近衛兵?遠衛王?
「さて、問題児共。順々にいこうか」
講堂の真ん中の方に座っていたアビゲイラへ全員の視線が集まる。
「まずはオリバー、あんただ」
「っ...」
「あんたは馬鹿で阿呆だが、それでも空気の読めない奴じゃあ無かったはずだ....どうして会議へ乗り込んだ?」
問われたオリバーは静かに答える。
「資格が、あるからだ」
「うん?資格だって...?」
その言葉にはアビゲイラだけで無く、この場に居た全員が首を傾げる。
「俺にはこの会議に....いや、この作戦に出る資格があるハズなんですッ....それなのに、ヴェルナーさんが居なかったら知る権利すら無かった....」
先の見えない言い分にアビゲイラは少し苛立った口調で問う。
「じれったいね、結論から話せっていつも_」
「故郷を守るためここで戦いを学んでるのに、今故郷を守れないでいつ守れって言うんですかッ!!?」
「っ...なに?オリバー、あんた....」
荒ぶるオリバーの言葉に講堂がザワつく。
アビゲイラも珍しく驚いた様子を見せると、リグレッドへ問い詰める。
「リグレッド、そういうことなのかい?」
ため息を吐いたリグレッドは観念した様子で答える。
「はぁ....せや。オリバー・ルーン、もとい『オリバー・ルーン・オルヴァリア』はマーべラットから来よった留学生やった、っちゅうことや」
「えッ....」
ザワザワ....
リグレッドの口から語られた事実は氷戈だけで無く、この場に居た全員を驚かせることとなる。
そしてその事実に最も食らいついたのは意外にもギルバートであった。
「待て、『オルヴァリア』と言ったか...?それでは此奴は_」
リグレッドは頷き、ギルバートの言葉に続ける。
「_現マーべラット国王である『アイネス・ルーク・オルヴァリア』の姉の一人息子にあたる....要は王族っちゅうことや」
「なんとッ!?」
衝撃の事実の連発に講堂内は大いに賑わう。
対しリグレッドはこうなることが分かっていたからなのか、頭を抱えて項垂れていた。
そして、今まで親友のように接していたオリバーが王族だということを知った氷戈も同様に考え込んでいた。
-いやいや、嘘でしょ...あのオリバーが王族だったなんて....。こういうのって現実でも起こるんかい-
確かに『身近な人間が実は偉い人だった』というのは物語的には王道の展開だが、いざ自分の身に起こってみるとどうして良いのか分からないものだ。
氷戈が内心で戸惑っている中、誰かの手を叩く音が鳴り響く。
パンっ!!
この音を発したのはやはりアビゲイラであり、周囲が静まったのを確認してから言った。
「全く、どちからがそうだと初めから言っていればこんな事にならなかったと思うんだがね....違うかい、リグレッド?」
詰められたリグレッドは開き直った様子で言った。
しかし、それはオリバーへ向けてだった。
「オリバー、念の為聞ぃとく。今回の作戦、意地でも付いてく気か?」
「・・・『付いて行く』んじゃない。俺が行くんだ、例え一人であっても....」
「ほーれ見ぃ」
「っ...?」
「『この作戦のことはオリバーには絶対に教えないこと』」
「な、なんだよ」
リグレッドが不自然に放ったその言葉に、オリバーは戸惑いを見せる。
「ボクが『この作戦を茈結で受け持ちたい』って言うた時、アイネスから真っ先に帰ってきよった言葉がそれや」
「え」
「ボクやって別にイジワルしたくて黙っとったワケちゃうし、本来それでアイネスとの約束も守れるハズやった....」
リグレッドはそう言うと、今度はヴェルナーの方へ視線を移した。
「ホンマようやってくれよったわ、自分」
「わ、私ですか!?いやぁ、褒められるようなことは何も_」
バシっ!!
