鬼ごっこ
組織『茈結』の食堂にて___
「貴様の知るトウカなる者と、現在の彼女『フレイラルダ=フラデリカ』とでは全くの別物であるということだ」
「っ...!?」
ウィスタリア国王が真剣な面持ちで、あまり知られてはいない事実を口にしたので氷戈は少し考えるそぶりを見せる。
色々と思う部分はあったが、まずは事実確認から入ることにする。
「そう....全部、聞いたんですね?リグレッドから」
「うむ、数日前にな。・・・なにせフラミュー=デリッツと事を構えるという事はその親玉のラヴァスティにも喧嘩を売るという事。リグは後ろ盾にいる我々に筋を通すため事前報告へ参り、その際に概要の多くを聞いたのだ」
「なるほど、そのときに知ったと....。でも、そんなこと信じるんですか?フラミュー=デリッツの騎士が別の世界から来て、更に記憶を操られているだなんて」
氷戈の疑問は真っ当である。
なにせこの世界の人間にとって燈和とフラデリカが同一人物であるという証拠は何ひとつないのである。故にリグレッドとサイジョウ、その他数人しかこの事を知る者は居ない。
誰に話したって『何の確証もない情報』であり、あえて話すようなこともしなかったのである。
リグレッドがどこまで話したか分からないため、探りを入れるべく『別の世界から来たこと』と『記憶を操られていること』を交えて聞く。特段隠すようなことでは無いし、この後の会議で全員に共有されることでもある。
国王はこれに答える。
「ああ、信じるとも。なにせあの『リグレッド・ホーウィング』の言うことだからな」
「え、それだけで....?」
「無論、それだけで、だ。しかしその『それだけ』は余にとって『それ以上ない』を意味する。・・・言うなれば、奴以上の情報提供者はおらんということよ」
「は、はぁ....」
どうやら概要のほとんどを知っているみたいだった。
そしてこの数ヵ月で分かったことだがリグレッドは尋常でないほど顔が広く、さらに知られている人間からの信頼度もカンストしていることが多いのである。戦闘の実力こそ皆無に等しいが、それを補って余りあるほど彼の人望は厚い。
「分かりました。それで、フラデリカと燈和が別物であるって話はどういうことですか?性格の話...?」
「いや、もっと広義に捉えてもらって構わない。一人の『人間として』、全くの別物なのだろう?」
氷戈は『あの日』のフラデリカとの邂逅を思い出しつつ、答える。
「・・・はい、そうですね。全然違う」
「そこなのだ。余が惚れたのは『フレイラルダ=フラデリカ』であり、其方らはそれを直に殺しに向かうという。本来であれば余が全霊をもって制止を試みるところであったが、『フラデリカ』が偽りの存在であった場合は話が変わる。・・・一国の王である余が、偽りの存在を娶る訳にはいかんのだ!」
「・・・お、おうよ」
一人でテンションを上げる国王に若干引きつつも、笑顔で対応する。流れで音沙汰無いフィズの方をチラ見すると「なんことやら?」といった表情である。
流石に申し訳なくなってきたが、国王への対応を疎かにする訳にもいかないだろうと悩む氷戈。
構わず話し続ける国王だが、続いた言葉はとても落ち着いたように聞こえた。
「・・・それに、だ。元の存在であるトウカの意に沿わぬ婚約など望んでおらん。否、望んではならんだろう。フラデリカとしての人格を疎かにするわけでは無いが、トウカの存在を依代にしている以上、トウカの意思を尊重したいというのが余の考えだ」
「王様....」
少し前までただの恋愛脳としか思っていなかった人物が、燈和に寄り添った考えを持ってくれていたことに氷戈は分かりやすく感動した。
ここまで失礼な印象を持たれているとはつゆ知らず、氷戈の反応に気を良くした国王は言う。
「ギルバート、だ。『ギルバート・ウル・ウィスタリア』こそが余の本名であり、同時にウィスタリア国十六代国王の名でもある」
「ええと、じゃあウィスタリア様って呼べばいいですか?」
「いや、ギルバートと呼ぶが良い。余のフィアンセとなる女性の古き親友であれば、それはもう家族同然だろう?ガハハ!!」
「えぇ....」
