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▷現役主人公の物語Re▷  作者: 加藤 大生
『燈和=フラデリカ』編
38/47

『忘レ人』

 作戦会議前日、介戦学園『茈結』の本拠地裏にて_


 木漏れ日が程よく差し込む森の中、向かい合う二本の木の幹を背にして座り込む二つの影。

 途中気持ちの良い風が吹くと、周囲の静けさをより際立たせる。


 そんな中、エセ臭い関西弁が静寂を断った。


「いんやぁ、懐かしいもんやなぁ。もうじき一年になるんとちゃうか?」


「うん、そうだね....でも何でまたこんな所で?」


 リグレッドの言う『一年になる』というのは恐らく『氷戈がこの世界に来てから』と『氷戈とリグレッドが最初に()()()()で戦ってから』の二つの意があると思われる。

 リグレッドと『見つかった燈和らしき人物に会いに行けるか否か』を賭けて戦ったのが正にこの場所であった。


 当時は戦いに機転を利かせて勝利したが、今戦えばそんなことをせずとも余裕で勝てるだろう。

 この十ヶ月で氷戈の実力は飛躍的に伸びた。全ては『大事な幼馴染とまた一緒にバカをやるため』を原動力に、一日たりとも休まず修行や任務をこなした。

 結果、氷戈はたった十ヶ月で実力がものを言う介戦組織『茈結』の中でも中堅レベルにまで成長した。


 リグレッドはそんな氷戈をじっと見つめ、真剣な顔で告げた。


「ついさっき、フラミュー=デリッツがとある国へ宣戦布告しおった」


「なっ!!フラミュー=デリッツが⁉︎」


 思わず立ち上がる。


「落ち着きぃや...これはボクの予想やがフラデリカ、もとい燈和ちゃんも確実に参加してくると踏んどる」


 ゴクリ...


 氷戈は固唾を呑んだ。

 ここまでの間、氷戈はリグレッドへ『燈和を取り戻すためにフラミュー=デリッツへ行かせてくれ』と幾度も懇願してきたのだがその度に却下され続けてきた。加えてリグレッドの方から燈和関連の情報を口にすることはただの一度も無かったからである。


「ほんでボクら『茈結』はその国の防衛に手を貸そうと思うとる。言うなれば『対フラミュー=デリッツ防衛作戦』やな。・・・内容としてはウチから少数精鋭の部隊を編成し派遣する形で援助、て考えとるワケやが_」


「じゃあ俺がッ‼︎」


 氷戈は思わず前のめる。

 リグレッドは座りながら「どーどー」と、これをいなしながら言った。


「当然氷戈、自分にも行ってもらお思うとる。・・・せやけど、今回ここに呼び出したんはまた別の事を伝えたかったからや」


「別の事...?」


 リグレッドは頷き、そのまま続ける。


「正直『対フラミュー=デリッツ防衛作戦』は表向きの作戦や。ウチのメンバー達にはもちろんやが、マーべラットやウチと関わりのある国に対する『正式にフラミュー=デリッツと一戦交える』という示しの意の部分が大きい....お分かりかい?」


「ええっと....つまり『フラミュー=デリッツと戦う口実』的な意味?」


「正にそうや、これで表立って燈和ちゃんを助けに行けるってな訳やな」


「ッ⁉︎リグレッド....」


 氷戈はリグレッドがそこまで考えてくれているとは思っていなかったので、不意をつかれ感動してしまう。

 リグレッドはこの様子を見て少し笑うも、すぐに真剣な面持ちで言った。


「しっかし参ったことに、()()()が見えたんよなぁ...」


「え?色?」


 氷戈は怪訝そうに首を傾げた。まぁ確かに意味はわからない。


 するとリグレッドは突如として立ち上がり、自身の左目を指差す。するとその灰色の虹彩に、うっすらと『銃の照準』のような紋様が浮かび上がってきたのだ。


「うあ⁉︎何だソレかっけぇ‼︎○輪眼じゃん⁉︎」


「あら、見せるんは初めてやったっけ?」


 氷戈は興味津々に頷く。


「こいつは『析眼せきがん』言うてな?『見た者のカーマの内容や源術アルマにおける源素の動き方、源素の種類などを()()()()()()()』っちゅう優れもんや。初めて会うた時に自分の持っとるカーマがどないなもんか分かっとったのはこれのおかげや。貰いもんやけどな」


