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▷現役主人公の物語Re▷  作者: 加藤 大生
『燈和=フラデリカ』編
36/47

地獄の沙汰も熱次第

 キィン!!ガキィン!!


 目の前では間違いなく、この世界でも上澄みレベルの戦闘が繰り広げられている。

 にもかかわらず、本作の主人公である氷戈君はただ突っ立ってそれを眺めているだけである。


「ギルバートのやつ、本当に強いじゃんか....」


 紫色の長い髪を華麗に舞わせ、激しくせめぎ合う姿を見て思わずそんな声が漏れる。

 実際ギルバートが戦っている相手も相手で多くの国に名を馳せるほどの実力者であるが、これと互角の勝負をしているのだからとんでもない。


 ギルバートとラヴァルドは互いの武器をぶつけ合った反動で距離を置き、そこで一旦戦いが止む。


「ケッ、近接戦じゃあ埒が明かねェとはなァ...テメェ一体何者だ?」


「ふん、罪人に何かを答えてやる情は持ち合わせておらぬ」


 ラヴァルドの問いを一蹴するギルバート。

 先ほどクラミィを殺そうとしたことに相当(いか)っているのだろうが、まあ無理も無い。


「ヘッ、冷てェじゃんかよオイ...オマケに雨は降るし、氷使いのガキも居るしでよォ...見りゃ分かんだろ?オレ様は冷てェのが苦手なんだよ」


「安心するが良い、地獄には熱いものが多いと聞くぞ?」


「ケッ、抜かしてろ....とはいえ、だいたい予想はできてンだ。二人を連れて逃げたヒョロガリが『陛下』って呼んでたり、我成ガイナも王笏と言ったなァ?つまるところテメェ、どっかの王様だろ?」


「そこまで分かっていて、他に何が知りたいというのだ」


「アン?ンなんテメェがどこの国の王サマかだろ」


「ふむ...往々に名を馳せていると自負しておったが、フラミュー=デリッツの第四席様が存じておらぬとなると余もまだまだのようだ。そうだな...それでは目の前のNo.4(フィアンス)様でも手にかけて、この名を更に広めることとしよう」


「ケッ、あくまでまともには応じねェってか?シケた野郎だぜ」


 ラヴァルドは少しいじけたように言うが、すぐに調子を取り戻す。


「けどまァ、テメェが『どっかの王様』って分かっただけで十分だけどなァ?ククク、ケケケッ...」


 不気味に笑うラヴァルドだが、その顔はまるで新しいオモチャを与えられた子どものようにとても無邪気なものであった。

 これには怒りに燃えるギルバートも若干引いている様子だ。


「・・・余がどこぞの王だと分かり、それの何が可笑しい。貴様にはなんの関係もないことだろう」


「関係もないだァ?バカ言え大アリだ。これから殺る相手様のご身分ってのは一番大事なもンだろ?」


「・・・?」


「だってよォお?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってもンだろ?もっと気持ちよくさせてくれよォッ!?」


「ッ⁉︎気狂いめが!」


 ガキンッ!!


 外道発言をした直後、ラヴァルドは待ちきれなくなったという様子でギルバートへ斬りかかる。

 ギルバートはこの奇襲の防御には成功するも、大きく吹き飛ばされてしまった。

 ラヴァルドはそこへ畳み掛ける形で_


「コイツはもっと大勢が居るところで使いたかったが、仕方ねェだロ....王様の命を奪うのが、有象無象の命を奪う何倍気持ちいいかッ!?ワクワクして止めらんねェ!!」


 テンションMAXで叫んだラヴァルドは、刃へと変形した右手を勢いよく地面へ突き刺す。と、同時に唱える。


「噴き荒れろ、『皆溶岩漿域アルツェ・ス・マギオン』!!」


 ゴゴゴゴゴゴ.....!!!!