懐が広いというのか、また別の言い方をするのかは分からないがいきなり大国の王を下の名前で呼び捨てする権利を与えられ驚く氷戈であった。
とはいえ話がやっと終わりそうな雰囲気が__訪れず。
静かな食堂へ次なる刺客が登場するのであった。
「ちょっとー、お兄ぃ!?『恋敵に話がある』....とかカッコつけてたくせに何でこんなところにいるワケぇ!?」
「うぬぅ、ラミィか....。おのれヴェルナーめ、目を離すなとあれほど....」
その子は薄紫色の髪を指でクルクルとさせながら食堂へ入ってくるや否や、ギルバートを『お兄ぃ』呼びして悪態をついた。
『ラミィ』と呼ばれた彼女の挑発的な話し方や絵に描いたようなツインテールだという事も相まって、氷戈は思わず指差した。
「めっ、メスガキだぁッ⁉︎」
「あん⁉︎誰がメスよ!誰がガキよ!つーか指差すなしぃ!!」
「本物だぁ....」
「なに達成感溢れる目でこっち見てるのよ⁉︎キモイんだけど‼︎ちょっとお兄ぃ、誰なのコイツ!?」
問われたギルバートは目を丸くするも、すぐに咳払いをして答えた。
「オフン....此奴はつい先ほど其方の義兄となった『ヒョウカ』なる者だ。これから仲良くするのだぞ」
「ッ!?ハァアアアっ!!?」
ギルバートの突拍子もない発言にラミィは声を荒げる。
これを見てもギルバートは依然キョトンとしており、痺れを切らしたラミィが鬼のように詰め始める。
「なっっんでこんな奴がウチのお兄ちゃんなワケ?意味分かんないんですけど!?・・・えっ、もしかしてお兄ぃの言ってた恋敵ってコイツのこと?一応、一国の王であるアンタとそんな関係になるくらいだからどんなタマかと思って見に来てみたらこんな弱っちそうなのがそれなワケ?絶対雑魚よ、ざぁこ!!」
「なッ...」
「ふんっ....なぁに?雑魚って言われるのがそんなに気に食わないんだぁ?」
「・・・」
氷戈は俯く。
しかしラミィの煽りはなおも続く。
「へへんっ♪分っかりやすく効いちゃって、おっもしろ〜い!!そういうことならもっと言ったげるし!!ざぁこ♡ざぁ〜こ♡」
ここで、氷戈の『何か』が切れる。
「や....」
「や?・・・なぁに?お兄ちゃん?声小さくて_」
「やっぱり!!!!天然の!!!!メ・ス・ガ・キじゃねぇかッ!!?!??!!!」
「ッ!?」
氷戈のイカれたテンションの上がり方にラミィも思わず気圧される。
一瞬驚いたラミィだったが、それでも負けじと言い返す。
「だ、だっから!!神秘的なものを見るような目で見るなっていってるし!!そんな珍しく無いし!!・・・いや、珍しいか」
「実在したんだなぁ...さすが異世界だぜ....」
「話聞けぇ!!」
この様子を眺めていたギルバートとフィズは互いに目を合わせて言う。
「そこのお主よ。どう思う?」
「エえ....初対面デこれだトすると、言うことハアりまセんな」
「うむぅ....」
オーディエンスのおじさん達は二人の相性の良さに唸るのだった。
そうとも知らず、氷戈は騒ぎ立てるラミィをガン無視してギルバートに話しかける。
「そういえばギルバートとこのラミィ?って子は王族なんですよね?現役ピチピチの。そんな人たちが護衛もつけずにこんなところ、気軽に来れるんです?」
「気軽かどうかは余のさじ加減だな!余が行きたい場所に行く、それだけだ。・・・それに護衛ならそこらにごまんとおるぞ、ホレ?」
ギルバートはそう言い、氷戈に辺りを見回すよう促した。
その通りにしてみると確かにここらじゃ見かけない身なりの人が歩いていたり、食堂の数ある窓やドアから覗き込む影、気配などが感じられた。なんならご飯食ってる奴も居る。あれが護衛なのかは怪しいが。
「はぇ、意外にちゃんとしてるんだ」
「まぁ余に護衛など要らんのだがな?ラミィは弱い上にこうしてちょこまかと動き回るからな。ヴェルナーという専属の護衛も付けているのだが、彼奴も彼奴で抜けていてな....」
「アハハ!!すごいや!!イメージ通りすぎる」
「ちょっとそれどういうことぉ!?お兄ぃなんかウチの欲でイチコロじゃないの、ばか!!・・・アンタもさっきからケタケタ笑ってんじゃ無いし!!」
多方面にキレ散らかすラミィであったが、それにもお構いなしで笑い続ける氷戈に堪忍袋の尾が切れたのか....
