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▷現役主人公の物語Re▷  作者: 加藤 大生
チュートリアル編
3/47

行き当たりハッタリ

 氷の花は音を立てて散りゆく。

 中から姿を現した氷戈を見た女は依然、驚いた様子だった。


 対する氷戈も、そんな女の姿をしかと捉える。

 いきなり自分を襲い、殺そうとした者の全容を漸くその目に刻むこととなる。


 赤くて長い髪を後ろで一本にゆわぎ、筋肉質で自分よりも大きな体躯の女性。見ただけで分かる、ゴリゴリの近接型タイプといった出で立ち。


 全く怖く無い訳では無かった。それでも_


 -逃げるな、背を向けるな、目を逸らすな。身体能力じゃどうやっても勝ち目がないのはさっきので分かった。・・・自然に、ごく自然に時間を稼げ。こっちから行動を起こすメリットは何一つ無いはずだ-


「・・・」


「・・・自分から姿を現すとは驚いたぜ。そのまま籠城するつもりかと思ってたんでな」


「・・・」


 黙り続ける氷戈。質問でも投げかけられない限り、こちらからは口を開かないという姿勢である。

 女もこれに勘付いたようで、不敵な笑みをこぼしながら言った。


「そっちがその気ならいいぜ?元よりお前と話すつもりなんざねぇんだわ」


 そうして女は両の拳を握り締め、構えの体勢をとった。


 内心、焦る氷戈。

 しかしそれが悟られれば全てが終わる。

 平静を装え。普通で在れ。興味を、話題を逸らせ。


「なあ....?さっきあんたが言っていた『シケツ』って何なんだ?」


「・・・?おいおい、やっと喋ったかと思ったら、この後に及んでしらばっくれる気かよ?」


「ばっくれるも何も、本当に知らないんだって」


「ったく....しょうもねぇ奴だな?」


「・・・え?」


「さっきから言ってるが、お前がどこのどいつであろうがオレには関係ねぇんだ。そんでそんな奴の質問に答えてやる意味なんざもっとねぇのさ」


「・・・」

 -クソっ....!!見た目に寄って脳ミソまで筋肉で出来てやがんのかコイツ....とりあえず俺を殺ることしか考えてやがらない!-


「ふぅー....」


 絶体絶命の氷戈が次にとった行動に、女は疑問符を浮かべるのだった。


「・・・あん?どういうつもりだ....?」


「さぁね?」


 氷戈は大きく息を吐きながら両手を力無く下ろしたのだった。

 忽然と無防備な体勢をとる氷戈に、さしもの女も身構えて言った。


「・・・なんだよ?せめて痛くないように殺してくれってか?」


「いいや?むしろその逆なんだけども....」


「逆....だと?」


「・・・」


「なんとか言ったらどうなんだ...?」


「え、質問に答えてやる価値も無い奴の返答なんて欲しいわけ?変わってるね?」


「ッ!?テメっ!!?」


 今度は一変、氷戈は分かりやすく挑発を始めたのだった。


 -コイツは脳筋かもだけど馬鹿でも無いはずだ。さっきのビームやこの雰囲気から推測するに、恐らくだがこの世界の中でも結構強い方だろう。そんな猛者がこの程度の挑発に乗るようじゃ既に死んでるだろうし、何より『脳筋ほど戦闘センスが良い』っていうのはキャラクター設定に於いて一種のセオリーみたいな部分もある。・・・疑え、迷え、脅えろ....俺の『なんにも無い何か』に!!-


 今、氷戈が最も恐れている事は『近接戦を仕掛けられる事』であった。

 それが一番どうしようも無く、成す術も無く、最短で殺されてしまう道であるから。


 故に、氷戈は演じる必要があったのだ。

 自らを如何に不気味に見せ、近接戦を避けさせたくなるような演技を。


「・・・」


 女は氷戈の思惑通り、一瞬の躊躇いと疑念に満ちた表情を浮かべた__

 __が直ぐに構えを整え、こちらを見据える。今にも殴りかかってきそうだ。


 それで良い。

 その一分一秒が氷戈にとっての狙いであり、希望だから。

 どんなに楽観的で、どんなに希望的な行動でも試さないで即死よりは何かを試して僅かに延命する方が良いに決まっている。


 氷戈は次なる手に出る。


「・・・ねぇ、どうしたのさ?来ないの?今なら歓迎するのに....」


 人差し指をクイクイと動かし、あからさまな挑発を続ける氷戈。

 心做しか強者の風貌を漂わせ、声もイケボ度数に拍車がかかったようにも思える。

 伊達に日々自宅での異世界シミュレーションを欠かしていない。外面は完全に歴戦の猛者、と言うよりは厄介極まりないペテン師そのものである。


「チッ....いけ好かねぇ....」


 女は舌打ちをすると、一旦構えを解きバックステップを踏んだ。


「ハッタリだかなんだか知らねぇが、確かに....殴りに行くのは避けた方が良かったな?」


 氷戈はこれを聞いて確信する。

 -やっぱりコイツ、脳筋だけの馬鹿じゃない。・・・そしてもう一つ__-


 さっきの氷花による奇襲を『俺が意図して発動したカウンター』だと思い込んでいる。


 氷花あれを見た時の口ぶり的にも、氷戈が意図的に氷を出現させられると信じて疑ってはいない様子だった。そんな俺に近づこうものなら『さっきみたいな氷のノーモーションカウンターをお見舞いしてやる』と相手の脳裏に過らせること自体、さほど難しくは無い。


