No.4(フィアンス)
「アァん?なんだありゃ」
『あれ』が指しているのは間違いなく、爆発跡から出現した青く輝くドームのことだろう。
その疑問に答えるかのようにドームはパリパリと音をたてて割れていき、それが氷で形成されていたのだと教えてくれる。
やがて中から無傷の一行が姿を見せるのであった。
「あァ!?アレを防いだってのか?どんだけ硬ェんだよクソがッ‼︎」
「『縁を以て友を成す』がモットーなんでね、俺の前で仲間は死なせない....」
氷戈はそんな事を口にした。
これは学校に通っていた頃、つまりは隠界においての氷戈のモットーであり、意味は『自然な縁から出来た友達はより大切に』というものだ。
この世界に来てからは不思議と感じさせないが、元より氷戈はちょっとしたコミュ障であり、友達と言える友達は幼馴染の彼らしか居なかったのは事実だ。
このことも燈和への執着に繋がっていると言えよう。
そしてこの世界に来て大事な幼馴染を全員失っている辺り、モットーである『友は大切に』という想いはより強まっているのである。
「ア?なァに訳分かんねェ事言ってやがる」
「そっちこそ不意打ちに加えて初見殺しだなんて、バトル漫画に於けるマナーがなって無いんじゃないの?てか誰さ、あんた?」
氷戈は毅然と問う。
赤と黒が入り混じった短髪を熱風に靡かせ、その男は答える。
「ケケっ!!まァちっとは釣り合いそうだから教えといてやるか。・・・オレ様はラヴァルド・ケラー、No.4の名を冠する者だ」
「ん?フィアンスってことは...え、四番手ってこと?」
氷戈は作戦会議時に開催されたフラミュー=デリッツ式強さ順名称講座の内容を思い出しながら、恐る恐る聞いた。
「そうですね....十人しか選ばれないフラミュー=デリッツ最強の騎士団『十位之焔』の内、上位四位を四天と言って、中でも秀でた実力を持つとされてます。よりにもよってそんな奴と出くわすなんて、相変わらずツイてない...」
アゾットが頭を抱えながらも、氷戈に答えてくれた。
-え、それって不味くない?-
氷戈は目の前にいる相手が四天の内の一人である事が確定した瞬間、会議でのリグレッドの言葉を思い出した。
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「_んな訳で、結果的に敵さんは量より質で攻めてくると踏んどる。せやからウチも少数精鋭で挑む。とは言え、向こうが仮に数で勝負を仕掛けてきてもエエようにラビさんは欠かせんけどな」
「まぁそれに関しても筋は通っている、行ってやろうじゃないか」
「おおきに。ほんでもって、戦場となるマーべラット周辺が激しい源素の奔流に覆われとる影響で源術の正常な発動が難しい。このことを加味して肉弾戦の強いフィズとイサギさんも確定や、おめでとさん」
「ワタシの扱い、雑じゃナい?」
「チッ、死ねや」
「そ、そんな訳でここにフラデリカに当たる氷戈とその護衛でるギル、急遽参加となったオリバーを加えた計六名を茈結から派遣する予定や。残りの面子は生徒も含め全員、作戦終了までウィスタリアで待機してもらお思うてる。万が一のラヴァスティからのウィスタリア奇襲へ備えてな」
「おお!!それであれば余が国を離れても安全であるな!」
「まぁそゆことにしといたるわ。本題は確定しているフラデリカ以外の誰が参戦してくるか、や。先に言うとくがフラデリカの属する最高位騎士団『十位之焔』にはバケモンしかおらんで」
「余も聞いた事がある。特に上から四番目まではその一人ひとりが一騎当千の実力を持ち、四人が集まれば一国をも落とせると言われておるな」
「せやなぁ、流石は実力至上主義国家といったところや。・・・ほんで今回はその四人、向こうの言い方で言うんなら四天の連中が全員出てくる事だって有り得る訳や...文字通り、国一つを落としに来とる訳やからな」
「・・・」
「ナッハハ、自分らそないに深刻な顔せんとってやぁ!あくまで最悪のケースやで?長い歴史の中でも四天全員出撃ッ!!なんてのは片手で数える程度にしかあらへんのやから」
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-いや、不味いじゃん!!-
思い返せば返すほど、それしか考えられない。が、同時に希望も見える。
-でもこっちにはギルバートとアゾットさんもいる。流石に三対一ならどうにでもなるんじゃないか?-
このような考えを巡らせる氷戈に変わってギルバートが問う。
「余に無礼を働いた罪人よ、フラデリカは何処に居る?」
「あン?フラデリカだァあ?・・・ん?ってことはもしかして、フラデリカの野郎が探してるっていう青髪のガキってテメェのことか!?」
ラヴァルドは氷戈を指差し、言う。
「やっぱり俺を狙って来てるんだな、ここに...良かっ_!?」
ガキィィン!!