「あーあ、もうキレちゃった。一回痛い目に遭わなきゃ解らないみたいだしぃ!?このクラミィ様の恐ろしさが!!」
「ッ!?お、おいラミィ!!辞めておけ!!此奴はッ_」
「へ?」
ラミィは怒りながらも、何かをしでかす気配を存分に漂わせる。
何かを察したギルバートは止めに入り、氷戈はその様子を不思議そうに見つめた。
が、事は既に起こってしまった。
「アンタは今日一日、ウチの下僕になるの!コケにした事、反省しなさい!!『ラヴラル・トゥー・キッス』!!」
ーーーチュッ!ーーー
ラミィはそう唱えると、氷戈に向かって投げキッスをしてみせた。
しっかりと体をくねらせ、片足もあげ、ウインクまでしてみせる、言わば完成形態の投げキッスであった。あまりにも完璧すぎて、氷戈に向かってハートマークが飛んでいったようにも見えた。いや、実際に飛んでいったのかもしれない。
さっきまで怒っていた相手が突然自分に向かって投げキッスをするものなので、さしもの氷戈も目を点にする。
そして恐る恐る、問うのであった。
「何...してんの?」
「へ?」
今度はラミィが目を点にして、そのままのポーズで固まる。
__________。
地獄のような空気が十秒ほど流れたところで、ギルバートが気まずそうに切り出す。
「ラミィよ....事後であるため大変申しにくいが、このヒョウカも欲を所持していてだな。その名は『絶対防御』、効果は名の通りだ」
「ちょ、何言って...?」
「単刀直入に言おう。此奴に其方の『愛ノ僕』は通用せん。・・・故に、其方は今_」
「まっt」
顔面蒼白なラミィの静止もやむなく、ギルバートは残酷にも告げる。
「_我々へ『ただの投げキッス』を披露しただけなのである!!」
「・・・ぎゃぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅ!!!!!!!それか死ねェぇぇ!!!!?!!!!?!!!!」
耐え難い事実を突きつけられ暴れるラミィ。
悶え叫び、近くの机に頭を数回叩きつけたかと思えば、その上にあったフォークで氷戈を刺しにいく始末。どうやら心中するつもりらしい。
対し氷戈は氷の壁を出現させてこれをあっさり防ぐと、ギルバートに聞く。
「この子、王族の子なんだよね?一応」
「うーむ...そのはずなのだがなぁ、一応」
「ぎゃあああああああああ!!!!!!!!!」
するとそこへ、騒ぎ立てる氷戈一行を見かねた小さい影が現れる。
これを察知したフィズは大急ぎで氷戈に伝える。
「大変だヒョウカくン!後ろ...」
「えっ....うわヤバい!!逃げろッ!!」
「テメェら騒ぎたてんなら他所でやれってんだぶっ殺すぞ!?あっ、コラ待ちやがれ!!」
ここまでうるさくされては食堂の管理者であるクラウが黙っているはずも無く。
彼もナイフを持って混沌へ参戦しにきたという訳だ。
その恐ろしさを知っているフィズと氷戈はこの場から一目散に逃げる。
「あっ!!待てっての!!アンタは責任とって死ぬべきっしょッ!!!」
「ふははははッ!!リグレッドよ、やはりこの組織は賑やかで良いなぁ!!ふははははは!」
食堂から逃げる氷戈とフィズを鬼の形相で追うクラウ。これに殺意溢れる顔でラミィが続き、そのまた後に満足そうな高笑いをしながら国王ギルバートも付いていく。・・・さらにこの後には十数人の護衛が塊となって後をつける。
この賑やかな鬼ごっこ_
どこかで見たような光景であった。
☆登場人物図鑑 No.20
・『ギルバート・ウル・ウィスタリア』
ウィスタリア所属/26歳/184cm/79kg/欲『罪ニハ罪ヲ』
虹天七国が一つ『ウィスタリア王国』の第十六代国王。その外見と放たれるオーラは間違いなく悪役のそれであるが、実際はとてもフレンドリー。運命の人を探す恋愛脳。好きなことは身体を動かすこと、食事、いたずら。苦手なものは書類仕事、じっとしていること、地図を読むこと、ラヴァスティの連中。
欲『罪ニハ罪ヲ』は『罪と認められた罪と同じ内容の事象を対象へ強制する』というもの。罪を罪だと判断するのはカーマ本体であり、これは何に対しても平等に判断される。『生きたカーマ』とも称され、ウィスタリア国相伝のカーマでもある。
例えば『我欲によって人を殺めた』過去がある場合、それは『罪ニハ罪ヲ』によって罪と認められ、同じく『死』という結果が強制される。但し『罪ニハ罪ヲ』の効果を帯びた攻撃を対象に当てる必要はある。
尚、ギルバートがフラデリカへ一目惚れしたのには他にも理由があるようだ。




