あの日『「最」度、「最」会に「最」して』
「いちちち....にしてもなぁ?あんなおもっきし殴ることないやろ」
「うごくなーコロすぞー。おりゃー」
ドゴォっ!!
「うぎゃ!?痛い痛いッ!!死ぬボケ殺す気かいッ!?」
「んー?そういったじゃーん」
騒がしいこの場は『茈結』の医療室である。
そこには椅子に座って治療?を受けるリグレッドと、治療?をする白衣姿の女の子と、これを傍観する氷戈の図があった。
その女の子はおっとりとした口調と華奢な身体なのに対し、大きな(殺人)ハンマーを軽々と振り上げリグレッドの頬の辺りに迷い無く直撃させてみせた。
側から見ると文字通り即死は免れない威力であったが、リグレッドが「痛い!!」という悲鳴をあげている以上どうやら死んではいないらしい。
「トーラちゃん、治療相手がボクの時だけ思いっきりやっとるやんなぁ⁉︎」
「んー?だってー、リーダーに死なれたら困るでしょー?」
「ふむ、それは確かに」
半ばコントのようなやり取りを黙って見つめている氷戈に気づいたのか、リグレッドは説明を始めた。
「ああ、悪いな。このちっこいのはトーラちゃん言うてな?茈結専属の医者やねん。見てもろた通り、『ハンマーでブン殴った部位の仮修復』っちゅう色んな意味でエゲツない欲も持っとるで」
「おしゃべりするのは初めましてだねー?新入りー」
-おしゃべりするのは初めまして....?-
「?...あ、どうも...氷戈っていいます」
トーラの妙な言い回しに首を傾げつつ、氷戈はペコリとお辞儀をする。
これを見たリグレッドが言う。
「ああ、なるほどなぁ?二週間前に気ぃ失ってから目ぇ覚ますまでの間、自分を看病してくれてたんはこのトーラちゃんなんやで?」
「え?」
氷戈は声を出して驚いた。
確かにこの部屋で目覚めたのは覚えていたが、その時そこに居たのはリグレッドだったからだ。
それから色んな事を話し込んでいる内に医療室では不都合な事が多くなり、直ぐに別室へ移動したのでトーラと顔を合わせるタイミングが無かったということか。
氷戈は再度頭を下げる。
「そ、その節はお世話になりました!!」
「んー?わたし、なにもしてないよー?きみ、カーマ効かないんだもーん」
「そ、そう...寝てても発動してるんだ....」
この時、いつかリグレッドの発した『あらゆるカーマの常時無効化』と言う言葉を思い出していた。
これをゲームなんかでは頻出する、いわゆるオートガード的な能力だと思っていたのだが、実際のところ『ゲームにログインしていない時ですら発動する普遍的なガード』であることをここで理解する。
「それにしてもー、どうしたのさー?その痣はー」
一段落したところでようやく、トーラによる問診が始まった。
「ん?せやから氷戈に殴られたんやって」
「おっけー、わかった。『茈結団長リグレッド、雑魚すぎワロタw』と...」
「ちょッ、トーラちゃん何してんッ!?自分みたいなキャラが使うスラングちゃうやろそれ」
トーラがカルテのようなものにそう書き込んでいるのを見たリグレッドは慌てふためく。
氷戈も「ワロタって二世界の共用語なんだなぁ」とうっすら思いながらその光景を見ていた。
「ま、まあエエわ...それにしても氷戈」
「ん?」
「どないにしてボクの事を転ばせたんや?」
どうにもリグレッドは殴られる直前にどうやって体勢を崩されたか、その理由が知りたいようだった。
氷戈はこれに短く答える。
「え、足元凍らせただけだけど...?」
「へ?」
「え?」
リグレッドの反応に氷戈は疑問符を返す。
氷戈自身としては『特に奇抜でも捻っても無い作戦にリグレッドが引っかかっただけ』と思っているので当然の反応といえば当然だった。
しかし、リグレッドが驚いているのには別の理由があった。
「自分、あんな一瞬で凍らせられるんか?地面を」
「うん...この二週間、リグレッドが居ない時は裏の森に籠って源術の練習をしてたんだ。お陰で大分色んな事が出来るようになったよ」
「そ、それは素直に感心なんやが....自分、ここに来てホンマに二週間やんな?アルマっちゅうのは技術も大事やが、一番大事なんは想像力や。極論、強固なイメージさえ練れれば自分の技術力を大幅に超えたアルマも使えたりする」
リグレッドはいきなり語り出したかと思えば、更なる持論を展開する。
「逆に技術力がなんぼ高くてもアルマの全容を想像できんかったら具現化はせぇへん....つまり氷戈、自分には『俺が氷を操れて然るべき』っちゅう確固たる自信と想像力が既にあるってことや」
「は、はぁ...?」
「なぁ、氷戈....もしかしてやけど自分_」
突如、空気は張り詰める。
それはリグレッドが何かしらの核心を暴こうとしているからだろう。
ゴクリ....