 徐々に強まる地響きと共に、地面が揺れ始めたのだ。


「なんだ⁉︎」

「うあっ⁉︎」


 ギルバートと氷戈は、驚きで声を上げる。

 立っているのがやっとな程の揺れで、二人はよろけながらもラヴァルドの方へ目をやる。

 すると彼を中心に無数の地割れが四方八方に広がり、大地を裂き始めたのである。


『大地の崩落』


 ラヴァルドはまさにそのような状態をたった一人で引き起こしたのである。これが四天シュピツェルの実力なのか。


 地割れは問答無用で二人の足を奪う。


 ギルバートは手に持つ王笏と、華麗な身のこなしでなんとか転倒は避けたものの依然苦しい顔を続ける。

 一方氷戈は身体を支えるモノを持ち合わせていなかったため、四つん這いになり身動きが取れない状態になってしまう。


「くっそッ...」


 容赦無く広がる地割れに呑まれるのは時間の問題であった。


 -『じわれ』って一撃必殺だったよな!?じゃあ普通に死ぬじゃんヤバいって!! しかもこれ命中三割ってレベルじゃないよね必中だよね...?今すぐひこうタイプに生まれ変わるか特性『ふゆう』にでもならないと....ん?-



 ここで氷戈は何かを思い付く。


 氷戈は決死の覚悟で立ち上がり、低いながらもジャンプをした。無事な着地など眼中にない、本当に一度限りのジャンプである。


「とうっ!」


 地から足が離れた、その瞬間に六角形の氷の板を自身の足元に形成させたのだ。


 ドテっ!

「痛っ!」


 とても両足で着地できるような体勢ではなかったため、勢いよく転倒し尻餅をついた。


 しかし()()は揺れも無ければ、地割れに怯えることもない。『崩落』から隔絶された安全な床の上に氷戈は居た。


 一安心した氷戈は浮いた氷の板の上で立ち上がり、周囲の状況を確認した。

 すると事態は次の段階へと移りかけていた。


「オイオイ王様よォッ⁉︎まさかこんなもんで終わりだと思ってねェよなァ⁉︎」


 ラヴァルドは地震と地割れに悪戦苦闘するギルバートを嘲笑するように言うと、これに呼応するように大地から煙のようなものが上がり始めたのである。


「クッ、なんだ⁉︎これは....まさかッ⁉︎」


 ギルバートは何かを察し、目に見えて焦り始める。

 そんなことはお構いなしに煙の量は増えていき、そして_


 グゥォォォオオオオオン‼︎


 無数に広がる地面の裂け目から、一斉にマグマが噴き出したのである。このまま地上に居ては足元がマグマで埋め尽くされ、溶け死ぬのは必至である。


「おのれッ!!?」


 定まらない足場に、逃げ場の無い周囲。

 どうしようもない状況に、怒りと焦りを露わにするギルバート。


 そこへ氷戈は叫ぶ。


「おーい、ギルバート!!思いっきり高く飛ぶんだ、早くッ!!」


 ギルバートは言われた通りマグマに呑まれる、その直前に十数メートル近くも飛んでみせた。

 王笏の先を地面に向けており、どうやら風の源術アルマの反動で高く浮かび上がったらしい。

 しかしやがて反動が失せ、地に落ちれば死ぬのは変わらない。一度しか使えない、たった数秒間の延命措置であった。


 氷戈が浮かび上がったギルバートの足場に氷の床を生成するまでは。


「なんと!」

「あン⁉︎なんだそりャ⁉︎」


 突如出現した浮かぶ氷にギルバートとラヴァルドは驚く。特にラヴァルドは勝利を確信していたがために、驚愕している様子だ。


 ところが二人は『宙に氷の足場を作って凌ぐ』という発想に驚いている訳では無かった。そもそもこの状況で『氷の足場を作ること』自体がおかしなことなのだ。


 本来、固形物を源素によって生成する場合はある程度の時間を要し、況してやそれを長く宙に留めておくことは出来ないはずなのである。

 つまるところ、今回の足場の件や『源素で作った氷を盾にして敵の攻撃を()()()防ぐ』という行為自体がそもそもおかしな話なのである。


 だが、氷戈は例外であった。


 なぜなら彼は『圧倒的な基本源素量』を有するからである。これにより氷戈の固形物()を生成する出力は他とは桁違いとなり、以上のような芸当を無理やり可能とさせているのである。