「痛っ!!?」
リグレッドの皮肉を真に受けて照れ始めたヴェルナーを、すぐ横まで移動していたギルバートが思いっきり引っ叩く。
「な、何するんですかギルバート様!!」
「まったく貴様という奴は余計なことばかりしおってッ!!罰としてラミィの目付け役としての任を一ヶ月追加するッ!!」
「そ、そんなっ!?門番一ヶ月になりませんか!?もちろん休憩無しでするのでそれだけはご勘弁を!!」
「・・・」
-ラミィのお目付け役、どんだけハードなんだよ....-
と、氷戈があんなことやこんなことを想像しているとオリバーの声がした。
「ごめんリグレッドさん....アイネスさんとそんな約束してたなんて....」
「ま、分かってくれればエエんやが....まだ分からんこともあるって感じやな?」
リグレッドは謝罪するオリバーを見てそう言った。
オリバーは数秒考え込んでから、口にする。
「・・・確かに、この作戦に参加するには俺は実力不足かもしれない....でもさ、やっぱりここでじっとしてられそうに無いんだ」
「・・・」
「前線に出してくれとは言わない....だけどせめて、故郷を守る戦いにはどんな形であれ参加したいんだ!!お願いだよリグレッドさん!!」
「まぁそうなるやんなぁ...」
アイネスとオリバー、両者の気持ちを直に聞いているからこそリグレッドは頭を抱えて悩んでしまう。
そこへ暫く黙っていたイサギが割り込む。
「おいリグレッド、オリバーを連れて行かねェってのも一つの選択肢だとは思うがよ...それが単に実力不足だからってンなら説明しなきゃならねェ事があるだろう」
「へ?」
リグレッドが素っ頓狂な声を上げたので、イサギは付け足す。
「この会議にガキは居ないハズなのに、どうして二人も居るんだって聞いてンだよ」
「ッ...」
突然、イサギの鋭い目線が自分へ飛んできたので氷戈は緊張する。
リグレッドはこの問いに対して言った。
「よし...ほんなら丁度エエことやし、二つ目の作戦やった『フレイラルダ=フラデリカ殺害計画』の内容へ移ろか?」
「オイ待て、俺の質問に_」
「安心せぇ、イサギさん。ここで全部分かる」
「・・・チっ」
イサギは舌打ちをしたものの、黙って聞く体勢をとった。
それを見たリグレッドは改まった様子で前を向くと_
ピリっ....
いつにも無く真剣な声色が続く。
「こっから先は他言無用に口出し厳禁、ボクの独壇場とさせてもらうわ」
先ほどアビゲイラに主導権を取られた事を気にしてなのか、そんな文句から『フレイラルダ=フラデリカ殺害計画』の解説が始まる。
「まずは今回ターゲットになっとる『フレイラルダ=フラデリカ』の事についてや。知っとるもんも居るやろうが、彼女はフラミュー=デリッツに於ける『ツヴァイル』っちゅう称号を与えられとる....意味にして『No.2』、二番目に強い奴ってことや」
リグレッドは備え付けのホワイトボードに『No.2』と書き記した。
「実力至上主義国家の二番手や、それはもう恐ろしく強い....分かりやすく言ってまえば、茈結に居る講師陣の誰一人として彼女には勝てんやろな」
「「「ッ....」」」
リグレッドのこの発言で講堂に緊張感が走る。
「但し、茈結全体を見れば話はちゃう。彼女に勝てる人間がたった一人だけ居るんやなぁ、これが」
彼がゆっくりとその者の方へ視線を向けると、この場に居る二十近くの目線もそれに釣られる。
全員の注目を集めたその者とは当然_
「それこそが欲『絶対防御』の持ち主である彼、氷戈やったってワケや」
「「「ッ!!?」」」
「あーと...ど、どうも....」
全員から驚愕の感情を向けられた氷戈は、ドッと来た気恥ずかしさを紛らわせるように言った。
-なろう系主人公っていつもこんな感じだよな....思ったより恥ずいよなぁ、これ....-
頭を掻く氷戈を傍目にリグレッドは続ける。
「氷戈であればフラデリカを殺せる、ボクがこの作戦を請け負おうとしたもう一つの理由がまさにこれや。・・・よって、戦線に出てくるであろうフラデリカに氷戈を充てがうことが何よりの最優先事項となる....ま、嫌でも向こうから来てくれるやろが」
ボソッと付け足した最後の一言は氷戈とフラデリカの因縁を知らない人間からすれば意味深なものに聞こえただろう。