思わず固唾を飲んだ、その時だった。
ズッゴォォオオオンッ!!!!
「うあッ!?」
「あのバカタレッ....もう来よったんか!?」
外の方で大きな衝撃音がし、それに伴って地面が少し揺れる。
その場で体勢を崩した氷戈とリグレッドだったが、直ぐに立ち上がり顔を合わせた。
「なんだったんだ今の....何か知って_」
「話は後や、エエからボクに付いて来ぃ!」
「う、うんッ」
そうして二人は慌ただしく医療室を出ていくのであった。
急にしんみりとした部屋で一人、トーラは呟いた。
「痣ー、治らなかったなー。なんでー?」
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茈結本部前、屋外道場にて_
玄関から外へ出ると、少し奥の方に十人弱の人集りが見えた。
そこは氷戈の言っていた『だだっ広い平地』であり、つい先ほどまで茈結に通う学生が修行のための試合を繰り広げていた場所でもある。つまり、集まっているのはその人たちだろう。
二人は人集りの場所まで急いだが、既にそれは始まっていた。
キンッ!!ガキンッ!!・・・ドガンッ!!!
「ふはははっ!!いいぞいいぞッ!!ヤツの言う通り、これは中々楽しめそうだ!!」
「チっ...なぁに訳の分からねぇ事を。テメェいったい、どいつの差し金だ...?」
見れば二つの影が激しい近接戦闘を繰り広げていた。
「ん?ああッ!?」
人集りの列のところで足を止め、両者の姿を確認した氷戈は声を上げるのだった。
「あれって、自称最強の...」
このタイミングでリグレッドの大声が響き渡る。
「サイジョウ!!イサギさん!!ストーーップっ!!」
「ん?」「あ゛?」
声に気づいた二人は足を止め、同時にリグレッドの方へ視線をやった。
「チっ...クソッタレが。誰かと思ったらやっぱりテメェの差し金か、リグレッド」
『イサギ』と呼ばれた強面スキンヘッドの男性は舌打ちをしつつ、リグレッドを睨んだ。
「い、いやぁ...差し金って言うと聞こえ悪いなぁ」
「聞こえなんざどうでもいいんだよ、この際。今はテメェの客人が出会い頭に誰彼構わず襲って来やがる気狂いだって話をしてンだ...俺たちを殺す気か?」
リグレッドはこれに対しぐうの音も出ないと言った様子で応じた。
「そ、それはすまんかったって....でも久々にエエ運動になったんちゃうか?」
「うるせぇ、余計な世話だ。ただでさえ眠いっつうのによぉ」
イサギはそう言うと茈結本部の方に向かって歩いて行ってしまう。
「悪いなガキ共、今日の実技はここで終いだ。俺は寝る」
「えー!!」
「ブー、ブー!!」
「やい、煮卵!!」
「いいところだったのに!!」
恐らくイサギの稽古を受けていたであろう氷戈と同年齢ほどの少年少女達はブーイングの声を上げるも、彼の気が変わることは無かった。
「文句があンならそこのリグレッドに言え」
「おい待て、まだオレとの戦いが終わってないだろうッ!?」
背を向けるイサギにサイジョウまでもが待ったをかける。
「終わったさ。俺は、俺より強い奴の相手はしない主義なんだ....代わりに俺を煮卵呼ばわりしたそこのガキは文字通り、煮るなり焼くなりしていいぞ。死体は森の肥料にでもしてやってくれ」
「ヒィっ...!?」