「ますますうち○一族じゃねぇか⁉︎」


 氷戈のテンションに若干引きながらも、リグレッドは続ける。


「ま、まぁこの析眼とボクのカーマ『絶対記憶』を併用することで色んなことが出来るようになるんやが、そないなことはどうでもエエ。・・・見えたんよ、色が」


「・・・?だから、何のさ?」


「燈和ちゃんを()()()や」


「え?どういう?」


「ちょっと前に直で燈和ちゃん、いんや、この場合はフラデリカって言うた方がエエか....要するに彼女を見てきたんや」


「えッ、いつ⁉︎なんで⁉︎」


「この前フラミュー=デリッツが遠征に出おった時にコッソリな。燈和ちゃんを取り戻すには彼女や敵さん幹部達のカーマの有無やその詳細、基本源素量を把握しておきたくてな?いやぁ凄かったでー、燈和ちゃんの源素量。彼女のがダムならボクは犬コロの小便やなガハハってじゃかしぃわ阿呆」


「そ、そう...」


 氷戈は唐突のノリツッコミに若干引きながら応じるも、当のリグレッドは全く気にしていないようだ。


「ほんでな?彼女の持つカーマや基本源素量については分かったんやが、さらに色々と見えてきたんや」


「と、言いますと?」


「まず初めに彼女は『超然洗脳』の影響下にある、これは確定や。・・・せやけどその下に、もう一つまた別の『色』が見えた」


 氷戈は考える。


 『超然洗脳』


 どこかで聞いた事あるワードだと思ったが十ヶ月前、レベッカが殺される直前にサイジョウが口にしていた事を思い出す。

 が、その詳細までは知らなかったのでここで聞いてみることにした。


「ええっと、そもそもなんだけど『超然洗脳』ってなに?」


「ああ、説明がまだやったか。『超然洗脳』っちゅうんは一つ前のフラミュー=デリッツのトップ、『ヴァイシャ・アルロウ』が持つカーマの名前や。その効果は『洗脳した結果を()()()()()()()』ちゅうもの、控えめに言ってもバグや」


「え、何それ?横に...?」


「普通、洗脳言うたら()()()()()()()有効やろ?仮に対象の周りに仲間がったら、洗脳かけられた途端『あ、コイツおかしいな?』て違和感に気づけるんが普通や」


「うん、確かに。洗脳系の能力って仲間に頼らなきゃ基本解けないよね?そこが強みであり、弱みでもありそうでけど」


 氷戈は隠界イルドで見ていたアニメやゲームに出てくる洗脳系の能力を思い出しながら言った。そしてそのどれもが非常に強力で、甚大な被害を出していたことをここで再認識する。


 リグレッドは氷戈の言葉に対し不思議そうな顔をするも、気にせず続けた。


「?・・・まあエエわ。ほんでこの『超然洗脳』の場合はやな、結論から言うたら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のや。対象の()()()()()()()()()()()()()から、異変が異変じゃ無くなるんよ」


「え、そんなのぶっ壊れじゃんか。洗脳にかけられても自他共に気付けない....いや、()()()()()()()()()ってことじゃ無いの?それ」


「気付く余地すら無い、正しくそうや」


 氷戈は「めっちゃカッコいい能力だな」と内心思いつつも、途端にピンと来た。


「・・・そうか!そしたらそのヴァイシャって奴がこの世界に来て間もない燈和に『お前はレベッカの妹のフラデリカである』という洗脳をかければ__」

「__燈和ちゃんは『フラミュー=デリッツ出身のフラデリカ』となり、周りの連中も燈和ちゃんを『レベッカの妹』として認識するよになる、てな訳や」


 リグレッドは続け様に解説する。


「そないにして、元からレベッカを知っとった人間にはもれなく『レベッカにはフラデリカなる妹が居る』っちゅう記憶が定着した....当時、ウィスタリアのお偉いさんが既にフラデリカを知っとったんはその影響ってことやんな」


