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▷現役主人公の物語Re▷  作者: 加藤 大生
『燈和=フラデリカ』編
25/47

あの日『本能も記憶も弄び』

「ッ⁉︎なぜここに来た⁉︎・・・フラデリカ!!」

「燈和ッ⁉︎」


「え...?」


 二人から同時に異なる名前で呼ばれれば、当然そんな反応であろう。


「ええと、人違いじゃ...」

「?」


 知らない人間から他人の名前で呼ばれれば、当然そんな反応であろう。


「ところで、あなたは誰?」

「・・・え?」


 当然の疑問だ。当然であるはずなのに、疑問でしかない。疑問しか抱けない。


 -なんで-


「なんで、俺に聞くのさ....?」

「え...?」


 自身の問いに対して異常なまでに動揺する氷戈を見た燈和は固まってしまう。

 それを見たレベッカは怪訝そうに問う。


「貴様、なにを言っている?」


「なにをって....それは燈和の方だろう!?悪ふざけは辞めてこっち来いよ!!」


「なるほど、貴様らの言っていた人探しの件か。しかし他人の空似程度でそこまで喚くな。貴様の言う『トウカ』が何処の誰だかは知らないが、コイツは私の実の妹『フラデリカ』であることは決定的な事実だ」


「ッ...」


 確かに髪の色は違うがそれは氷戈も同じことだ。加えてリベルテの時のようにそもそもの年齢が違うという事も無いし、リゼの時のように顔つきや身長が若干異なるという事も無い。


 そして何よりも、氷戈の内の『本能』が強く訴えてくるのだ。


 子どもの時からずっと一緒で、ずっとバカをやって、笑い合って、プンスカしながらも、それでいて俺たちを常に支えてきてくれた幼馴染(大事な宝物)である燈和は目の前のコイツだと言っている。そう信じて止むことができないのである。


「そんなはずッ....なぁ、燈和!たった二週間で俺のこと忘れるなんてそりゃ無いだろ!この世界に飛ばされた原因が俺だから怒ってるのか?謝る...謝るからッ!?またいつもみたいに怒ってくれよッ!!」


「え、えぇ...?」


「貴様っ、いい加減にッ!」


 氷戈のあまりの異常ぶりに怯え始めるフラデリカ。それを見かねたレベッカが今度は氷戈に対して臨戦態勢をとる。

 しかし今の氷戈にそんなことはどうでも良かった。


 -どうして、そんな目で俺を見るんだッ....-


 なにが起きているのかが分からない。

 本能(自分)を疑うべきか、自分(本能)に従い無理矢理にでも燈和を連れ出すか。


 溢れ出す感情に食われそうになった氷戈はふと、思い出す。


「っ...」


 感情に食われて良かった事など、ただの一度も無い事を。


 -そうだ...俺はゲーマーだろう。ゲームをする時は、中でも重要な局面では感情だけに支配されちゃいけないと、そう学んだはず...今はその時だ。感情よりも、本能よりも『事実』を、いや、『現状』を見ろ。俺の人生はゲームで、ゲームは俺の人生だ。そしてこの人生ゲームの主人公は俺であり、だからこそ俺が考えなきゃいけないんだ...『現状』の攻略法を!!-


 氷戈は最初にジェイラに殺されそうになった時のように脳ミソをフル回転させて考える。


 -考えろ、考えろ...なにかあるはずだ。燈和が燈和である証拠が。俺の『本能』が『事実』である証拠が-


 _数秒。


 他の人間にはそう感じただろう。

 しかし、氷戈にとってはどうだろうか?


