんたの言い方的には、フラデリカにはそれが可能なのだろうけど」


「正しくそこなんや。知っとるもんも居るかもしれへんが、フレイラルダ=フラデリカは『忘レ人』。つまるとこ、その出力で押し負けるっちゅうことはまずあらへん。つまるとこ、『忘レ人』が持ったら一番アカン内容のカーマよな、『相殺』は。あまりにも相性がエエ」


「そ、そういうこと....?」


 オリバーはここで初めてフレイラルダ=フラデリカの恐ろしさを実感し、冷や汗を垂らす。

 リグレッドはここへ追い打ちをかける。


「更にや。彼女は()()()()()()()()()()()()()()()()()。ほんで戦闘時には常に莫大な炎を身に纏いながら戦うんやが、これがまたヤバい。……はて、何がヤバいんか分かるか?」


「もしかして……無敵だったり…?」


「そのもしかして、や。彼女の纏った炎の出力を超える攻撃であらへんと、どないなもんでも途端に食い潰されてまう。あらゆる武器も、それ以上のエネルギを持っとらんと当たる前に消滅するんで実質使用不可。極め付け、こちらの防御策すらもことごとく貫通されてまう。……イサギさんなんて相性最悪やな」


「フンッ…出汁にしやがって」


 こちら(イサギ)はしっかりと出汁にされた不服を前面に出す。とはいえ反論をしない以上、勝てないと言うのはマジなのだろう。


 この事実に、オリバーの顔色は暗くなっていた。


 ここでリグレッドが締めに入る。


「『忘レ人』由来の圧倒的出力を超えん限り、どないな攻撃も当たらへんし防げへん。それがNo.2(ツヴァイル)フレイラルダ=フラデリカの強さの由来や…」


 ひと呼吸置き__


「だがしかぁしッ!!これら全部を気にせず、直接ぶん殴りに行ける奴がこん中にたった一人だける!!そ・れ・こ・そ・が__」

 ___________________


 -『絶対防御』を持つ俺ってことか…-


リグレッドによれば氷戈の『絶対防御』はカーマの中でも最上位の優先度を誇る『絶対式』に分類されるらしく、それはフラデリカの『相殺』すらはじいてしまうと言う。

実際、彼女の炎を数回防御しきっている時点でこれは事実であろう。


 氷戈がそんなことを思い返していると分かるはずもないフラデリカは驚きの声を上げる。


「驚いた…先ほどもそうだったが私の炎を受け切るとは、こんな奴は初めてだ。伊達にNo.3(ドライス)だった姉さんを殺してはないな」


「だから俺じゃないんだけどね…まぁどうも」


 表では適当にあしらう氷戈だが、内心は少し焦り始めていた。

 氷戈はリグレッドに提案された『ある手法』を実行するつもりなのだが、これは戦闘が長引けば長引くほど成功の確率が落ちる。

 否、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と表現した方が正しいか。


 どのみち何もしていない時間を減らしたい氷戈はすぐさま反撃に転じる__

 と思われたが、氷戈は敢えてバックステップを踏み距離を取るのだった。


 ニヤ…


「……?」


 不自然な行動に不自然すぎる笑みを浮かべる氷戈。これにはフラデリカも困惑の表情を隠せない。


「貴様、どう言うつもりだ?」


「さあ? それを()()のが醍醐味だろう…?」


 氷戈は挑発を重ねた末、左手を広げ真っ直ぐ前へと突き出す。


てろ…、『フーカ』」


 唱えた瞬間、開いた左手の真下部分が瞬時に凍りつく。そこから先端を天へ向けた氷柱が勢い良く伸びる。二メートル程にもなる氷柱は間もなく砕け散り、中からは全身が氷で出来ている槍が姿を見せたのだった。