 よってこのことを知らない二人は通常ではありえない技を目の当たりにして愕然としたのである。


 噴き出たマグマは一瞬にして地面を覆い尽くし、辺りを赤く染めてしまう。そに熱から生じる煙と、降る雨が蒸発して生じる水蒸気とが合わさり視界は白く染め上げられる。本当に地獄のような光景である。


「ふぅ...」


 窮地を凌いだ氷戈は安堵のため息を漏らすと、遠くからラヴァルドが問い詰める。


「おい、アレはテメェの仕業か?ま、その足場見れば聞くまでもネェか」


 氷戈の足元に広がる氷の床を見て自己完結すると、今度は声を荒げる。


「毎度毎度テメェはよォ...オレ様の楽しみの邪魔してんじゃあネェぞクソガキがッ!!先ずはテメェからブチ殺してやらァ!?」


 幾度も自身の攻撃を防がれ激昂したラヴァルドの標的ターゲットは氷戈へと定まり、足元のマグマを跳ね除け突撃してくるのだった。


「うあ⁉︎こっち来た‼︎」


 殺意の塊が自身を目掛けて来るので、情けない叫びを上げる氷戈。てかなんでマグマの中歩けるんだよ。


 そんな中、上空に居るギルバートが声をかける。


「助かったぞヒョウカよ!・・・しかしもう良い、今其方の()()を知られては全て水の泡であろう‼︎」


「っ....」


 この言葉を聞いて、氷戈は何かを考えたようだったが直ぐに頷き_


「分かった、コイツはギルバートに任せるよ!」


 そう言った頃にはラヴァルドはほんの数メートルのところにまで迫っていた。

 間もなくラヴァルドが振りかざした我成ガイナが氷戈を捉えようとした。


「死にやがれェ‼︎」

「寿命以外で死ぬのは御免なんでね、じゃあの〜」


 ______。


「なッ...んだと...?」


 そうして生じたのは『無』であった。


 実際には氷戈は自身を氷のドームで覆いラヴァルドの攻撃を防いだのだが、それならそれで衝撃音が響くはずである。それどころかガイナと氷がぶつかった時の()()()()()()が無かったのである。


 氷の壁は十数センチ程あり、かなり分厚いが互いを確認できるほどの透明度を誇っている。

 またも驚くラヴァルドへ向けて氷戈は満面の笑みを送り、変顔をして煽り散らかすのだった。


「ちっくしょッ‼︎どうなってやがるんだこの氷はッ⁉︎」


 これにまんまと乗っかったラヴァルドは再度自身の大きなガイナで切りつけようとするが結果は同じく、生じるのは『無』のみ。十数回ほど試した末、遂に諦めたのかおとなしくなる。


「なんだってんだ....そもそも当たってねェのか?」


徳位装術とくいそうじゅつ風帯かざおび』...」


「ア?」

 

 ただならぬ雰囲気を醸すのは、氷上に佇むギルバートであった。

 『我成ガイナ』とは、五つある源素「木(風)」「火」「土」「金(鉄鋼)」「水」の内、『金(鉄鋼)』の要素を使用して形成される武器のこと。


 主成分が金の源素である以上、源素を元にして放たれる源術アルマと基本的な構造は同じ。つまり源術アルマを問答無用で無効化する氷戈には我成ガイナによる攻撃も一切通らないのである。逆にそこらへんに転がっている天然の鉄で作られた剣での攻撃は通る。

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