イサギはそう言って建物の方へ戻ってしまい、ここに居る意味が無くなった生徒の大半も文句を言いつつそれに続いた。
その後ろ姿を見たサイジョウがリグレッドへ問いただす。
「おいリグレッド、どうなっている?ここへ来れば強いヤツと戦わせてやると言ったのはオマエだろう?」
「え?」
この言葉に氷戈が反応したのを見たリグレッドは少し焦ったように言う。
「ちょッ...サイジョウ!!黙ってこっち来ぃ!!氷戈はここでステイや、エエな!?」
「は、はぁ?」
リグレッドはそう言うと、サイジョウを連れてそそくさと屋外道場の端の方へ行ってしまった。
取り残された氷戈がその場で立ち尽くしていると、後ろの方で何やら情けない声が聞こえて来た。
「あぁぁぁぁぁー、助かったぁ....」
「ホント馬鹿だよね〜、君って。幾らイサギ先生がツルツルだからって煮卵は無いでしょ、煮卵は」
見てみると、ホッと胸を撫で下ろす男子学生とそれをバカにする女子学生の図があった。
「な、なんだよルカ....じゃあ何ならアリなんだよ」
「え?そりゃあ....何かの豆、とか?」
「それ絶対口に出して言うなよ、森の肥料じゃ済まないぞ....ん?」
現時点より全国のスキンヘッドを敵に回したこの男子学生が氷戈の存在に気付く。
「あれ、君ここの生徒?見ない顔だけど...」
「え...あ....って、うオアぁッ!?」
この問いにどう答えたものかと戸惑っていると、いつの間にか氷戈の右の手を見知らぬ女の子が握っていた。
「あなた、お名前なぁに?どこから来たの?」
真っ青なショートヘアを下ろすこの子もまた氷戈と同い年くらいであり、そのおっとりとした喋り方とは裏腹に手を握る力はかなり逞しい。
「へ...?な、名前...?」
あまりに突然のことで氷戈が狼狽えていると、今度は脳天に衝撃が走る。
ベシっ!!
「いだッ!?な、何ッ!?」
「ちょーッ!!うちのシーナになにすんのよッ!!?この変態っ、スケベっ、R18っ!!」
慌てて衝撃の出所を見ると、先ほど『ルカ』と呼ばれていた女子学生が氷戈の手を握って来た女の子である『シーナ』を抱き寄せ、物凄い眼光でこちらを睨みつけていた。
「よくもシーナの純白を奪ってくれたね!?あなたがどこの誰かは知らないけど、どこの誰だろうがここで死になさい!!」
ルカは青く光った片手を氷戈へ向けると、そのまま源術を放とうとする。
「そんな理不尽なッ!?ちょッ、待っ_」
「消し飛へにゅぅうッ!?」
「へ?」
限界まで高まったエネルギーが氷戈に発射されることは無かった。
何故なら一方からシーナが、もう一方からは例の男子学生がルカのほっぺたを限界まで引き延ばしていたからである。
「いッ、痛いイダイッ!!?二人とも離してってッ!!」
「バカ言え...こいつが変態って、お前目付いてたか?」
「そうだよ、おねーちゃん。これでこの人が変態なら、おねーちゃんはもっと変態だよ」
「はぅッ...!?」
二人はルカが正気に戻ったことを確認するとつねっていた手を緩め、氷戈に向き直る。
「ごめんな....こいつ、妹の事になると知能レベルが落ちるんだ」
「わたしたちからも、ごめんなさい。あなたのことが知りたかっただけなの....」
シーナは姉の頭を無理やり下げさせ謝罪をする。