「なるほど....」


 氷戈はようやく『なぜ燈和が自分をフラデリカと自称するのか』という謎が解け、ホッとした。


 しかし、疑問も残る。


「けどさ、ヴァイシャは何でそんな事したのさ?何かメリットがあったのか...?」


 この当然の質問にリグレッドは答える。


「それはな、燈和ちゃんが『忘レ人』だからや」


「わすれびと....ん?」


 今度こそ知らないワードだろうと思ったが、またもや聞き覚えがあった。


「氷戈も『茈結ウチ』に来たてん頃は周りからよう言われとったんやないか?アホみたいな源素量やもんな、自分」


「あ、そうだった!」


 リグレッドのその言葉で思い出した。

 確かに氷戈は『茈結』に来て間もない頃、よく自分の基本源素量を制御しきれずに周囲を氷付けにしていた。これを見たメンバーからはドン引きされ「忘レ人並みだ」とよく評されていたのだった。


「その様子やと『忘レ人』が何かは知らんねやろ?」


「うん...」


 リグレッドは気まずそうに頷く氷戈を見て、解説を始める。


「『忘レ人』。ごく偶にこの世界に現れるんやが、共通する条件が三つある。一つは『ある日突然現れる』こと。二つ目は『圧倒的な基本源素量を有する』こと。そして三つ目はその名前の通り『それ以前の記憶を全て失っている』こと、や」


「記憶を...って」


 氷戈は唖然とする。

 もし仮に燈和が『忘レ人』であった場合、今まで一緒に過ごしてきた記憶を全て無くしていると言うことにになる。

 そんなの到底許容出来ないし、にわかには信じられなかった。


 ますます顔が曇っていく氷戈。

 これを見たリグレッドは慌てて話す。


「ほれほれ!最後まで聞きぃや!」


「え....あ、ああ」


 リグレッドのこの様子だと、何か手があるのだろう。

 氷戈は考えるのをやめる。


「『忘レ人』はな、記憶はあらへんがバケモン級な源素量のお陰でめちゃくちゃなポテンシャルを秘めとる。なんせ源素は()()()()()()()()()()()()()。その器がデカいってだけでフィジカルは強なるし、扱える源術アルマの規模やその出力までもがうんと高まる。・・・現にボクの知っとる『忘レ人』は皆、最強クラスの実力を持ち合わせとる」


「そうか....仮に燈和がその『忘レ人』だった場合、強大な戦力になる。ヴァイシャはそれを狙って超然洗脳をかけ、自分の国の配下に置いたって訳か」


「んまぁ大まかにはそうやが、まず誓って言えるんは『仮に』は間違いや。燈和ちゃんがかけられとる超然洗脳の下に見えた色、あれは確実に『忘レ人』のもんや」


「そ、そんな...」


 氷戈は一縷の願望もかけて『仮に』と言ったつもりであったが、それをバッサリと切り捨てられ項垂れる。なにせこれで燈和の記憶喪失は確定したようなものだ。

 ショックは計り知れないが、とはいえ実際に記憶を失っている彼女を見てはいないので実感が湧かないのも事実である。


 そんな心中の氷戈に、リグレッドは追い打ちをかけるように続ける。


「それに『忘レ人』の条件である『ある日突然現れる』、『圧倒的な基礎源素量』もクリアしとる。これが何よりの裏付けや。・・・ほんでもって『忘レ人』が記憶を取り戻した症例はあらへん」