 氷戈はそれを手に取ると、構えて見せた。


「それが貴様の我成ガイナか…。槍とはまた珍しい…」


 フラデリカはそう言いながらも、氷戈を睨む。


「しかし、それを出すためだけに私から距離を取ったのか? 敢えてガイナ()の射程外へ行くとはますます怪しい奴だ」


「怪しい? …こんなにも堂々としてるんだぜッ!! ハッ!!」


 変わらず不敵な笑みを浮かべながら、槍を斜め上に大振りして見せる氷戈。

 するとフラデリカの頭上に無数の小さい氷柱が生成され始める。


「『氷雨徹尖ひょううてっせん』!!」


「ほう?」


 詠唱と共に、無数の氷柱針つららばりがフラデリカとその周辺へ降り注ぐ。


 ところが、彼女は余裕の表情だ。

 そのまま少し力むような素振りを見せると、莫大な量の炎が彼女を取り囲み__


「『独炎の壁(フラウリーナ)』…」


 これがリグレッドの言っていた『全てを食い潰す炎の鎧』であろう。

 その噂通り、降り注ぐ氷柱は炎に飲まれた途端にその姿を消す。アルマが解けたのとはまた違う、分解されたような消え方だった。


 炎に包まれたフラデリカは棒立ちで上を見つめる。


「…ッ!? なんだ!!」


 余裕の佇まいを見せていたフラデリカは突如、驚きの声を上げた。

 ある一つの氷柱が、彼女を()()()()()()()からだ。


 彼女は寸でのところでこれを交わしたが、動揺を隠せないでいる。

 氷戈はこれを見逃さない。


「ハッ!!」


 自身の周りに頭部ほどの大きさの氷を四つ浮かべていた氷戈は、それぞれから高速で氷柱を伸ばしてフラデリカへの直撃を狙った。


 今度はそのどれもが『相殺』の炎を掻い潜り、彼女を襲った。

これら全ては『絶対防御』の力をアルマへ組み込んでいるからこそ可能な芸当である。


 対するフラデリカは直前に『相殺』を無効化されたこともあり、今度は腰に下ろしていた長い剣を引き抜いて串刺し攻撃をしっかりと弾く。

 彼女は流れで十メートル程の特大火球を飛ばして反撃を試みるも、氷戈の氷の盾でいとも簡単に防がれてしまう。


 ここで両者は一旦手を止めたので、フラデリカは剣を納める。


「…なるほど、距離を取って不利なのはどうやら私の方らしい」


 -って、思うじゃん?-

「……」


 考えていることを悟られぬよう、真剣な顔で無言を貫く氷戈。

 そうしてフラデリカは両方の前腕を胴の前で交差させ、唱える。


「灯せ…、『灯火リ・フィルテ』!!」


 詠唱と共に交差させた前腕を素早く広げると、くうで描かれたX字の軌跡上が激しく燃え上がる。


やがてそこから二刀の、輝かしい黄金のレイピアが姿を現すのであった。


「これこそが私のガイナ、『灯火リ・フィルテ』だ。…戦闘は凡そ遠距離で片付いてしまうのであまり呼び出す機会が無かったが、思えば炎で焼け死ぬのでは生温い。……その者の心を写すとされる我成ガイナで殺してこそ、復讐を果たすに相応しい!!」


 -本当にそうか? そうせざるを得ないだけだろう?-

「……」


 あくまでも無言。何も言うな。そうすれば、何もかも上手くいく。


「行くぞ、姉さんの仇!! …うおおおおぉぉぉぉッ!!」


 -待ちは怪しまれる。行くしかない!!-

「…ッ!!」


 レイピアを両手に近接戦を仕掛けるべく、全速力で特攻するフラデリカ。

 槍を片手に、作戦を仕掛けるべく全速力で特攻する氷戈。


 その距離は加速度的に縮まって行き、そして__


「う…グッ!? …クハッ!!?」


敗者は跪き__


「あ…ああッ……!!」


 __勝者は血に染め上げられた手を、ただただ震わせていた。

 <『氷盾結界ひょうじゅんけっかい』と『フーカ』について>

 今回、氷戈が使用した『氷盾結界ひょうじゅんけっかい』だが、正確には根界オルドに於ける結界術の定義を満たしたものでは無い。

 通常、結界術を使用するためには基本源素である土元素への高い理解度を要する。しかし『絶対防御』を常に纏っている氷戈にアルマでの攻撃が効かないように、氷戈自身も基本源素に起因するあらゆる手段を利用出来ないのである。


 つまり『氷盾結界ひょうじゅんけっかい』とはその語呂の良さと、氷戈の中ではこのアルマは『結界っぽかった』という理由だけで勝手にそう名付けているのである。


 我成ガイナに於いても『自身を構成している鉄源素を流用して形作る武器』であるため、氷戈はどうやっても習得には至らない。

 なので今回登場した『フーカ』はガイナでは無い。

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