 氷戈の顔には、焦りや動揺といった感情は無くなっていた。そこにあるのは、まるで氷のような『冷静さ』だった。


 そして静かに自身のポケットへ手を伸ばす。


「っ...これを....」


 取り出したのはスマホであった。

 氷戈は素早くロックを外し、写真フォルダの中に数多ある写真を漁り始めた。

 この世界にはスマホという文化は当然無いため、オーディエンスは黙ってそれを見るしかなかった。


 程なくして、()()()()をフラデリカとレベッカの方に向けて見せた。


 それは『氷戈と燈和が満面の笑みで写っている写真』であった。

 詳細としては高校一年生の体育祭の後、記念に幼馴染五人で撮ったものであるが氷戈以外はそんなこと理解しようがない。理解する必要もない。


 ただ大事なのは『氷戈と燈和』、ないし『氷戈とフラデリカ』が同じ絵に収まっているという『事実』のみ。


「うそ...私?」

「なんだ、これは...?」


 写真という文化がこの世界に存在するか分からないが、こんなにも鮮明で生めかしい『幸せな絵』に疑いからは入らない。氷戈がこれを狙ったかは定かでは無いが。


「し、しかしだ...貴様はこの絵に写っている女をフラデリカだと言いたいのだろうが、コイツ自身にその記憶がないだろう?その時点でこの話は...」


「違う」


「なに?」


「この絵に写っているのは燈和であり、そこにいる『お前がフラデリカと呼んでいる子も燈和』だと、そう言ってるんだ」


「ッ...馬鹿げてる....!!なぜフラデリカ(この子)自身にその記憶がないのにそう言える?なぜ私たちには『私たちが姉妹である記憶』があるというのにそう言える?この時点でお前の話はこじつけにしかなっていない!」


「そう、だな」


「?」


 口論していた相手がいきなり鞘を収めたので不思議に思うレベッカ。そんな彼女を差し置いて、氷戈は静かに問う。


「だから、最後に一つだけ聞かせてくれ...燈和」

「え?私...?だから私はトウカじゃ...」


 氷戈に目線を合わせ『燈和』と呼ばれたフラデリカは困惑するが、それも気に留めず氷戈はある画面を見せ、言った。


「今から十四日前、いや、この際いつだっていい。()()と同じことが記してある紙を見たことはないか?」


「なにそれ?.....あ、あッ⁉︎」


 フラデリカは何かを思い出したかように自身の内ポケットを探る。

 取り出したのはクシャクシャになった紙であり、それを広げて画面と照らし合わせる。


「この『宝の地図』に似てる?いや、同じかも...?でも、どうしてあなたが?」


「ッしゃ!!」


 氷戈がスマホで見せたのは『|Wisteriaウィステリア Heartsハーツ』先行体験会場案内用の地図の画像であった。

 これは先行体験の当選者全員にデータとして送られてきたものであり、後日郵送で様々な書類と共に紙媒体の地図が自宅に届いた。氷戈は先行体験会当日に『スマホの充電を食いたくないから』という理由から紙媒体の地図を持ち歩いていた。そして寝不足で機能停止状態の氷戈を見かねた燈和がその地図を取り上げ、幼馴染組を会場へ先導していたことを思い出したのである。


 今持っているスマホもそうだが、氷戈がこの世界に飛ばされた際に身につけていたものは全て持ち込めている。今、目の前にいるフラデリカが燈和であるなら元の世界で氷戈から取り上げた地図を持っている、または見たことがあるのではないかと考えたのだ。

 見たことが無いのであれば無いでフラデリカがフラデリカなだけであり、見たことがあるのであればフラデリカが燈和であると決定付けられるローリスクハイリターンの賭けは『自分の本能を正と証明する手段』としては非常に理にかなっていると言えよう。

 そしてこの賭けを制した氷戈は畳み掛ける。


「その地図は俺と燈和が元居た世界で限られた人間しか持っていなかった代物だ。もしお前がこの世界で生まれたフラデリカなのであれば、持っていることも見ることも絶対に無かったはず」


「どういうこと?元居た世界?」


「そう。二週間前、俺と燈和を含むその場に居た五人はある門をくぐり抜けた直後にこの世界へ飛ばされた....と推測してる」


 当然、この曖昧な回答にレベッカは食いつく。


「推測?どうしてそんな言い回しをする?」


「五人同時に門を潜ったはずなのに、次の瞬間には俺以外はどこかに消えてたんだ。俺だけこの世界に来て他の四人は別の世界へ、という可能性も考えられるし俺以外の四人もこの世界へ飛ばされたが場所はバラバラである可能性も考えられる」