「・・・」


()()()()、な?」


「え?」


 リグレッドの含みのある言葉に、氷戈は思わず顔を上げる。

 何やら不敵な笑みを浮かべるリグレッドは言う。


「氷戈....自分がどれだけ『特別な存在』か分かるか?」


「とく...べつ?俺が?」


「エエか?ボクの考えが正しければ、氷戈ジブンは『記憶を失わなかった忘レ人』。つまりはこの問題を解き明かすための最重要人物ってことや」


「ッ⁉︎俺が....忘レ人だって...!?」


 動揺を隠せない氷戈。


「長い歴史に広い世界...その中に居った『忘レ人』と呼ばれとるもん皆ーんな『別世界から来はった人間』と仮定することが出来るようになったんや。自分のお陰で、な?」


「な、何言って....」


 リグレッドは畳み掛ける。


「今までボクが見てきた忘レ人は例外なくさっき挙げた三つの特徴に当てはまり、彼らを覆う色も同じやった。それは燈和ちゃんも同じや。・・・せやのに燈和ちゃんと同じ世界、同じ時間、同じ場所から来おった氷戈にだけは記憶がある。おかしないか?」


「・・・」


「異端な、その彼が言いおったんや。『俺は別の世界から来た』ってな?・・・もう分かるんとちゃうか?」


 氷戈は小さく頷いた。


「俺のカーマ、『絶対防御』のおかげってことか....」


「ビンゴや」


 リグレッドは指をパチンと鳴らす。


 となると今の氷戈の状況はリグレッドの言う通り、かなり『特別』なのかもしれない。

 そう思うと氷戈は、どうにも興奮せずにはいられなかった。


 氷戈の中で点と点が繋がった今、ここからは早かった。


「こっから二つの推測が出来よる。『忘レ人が誰かに記憶そのものをイジられた』か、『この世界そのものに記憶を封じる呪いがかかっている』か、や」


「析眼で見える忘レ人独特の色は対象の体を覆うように見えてるんでしょ?それなら後者っぽいけど」


「せやな。析眼で見えたっちゅうことはカーマ由来の効果であることは確定やし、それなら自分が記憶を失っとらん理由にも説明がつく。このカーマの内容は...さしずめ『別世界から来はった人間の記憶を封じる膜』ってとこか」


「膜...か。そう言うふうに見えるの?」


「逆にそうにしか見えへんな。せやけど胴を真っ二つにされようが、腹に穴が開こうが破れん膜や。ボクの見てきた限りでは」


 リグレッドは少し寂しそうな顔をして言う。

 察するにリグレッドは過去、知り合いの忘レ人がそのような悲惨な状況に見舞われた瞬間を目撃しているのだろう。


 これを考えて勝手にテンションが下がる氷戈とは裏腹に、リグレッドは早口で続けるのだった。


「いつ、誰が、何のためにこないなことするのかは分からへん。世界そのものに影響を及ぼすカーマなんて聞いたことあらへんし、敢えて別世界の人間を対象にしとるんも謎のまんまや。・・・ただ一つ、分かっとることがある」


 リグレッドの大きく見開かれた灰色のまなこは映し出す。


 =世界の理に反した存在を。=


「氷戈...どうやら自分の持っとる『絶対防御カーマ』の優先度は、この世界規模級のカーマのそれよりも上らしいで。故に、このカーマに干渉出来うる唯一の人間や」


「・・・?」


 またもや含みのある言い方に首を傾げる氷戈。


 対するリグレッドは、少し溜め_


「・・・教えたる、燈和ちゃんの取り戻し方」


「えッ!!そんなこと出来るの⁉︎どうやって⁉︎」


 氷戈は詰め寄る。


 『幼馴染(燈和)を取り戻すこと』


 これは氷戈にとって何よりも優先することであり、何があっても成し遂げなければならないことである。

 氷戈にとって幼馴染(彼ら)は、負った心の傷を癒してくれた大事な存在だから。家族よりも大事な宝物だから。


「燈和ちゃんを取り戻す、最も確実な方法。・・・それは_」


 そんな彼らを取り戻すためなら、どんな苦痛にだって耐える自信がある。



 間違いなくあった、そのはずなのに_



「_()()()()()()()()()()()()()()。もちろん()()()()()、な?」


「・・・は?」


 木漏れ日が程よく差し込む森の中、向かい合う二本の木の幹を背にして佇む二つの影。

 撫でるように吹く気持ちの良い風は、誰かを嘲笑うかのように通り過ぎた。

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