目の前には、先ほどまで無かったギルバートの背中があった。
一瞬何が起きたか分からなかったが、どうやらラヴァルドが自分目掛けて突っ込んできた所をギルバートが守ってくれたらしい。
互いに、いつ抜いたか分からない剣で押し合いをしていた。
「ケッ!」
そう吐き捨てると、ラヴァルドは一旦距離を取った。
「あのムカつく野郎の計画を狂わせてやろうと思ったのによォ。・・・にしてもテメェ、オレ様の速度について来られるたァ驚いたぜ」
「ふん」
ギルバートはラヴァルドに対し呆れたような反応を示すと、目線だけ氷戈に向けて言った。
「ヒョウカよ、フラデリカが居なくともここは既に戦場であるぞ。気を抜くでない」
「うん...ごめん、ありがとう」
「うむ。・・・それとアゾットよ、ラミィとヴェルナーを連れマーべラットの本拠地へ行くのだ」
アゾットは氷戈の後ろで腰を抜かしたクラミィを見てから言う。
「・・・陛下は、如何なされるのですか?」
「余はあの無礼者を処罰する」
「いけません。であれば護衛である私が奴と戦いま_」
「ごちゃごちゃうるェぞゴミども‼︎気ィ抜いてんのはどっちだァ!?『溶岩錐殺』!!」
会話をさせる気など毛頭ないのだろう。ラヴァルドはまたもや奇襲に出た。これがリアルの殺し合いである。
詠唱と共に、氷戈含め五人の居るちょうど中央の辺りに巨大な円錐状の岩が地中から生えて来たのだ。その速度は非常に早く、当たれば串刺しは免れない。
危機を察した氷戈、ギルバート、アゾットはそれぞれ別の方向へ回避できたが、腰を抜かしたクラミィと洗脳中のヴェルナは動いてはいない。だが、当たってもいない。結果だけ見れば、ただ五人が岩によって分断されただけである。
しかしどうにも、これが目的だったらしく。
「まずは雑魚そうなテメェからだ‼︎」
いつの間にかクラミィの前に移動したラヴァルドは、人差し指を彼女へ向け_
「死ね、『岩漿熱線』」
「ひッ...」
「ラミィっ‼︎」
クラミィの悲鳴にもならない悲鳴を掻き消し、ラヴァルドの指先からは目にも止まらない速度で赤い光線が放たれる。
ギルバートは妹の名を叫ぶも、岩に阻まれクラミィとは対角に居るため物理的に助けに行くのが不可能であった。
待ち受ける惨劇は必至か。
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暫しの静寂の末に、主人公は言う。
「言ったよな、『仲間は死なせない』って」
「チッ!!またテメェか青髪」
クラミィの前には氷の盾が作られており、熱線の直撃を防いでいたのだ。
氷戈はその場から動いてはいないが、片手をその場にかざすことで瞬時に盾を形成したのだ。
その後、間髪を入れずに王が唸る。
「ぬんッ‼︎」
「クッ!?」
ドォォーン‼︎
ラヴァルドは突然の頭上からの攻撃を交わす。
岩を飛び越えて来たギルバートが剣を思いっきり振り下ろしたのだ。
舞う砂埃の中からギルバートは鬼の形相で咆哮する。
「貴様はもう許さんぞ、ラヴァルド‼︎余が直々に切り伏せてやろう‼︎」
雄叫びを上げるギルバートを見て、ラヴァルドはニヤつきながら返す。
「ケケっ!!いいじゃねェか!!威勢の良い奴の死はより際立つ、もっと吼えろよ?」
二人は一触即発の雰囲気である。
この中でギルバートは短く言い放つ。
「アゾット、二人を頼むぞ」
「ッ....はい、承知しました。直ぐに戻ります、どうかご無事で」
渋々の承諾ではあったが、状況が状況なだけにアゾットはすぐに二人を抱えマーべラットの方へ去っていった。
ギルバートは、それを確認すると静かに言い放つ。
「さて...罪に塗れたその身を、王である余が直々に裁いてやろう。・・・来い、王笏『罪ニハ罪ヲ』」
その言葉と共に、ギルバートの右手には紫色に輝く神秘的な造形の杖がゆっくりと顕現した。
これを境に、周囲には凄まじい圧が広まる。その出所はギルバート本人からか、握る王笏からか、はたまた両方からか。
しかしラヴァルドはこれにも怖けず、むしろ笑みを溢した。
「いきなり我成を出してくるたァ、随分と暖まってんなァおい⁉︎だったらこっちも行くぜ....『焼キ削ル者』‼︎」
こちらは言葉と共に、右手そのものに変化が生じる。
右腕の肘から下がみるみる変形し、巨大な焼き焦がれた包丁のような形となったのだ。溶岩で作られたそれは、肉を削ぎ、人を殺めるための形をしていた。
静かに王笏を握るギルバートと自身の腕を巨大な刃に変えて前傾姿勢に構えるラヴァルド。
両者の臨戦体制がそう長くは続くはずも無く_
「行くぞ、罪人‼︎」
「死ねや雑魚がッ‼︎」
本作の主人公さんを差し置いて、上澄み二人の本気バトルが始まるのであった。