「そんなワケで『フレイラルダ=フラデリカ殺害計画』の解説は終了!!ここから質問ターイム!!」
何故かテンションを上げたリグレッドに対してイサギが突っ込む。
「今のが解説だと?笑わせンな...ヒョウカがここに居る理由は辛うじて分かったが、肝心な部分が抜けてるだろ」
「と、言いますと?」
リグレッドはワザとらしく小ボケてみせる。
「『フラデリカって野郎の殺害に何故そこまで拘っているか』だよ、いちいち言わせンなカス」
「同感だね。わざわざ一つの作戦として銘を打っているのならしっかり説明して欲しいものだ」
イサギの言葉にアビゲイラも同調する。
バチバチの雰囲気の中、リグレッドは笑って言った。
「らしいで、氷戈?」
「ッ!!んげッ!?」
-すんごいキラーパス....-
氷戈はリグレッドを睨みつつも、二人の疑問に答える。
「な、何て言うんだろ...フラデリカを殺せれば俺の大事な人が戻ってくるかもしれないんだ」
「ア?復讐の類か?」
「違うよ...寧ろその逆だ。俺はフラデリカという人格を弔うつもりで殺そうとしてる、向こうは復讐のつもりだろうけどね」
「チッ、もっと分かるように言いやがれ」
分かりやすく苛立つイサギにリグレッドが宥めに入る。
「まぁまぁ....でも、何か事情があるのは分かったやろ?」
「とっかかりだけ見せるからイラついてンだよ」
すると今度はアビゲイラが察したように問うた。
「その様子だと、ことの詳細を話す気は無いんだろう?」
「せや、話すのは全部終わってから....今の段階では氷戈とフラデリカとの間には因縁以上の何かがあると思っとってくれ」
「因縁以上の何か、ねぇ....」
アビゲイラは不満そうに鸚鵡返しをする。
対しリグレッドは構わず総括に入る。
「エエか?一つ目の作戦である『対フラミュー=デリッツ防衛作戦』はあくまで防衛が主や。向こうが引いてくれさえすれば作戦完了。無論、こっちから死者を出すつもりも無理して敵を追う必要もあらへん。・・・せやけど『|フレイラルダ=フラデリカ殺害計画』はちゃう」
一呼吸おいて_
「こっちの作戦完了条件は『氷戈がフラデリカに勝利して、殺すこと』。それに伴い、氷戈とフラデリカの戦いへ介入する事を原則禁止とする。これは命令や」
「命令」という強めのワードに空気が一層張り詰める。
「ただ氷戈を一人で行かせはせん。護衛に誰かを付けようと思うとる」
「ア?どういうことだ?」
「こっちが一対一を望んでも、向こうがそれに乗ってくれる保証は無いやろ?邪魔が入るかもしれん...つまりは、その邪魔を引き受ける役が保険として必要やってこと」
「だ、だったら俺がッ!!」
ここぞとばかりに申し出たのはオリバーであった。
しかしリグレッドは速攻で却下する。
「ダメや、これは氷戈の護衛なんやで?自分には悪いが、少なくとも氷戈より明確に強い人間でないと務まらんやろ」
「そ、それはそうだけど...」
「それに氷戈の護衛なんてしよったら『対フラミュー=デリッツ防衛作戦』、もとい『マーべラット防衛作戦』には参加できひんで?」
「ッ!?そ、それって!!?」
リグレッドの言葉でオリバーの暗かった表情は一変する。
「まぁ『作戦のことを教えるな』っちゅう約束はしたけど、『作戦に参加させるな』とは言われとらんしな。ボクが教えたワケちゃうし」
「リグレッドさんッ...!!」
「但し、前線での戦闘は認められん。最終防衛ラインでの待機がいいとこや、それでもエエな?」
「もちろんだ、本当にありがとう!!」
テンションが上がり、いつものオリバーが戻ってきたことに氷戈は安心を覚えた。
一方でリグレッドの表情は曇ったままである。
「はぁ...しばらくアイネスには会わんとこ....」
「心配には及ばんぞ、リグ」
「んえ?」
リグレッドを案じたのはギルバートであった。
「そもそもの原因はヴェルナーであり、即ち責任の所在は余にあると言えよう。ついでがてら、余の方からアイネスへ事情を説明しておく...故に案ずるでない」
「へ?ついでがてらって、何のついでや?」
「うん?決まっているだろう_」
ギルバートは満面の笑みで答える。
「_ヒョウカの護衛は余が務める、そう言っておるのだ」
「え?」
「ん?」
「ア?」
「うん?」
「陛下?」
「なして?」
疑問符のオンパレードが後に続いた。




