怨は仇で返す
「ふむ...つまりラミィちゃんを探し回ってあちこちしていたお目付け役君が偶然オリバーと鉢合わせ、事情を話していたところうっかり口を滑らせてしまったと....」
「ことのあらましとしてはそんなところだ」
今氷戈たちが居るのは、マーべラット国中央に位置する宮殿である。
宮殿とはいっても国の面積に比例して建物は小さく、装飾もそこまで豪華というほどでは無い。
目の前には玉座、そこへ続く床には厳かな紫色のカーペットが敷かれており、ここは言うところの『謁見の間』なのだろう。
目の前で繰り広げられているのは国のトップ同士による対談であり、ギルバートが話している相手こそマーべラットの『アイネス・ルーク・オルヴァリア』国王である。
薄い水色の髪を伸ばす物腰の柔らかそうな雰囲気の彼からは、ギルバートとは違い『ザ・国王』というオーラをあまり感じられない。
あの作戦会議から三日後の今日、作戦のため茈結から送り出された氷戈、オリバー、フィズ、イサギ、アビゲイラ、ギルバートとその護衛である『アゾット』という人物を含めた計七人はマーべラットへ到着した。
そして現在、アイネスと対面した一行は『オリバーがここに居る理由』について言及されている最中なのである。
「この件に於ける責任の全ては余にある、どうかリグを責めないでやってほしいのだ」
「俺からもお願いします、叔父さん。リグレッドさんは最後まで約束を守ろうとしていた...俺は俺のわがままでここへ来たんだ!!」
ギルバートとオリバーによるリグレッドへの熱い擁護を聞いたアイネスは二人を宥めた。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて....別に怒ってないからさ、僕は」
どこか含みのある言い方をしたアイネスは、あっさりと話題を切り替えた。
「それよりも...僕が気になっているのは君の方だよ、ギル。どうして君がここに居るんだい?」
「余の犯した罪を清算するためには、余自身が動かねばならん....そういうことだ」
「え?どういうこと?」
ちょっとカッコをつけたギルバートへアイネスは純粋無垢に聞き返す。
これにギルバートは少し間を置き、咳払いから入った。
「・・・ゴホンっ、つまりは余もマーべラットを守る為に加勢しようと申しているのだ」
「え...ええッ!?それは困るよ!!」
「何?余では力不足だとでも言いたいのか?」
「いや、そうじゃなくってさ....」
歯切れが悪そうに言うアイネスは一言、こう続けた。
「死なないでね?とっっっっっっっても面倒なことになるからさ....僕が」
「戯け、そこらの落とし前くらい自分でつけれるわ....それとも、貴殿の知る余はそんなに無責任か?」
「うーん...無責任というか無計画、かな?」
「なっ!余が無計画だと!?此度の作戦への参画も綿密な計画のもとに_」
カッとなったギルバートは反論を試みるも、彼の隣に居る側近のアゾットに阻止される。
「なーに言ってるんですか。陛下の無茶振りのせいで到着が一日遅れたんじゃないですか」
この言葉に茈結のメンバーはもれなく頷く。
横一列に並んだ頷き顔にギルバートは気まずそうにする。
「ああ、それで遅れたんだね?それじゃあそのツケも払ってもらわないとかな?ところで、オリバーに作戦バラしちゃったっていうのは君かい?見たところそんなドジを踏むような子には見えないけども」
アイネスは優しく言っているつもりなのだろうが、実は結構根に持っているのでは無いかと疑わせる言い方をする。
これに対しアゾットは跪き、丁寧に応対する。
「申し遅れました、私はウィスタリア国準王騎士団団長のアゾット・ヴァリタスと申します。ご質問にお答えいたしますと、情報を漏洩させたのは同じく準王騎士団の副団長を務めるヴェルナー・モルトレーデという者です。この度、私めの統括する組織の者が犯した非礼をお詫びするべく参上いたしました。大変申し訳ございませんでした」