「なるほど...理にはかなっている。貴様が別の世界から来たという現実離れした話が事実であれば、だがな」


「・・・」


 レベッカの言うことは至極真っ当なものである。

 不法侵入未遂の人間に「自分は別の世界から来た」と言われ信じる方がどうかしている。しかし氷戈は食い下がる。


「確かに、信じられないのは仕方ないし俺もそれを証明する術は無い。正しく()()()()だ。けど、そっちは『見るはずがない地図』についてはどう説明するのさ?」


「・・・フラデリカ、お前その地図はいつ見つけた?」


「えっと...ちょうど二週間前とかかな。いつの間にかポケットに入ってて、見たことも聞いたこともない地名がぎっしりだったから『宝の地図』かと...」


 レベッカは「そんなわけないだろう」と呆れ交じりのため息を吐いた。


「はぁ....しかし、言うことは一致している。困ったものだ...こんな紙切れ一枚で私たちが姉妹である事実を歪ませようというのだから」


 氷戈としては地図が出てきた時点でこの子が燈和であることを確信できるのだが、レベッカたちはそうもいかない。

 互いが互いに『姉妹である』という記憶があるのだから。逆も然りで、レベッカとフラデリカが本当に姉妹であるならフラデリカのポケットから地図は出てこないはずである。

 氷戈とレベッカはこの『おかしさ』を解消できない限り話は平行線であると理解しており、それが故に黙ってしまう。


 ________。


 暫しの静寂を破ったのは、珍しく黙りこくっていたサイジョウだった。


「その地図の出所を証明する術は無いが、オマエらが姉妹であることを証明する術はあるだろう?」


 この場で唯一の第三者であるサイジョウの意見に氷戈、レベッカ、フラデリカは耳を傾ける。


「簡単なことだ。オレに耳打ちでオマエらの内どちらかに『姉妹にしか知り得ない思い出話』をする。『幼い頃喧嘩した理由』でも『どちらかの誕生日での祝い事の内容』でもなんでも良い。これをもう片方へ問い、答えられれば少なくとも『幼い頃、同じ時を過ごした』という証明にはなるだろう。これを偽ガキの気の済むまでやれば良い」


「・・・」

 -偽ガキって、俺のことか...?それにしても_-


 サイジョウの言いたいことは分かる。しかしながら、釈然ともしなかった。

 それは『氷戈にとっては無かデメリットしか生じない』確認であることもそうであるが、『そんなこと答えられて当然だろう』という気が大きかったからだ。

 要はレベッカとフラデリカの両者に『姉妹としての記憶』があるのに今更そんなことをする必要はないのでは無いか、ということだ。


 これに関してはレベッカも「何を今更」というような様子を見せた。一方で『自分たちが正真正銘の姉妹であるという事実を氷戈たちに知らしめられる』という『メリットしか生じない』確認であるため、快く承諾するのだった。


「良いだろう。この程度のことでこの面倒な矛盾を晴らせるなら安いものだ。・・・さあ、どちらから聞くのだ?『私たちの思い出話』とやらを」


「フっ...そう言うと思ったぜ。聞かせてもらうのは()()ラベッカ、オマエだ」


「レベッカだ、次間違えたら殺すぞ」


 わずかな殺意を醸しながら、渋々サイジョウの方へ歩いていくレベッカ。

 その距離刀一振り程度のところで立ち止まったレベッカは問う。


「それで、なんの話をすれば良い?先に言っておくが貴様ら不審者に私たち以外の人物も絡むような話はできないからな」


「ああ、構わんさ。オレが聞きたいのはただ一つ。・・・おい、オマエ!!名はなんといったか?」


「え?」


 完全にレベッカに質問する流れだと思っていたので、突然名前を尋ねられたフラデリカは驚く。が、すぐに応答する。


「フラデリカ、だ。フレイラルダ=フラデリカが私の名前だ」


「そう....では問おうラベンダー!!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「なに?」「は?」「名前...を?」