 氷戈はこれらのことも鑑みて、女に接近戦を避けさせる作戦自体は高確率で成功するだろうと踏んでいたのだ。

 問題はその後__


 女は氷戈の予想通り、右腕をこちらへまっすぐ伸ばして言った。


「別に殴って殺してやる必要もねぇ....おまけにもう一度、街もぶっ壊せるしで一石二鳥だぜ」


 両の掌を開き合わせ、そこへ収束して行く超高密度のエネルギー。

 そしてつい先ほど聞いた、耳を貫くような鋭い音が鳴り始める。


 キィィィィィィィィィンッ!!!!


 過ぎ去った後、塵の一つすら残さなかった例のビームを放つため構える女。


 こうなるであろう事は分かっていた。

 むしろ、こうなる事を一番望んでいたまである。


 近接戦を避けつつ、『ビームの溜め時間』という()()()()()()()を望めるこの状況を。


 但し、もうこれより後を望むことも叶わないが__


 目線だけで辺りを見回す氷戈だが、助けてくれそうな人影は未だ見当たらない。


「くッ....」

 -ちくしょうッ!!ここまでしたのに結局死ぬのかよッ!!?・・・訳分かんない世界にいきなり飛ばされて、身に覚えの無い戦争に巻き込まれて、幼馴染あいつらにお別れも言えずに.....-


 再び、着々と迫り来る『死』をその身に感じながらも、ふと思ったのだった。


 -そういえば幼馴染あいつら.....どこに行ったんだろう?-


『死』を紛らわせる為だとか、走馬灯だとかでは無い。

 抱く純粋な疑問は、次第に膨れ上がる。


 -俺以外は問題無くゲームを楽しんだりしてるんだろうか?・・・それとも俺と同じでこの世界に来ているのだろうか?・・・だとしたらどこに居るんだ?この街の何処かに居たら危ない。いや、異世界(こんな世界)に居る時点で死と隣り合わせじゃ無いか?・・・俺は死ぬけど、幼馴染あいつらも死ぬのか?え、なんで?-


 _気付く。


「あ.....」

 -体験会に無理やり連れてきた、俺のせい...?-


 次いで抱くのは罪悪感か。それともまた別の感情か。


「・・・」


 眩い光と凄まじいエネルギーを放つそれを、氷戈はただ静かに見据える。

 そうして今度は視線を下へ向け、広げた己の手を見つめた。


 -俺のせいなら尚更だ。幼馴染あいつらの居場所が分かるまで、俺が先にくたばる訳にはいかないッ....-


 過去氷戈が『死』を目の当たりにして絶望一色だったその時期に、希望を見出してくれたのが幼馴染あいつらだった。氷戈にとって『死』と『幼馴染あいつら』は、言わば対義の意を成す。


 この二つを天秤に掛けられた時、氷戈が手に取るのは紛いなく後者であったというだけの話である。


 稲妻を纏った光が一点に集中し、まるで嵐の前の静けさの如く音も鳴り止む。


 女は静まった場で不敵に笑い、いつでも放てるといった様子で言うのだった。


「今度はこの至近距離に加え、威力もさっきのより大幅アップしてるぜ?.....防ぎ切れると思うなよ?」


「まさか....妄想の世界以外でこんな言葉を言う日が来るなんてな....」


「さあ!!消ェし飛べェッッ!!!!」


「・・・後が無いからって、抗ってやらない理由にはならねぇぞ、俺ッ!!?うぉォォォッ!!!!!!!!!」


「『穿々電雷(ガウ・デラ)』ァァッ!!!」


 こうして異世界転移もの史上、最も過酷な五分間に終止符が打たれたのだった。


 ☆登場人物図鑑 No.5

 ・『ジェイラ・フォーゲンス』 

 ラヴァスティ所属/25歳/178cm/68kg/カーマ共縛り(ともしばり)


 体育会系の見た目と言動が目立つ女性。好きなことは筋トレと師匠の真似。苦手なものは退屈と『クトラ』とかいうメス。


 カーマ共縛り(ともしばり)』は『自身と対象の行動を縛る』というもの。発動条件等は無いが、対象の力がジェイラを上回っていると束縛を逃れられてしまう。要は筋力の強い方が束縛の可否を決められるということであり、強みと弱みがハッキリしている。

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