「いやいや、いいって頭上げてよ...僕はただ誰にも死んでほしくないってだけだからさ(面倒だから)」
ボソッと本音が聞こえたような気もするが、それは置いておこう。
アイネスは続ける。
「しかしなるほど、君が噂に聞いていたアゾット君なんだ」
「噂...と申しますと?」
「ギルがマーべラットに来る時は必ずエミル君を連れてくるでしょう?その時に彼からよく君の名前を聞くんだよ、とても優秀だってね」
「っ....恐れ入ります」
「ガッハッハ!!照れんでも良いぞアゾット!!其方がエミルの代わりにここに居る、それだけで其方の優秀さは証明されているだろう!!」
鼻が高いのか、ギルバートはアゾットの肩をバシバシ叩いて言う。
そんな様子を苦笑いしながら見ていたアイネスは、ようやくこちらへ目線を向けるのであった。
「ああ、ごめんね....こっちで盛り上がっちゃって。改めまして、僕はアイネス・ルーク・オルヴァリア。今回は僕の国の援軍に来てくれてありがとう、とても心強いよ」
「おう、俺はイサぐぶォ!?」
イサギが代表して応じようとしたところへ、アビゲイラがその顔を強引に押し除けて代わりに答えた。
「こちらこそマーべラット防衛の任を我々茈結に委ねていただきましたこと、光栄の至りと存じます」
「あっはは...いいよ、そんなに畏まらなくて。さ、立ち話もなんだしお茶をしながら話し合おうじゃあないか...明後日の作戦と、この国の抱える秘密について_」
アイネスは笑って言うと、別の部屋へ案内すべく足を動かした。
一行はギルバートを先頭に一列で彼に続いた。これからマーべラット陣営と本格的に計画を詰めていくのだろう。
氷戈はここで改めて実感する。
明後日には国対国の戦争が始まるということ。
その作戦の一角に自分が居ること。
なにより『燈和を殺して、燈和に会える』ということ。
この二年、それだけを考えて血の滲むような努力をしてきた。死ぬ思いで修行し、多くの任務に出て実際に何度も死にかけた。
過去のトラウマのせいで『死』に人一倍恐怖感があるのは自覚している。『死』が過ぎるたびに、思い出してしまうから。今でもそれは変わらない。
けど。それでも、だ。
やらなくちゃいけない。会わなくちゃいけない。取り戻さなくちゃいけない。
「俺の...宝物だから」
「ん?何か言ったか?」
前を歩いていたイサギが聞く。
「明日...絶対勝ちましょうね」
イサギはいつにもなく真剣な教え子の姿を見て目を丸くするも、珍しく笑って肩を叩いた。
「へっ、そういうのは当日に言うんだよバカたれが」
「痛っ!?せ、先生は手加減知らないんですから勘弁してくださいよ...」
「ん?どうやら鍛えが足らんようだな?帰ったらオリバーと一緒にキッチリとシゴいてやるから覚悟しておけよ」
「俺はどっから生えてきたんスかね?」
こうして一行は午後の残りの時間全てをマーべラット軍との合同作戦会議へと費やしたのだった。
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同刻、フラミュー=デリッツにて_
薄暗い空間の中、数名が向かい合わせで黙座する。
その数は九。中央には白く大きな長机が佇み、それはここが会議室であることを決定付けるほどの存在感である。
ただただと重苦しい空気が流れる中へ一筋の光が差し、消える。
扉から入ってきたのは白髪で長身の男であった。
歩きながら、彼は一言_
「_遅くなってしまった、申し訳ない」
「いえ、とんでもないです。我々は元首である貴方様の忠実なる配下。我らに謝罪など...」
「よい、フラデリカ....貴殿らには苦労をかける」
「アルムガルド様....」