 自身の名前を間違えられて睨みつけたのも束の間、思いがけない質問にレベッカ、氷戈、フラデリカの三者は動揺した。

 サイジョウはこれを煽るかのように言う。


「どうした?自身の妹の名前、その由来くらいは知っているもんじゃ無いのか?誰が名付けたのかも」


「あ、ああ...すまない。まさかそう言った角度からの質問だとは思わなくてな。・・・当然、知っているとも」


 その後、レベッカは淡々と『フラデリカの名前』について語った__



 _とは、ならなかった。

 その後、代わりに続いたのは『沈黙』であった。


「・・・??」


 何やら様子のおかしいレベッカ。まるで言葉を失ってしまったかのような。


 これを見たフラデリカは心配そうに聞く。


「姉さん...どうかしたの?」


「おかしい....」


「おかしい?なにが?」


フラデリカ(お前)を、()()()()()()()...?私の記憶からッ....」


「何を...?」「は?」


 フラデリカと氷戈の二人は、レベッカの言うことが理解できず疑問符を浮かべた。

 ただ一人、サイジョウは神妙な顔をして口にする。


「リグレッドの言った通り、やはり()()の仕業か」


 意味深な独り言を呟いたサイジョウの横で、レベッカの混乱は依然続いていた。

 頭を抱え、足はよろけ、大きく唸り、とても正常な状態ではなかった。


 この姉の異常事態にフラデリカは駆け寄ろうとしたが、サイジョウは瞬時に彼女の目の前へ移動しそれを制止する。


「寄るんじゃない。コイツは今、ヴァイシャのカーマ『超然洗脳』と戦っている最中だ。上手くいけば解けるやも知れん」


「超然...洗脳?」


 言葉のままならレベッカは『ヴァイシャ』という奴に洗脳をかけられており、今はその洗脳と格闘している最中ということだろう。サイジョウの口ぶりからして他人が助けに入れる感じでも無いようだ。


「ううッ!!ぐあァ!!せん...のうだと?私は....私はッ!?」

「姉さん!!姉さんッ!?」


 洗脳と戦い、苦しむレベッカを見てフラデリカはサイジョウを押し切って近寄ろうとする。だがサイジョウもそれを許すはずが無く、制止を続けた。


「近寄るなと言ってるのが分からんか」


「退いてよ!!退いてってばッ!?」


 食い下がるフラデリカの対応により目を離したサイジョウ


 そしてレベッカが洗脳を制しようとした、その時__


「私はッ!?No.3(ドライス)の名を冠する者!!舐めるn___」

 グシャっ_____


「は?」


 レベッカの誇り高き咆哮は不自然に止まり


 ()()()()()()()()()が、大きな氷塊の下敷きとなっていた。


 それを目にして凍る三人。

 どこからか降り落ちた巨大な氷塊の底からは、赤い海がただただ広がり続けていた。

 ☆登場人物図鑑 No.17

 ・『シーナ』 

 茈結所属/16歳/160cm/56kg/カーマ源ノ君(みなものぎみ)


 茈結に通う学生。双子の姉であるルカがちょっと抜けているので、相対的には礼儀正しい。スキンシップの取り方がバグ。好きなことはルカと何かすること、おやつ、お風呂。苦手なものは夜、一人でいること、故郷での記憶。


 ルカと同じく幼い頃に故郷を襲われたが、兄のお陰で何とか逃げ切ることが出来た。


 カーマ源ノ君(みなものぎみ)』は『範囲内にある全ての水のあるじを自分にする』というもの。これによって敵の放つ水系源術(アルマ)を完全に無効にしたり、周囲にある自然由来の水を使って自身の水系アルマの威力を上げたり出来る。

 水系アルマを攻撃手段とする者にはめっぽう強く、アルマがそもそも当たらない上に無闇にシーナへ水を与えてしまう事になる。また周囲に水が多い場所ではシーナの使うアルマの規模は桁違いとなる。

 姉ルカのカーマ流レ臣(ながれおみ)』とは相性が良く、姉妹揃えばその牙城を崩すことは容易では無い。

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