そのやりとりが済むと、アルムガルドは長机の前方にある椅子に着いた。
「フラミュー=デリッツ最高位焔騎士団『十位之焔』の諸君....忙しい中集まってくれたことを感謝する」
彼は目を瞑り、言った。
「諸君らも知っての通り明後日の早朝、資源国家マーべラットへ我が国の戦力の過半数を送り込み、これを制圧、略奪する計画を実行する....のだが、それにあたって幾つか変更点が生じたのでこの場をもって共有したい」
「んぇ?こんな直前に変更ですかぁ?どんな内容なのかぁ、気になりますねぇ?」
「うるさいぞアイシャ、それを今説明してくださるんだろうが」
「あん?プロイス、テメェNo.10如きがNo.6のオレに指図してんじゃねェコロすぞ」
『アイシャ』と呼ばれた女性は二重人格を極めたかのような豹変ぶりであるが、プロイスはこれに全く動じない。
「フン、4から下の順列に大した意味は無いだろうがよ...そんなんで威張ってんじゃねぇよバカ」
「あッンダト!?」
「君たち、やめたまえ。仮にも最高位騎士団に属しているという自覚はないのかい?」
「あぁんヘルンちゃん、ごめんなさぁい...」「すんません...」
第三者の『ヘルン』が仲裁に入り事なきを得たが、このままいっていればこの場は確実に火の海になっていただろう。
「仲裁に感謝する、ヘルンフォード卿」
「いえ、当然のことをしたまでですよ。しかしアルムガルド様も偶にはガツンと言っても良いんですよ?貴方は優しすぎます」
「肝に銘じるとしよう。・・・さて、無駄話はここまでにして本題に移る」
あくまでポーカーフェイスなのはいつも通り。だが声色を少し低くして切り出す。
「まず一つ目の変更点だ。事前に共有していた作戦内容では『第五席以下の十位之焔がそれぞれ六つの小隊を組み六方位から進軍、第四席以上は状況に応じた単独進行』とあったがこれを『フラデリカ第二席、ラヴァルド第四席、プロイス第十席、そして私による計四名での単独進行』へ変更とする」
「え?」
「ほう?」
「へッ!!いいじゃねェか!!」
「・・・」
「ふぇえ?」
「なんと!」
「へー」
「__」
「なッ!?」
第二席から第十席の九名がそれぞれの反応を見せた。
中でも疑問を抱いた者は半数ほどであり、これを代表してフラデリカが問う。
「アルムガルド様...幾ら四天の内三名を組み込んだとはいえ、たった四人でのマーべラット攻略は難しいかと....僭越ながら、その様な変更へと至った経緯をお教えいただけないでしょうか?」
「フラミュー=デリッツという国の名誉を守る為_」
「ッ!?」
「_そして何より彼の英華フレイラルダ=レベッカの仇を貴殿、フレイラルダ=フラデリカが取らねばならないからだ」
「な、なにを....?」
今度はこの場にいる誰もが驚き反応を示すのだった。
☆登場人物図鑑 No.21
・『オリバー・ルーン』
茈結所属/17歳/169cm/63kg/欲『万能結界技法』
マーべラット出身の留学生。本名は『オリバー・ルーン・オルヴァリア』であり、マーべラット建国の立役者である結界術師の系譜。クソガキ。好きなことは自己鍛錬、スリルのあること、仲間との任務。苦手なものは母親、魚類の食べ物、虫。
欲『万能結界技法』は『結界術に分類される全ての技を扱える』というもの。
結界術は主に『封印系』『防御系』『範囲系』の三種に分かれており、このいずれか一つでも扱う為には基本元素の一つである『土』元素への高水準な理解が求められる。レオネルクの『留刃結界』は自身のカーマを範囲系の結界へ落とし込む事で威力を保ったままその適応範囲を広げているのである。
対して『万能結界技法』の持ち主は相伝式の特別な結界術を扱うことが出来る。更に副次的な効果として通常結界に対する理解が早い為、その習得の難易度も大幅に下がっている。