最初は少しおかしな奴かと思ったが、案外しっかりしているのかもしれない。
「い、いや大丈夫...えっと、君たちはここの学生なの?」
「おうよ!!俺はオリバー。ちょっとしたツテでここへ留学に来てんだ」
「わたし、シーナ。世界中を旅するために、強くなり途中....ほら、おねーちゃん」
シーナは不貞腐れる姉へ催促する。
「うッ、シィちゃんが言うなら仕方ない....私はルカっ!!好きなものはシィちゃん、嫌いなものはシィちゃんの嫌いなもの、座右の銘は『シィちゃんに害なすものは早く死ね』。将来はシィちゃんと結婚するつもりでいるから手は出さないこと、いい!?シスコンと呼ぶなら呼べばいいんだ!!」
「おねーちゃん、ちょっとだまって....」
「あーん♡シィちゃんかわいいもっと罵倒して♡」
「おー...」
-す、凄い....シスコンキャラは今までたくさん見て来たけど、ここまでのは流石に稀だ。流石だぜ、リアル異世界ッ...!!-
ルカの勢いに引くどころか、鼻の穴をヒクつかせて逆に興奮を覚えるこのファンタジーバカも中々の狂いようである。
そんな氷戈の心の内など知らぬオリバーは当然の質問を投げかける。
「そんでさ、結局君は茈結の人なん?」
「えっと...ま、まぁそんな感じかな」
氷戈の煮え切らない答えに、オリバーは首を傾げる。
そこへルカが割り込んだ。
「・・・あッ!!もしかして噂の!!」
「噂...?ああ、最近茈結の裏庭の木々を手当たり次第氷付けにしてる変質者が居るってやつ?」
「そうそう!!ええっと、なんて言ったけな....」
「あ、あで?」
-リグレッドさん?『茈結の人たちには話通しておくから』って言ってなかったっけ...?-
変質者扱いされている事を聞いて焦る氷戈を側に、シーナが呟いた。
「『忘レ人』...」
「そうだそれ!!あんな規模を一瞬で凍らせられるのは『忘レ人』としか考えられない、ってラビ先が言ってたんだよね」
「え...でも、もし本当にそうなら記憶が無いって事だよな...?」
「あ、そっか....」
目の前の三人が勝手に話を進め、なんだか申し訳なさそうな目線を向けてきたので慌てて弁明を図った。
「いやいや!!その『忘レ人』っていうのが何なのか知らないけど記憶ある!!あるから!!」
「んあ?そうなのか?」
「じゃあただの変質者?・・・あ、そうだ。きゃー、せんせー助けてー。この人でーす」
「そんな棒読みなことある...?」
どうにかして氷戈を陥れたいらしいルカを制止することもなく、半ば諦めムードでツッコミに回る。
「それであなた....お名前は?どこから来たの?」
そのやりとりを横で聞いていたシーナは、またも食い気味に問うて来たのだった。
氷戈は少し驚きつつも、返答した。
「え?あーと...ど、どこかは言えないんだ。けど名前は氷戈だよ、無連 氷戈」
「そっか...言えないなら、仕方ない」
あからさまにしょんぼりとするシーナを見てオリバーが聞く。
「どうしたんだよシーナ?そんなにヒョウカの事が気になるのか?」
「うん、一目見た時から...とても気になる」
ピキぃ....
「ゲェっ!?」
シーナの発言の直後、ガチで聞こえたピキり音にオリバーは思わず感嘆詞を漏らす。だがどうしてか、氷戈とシーナには聞こえなかったようで。
オリバーは「もう喋るな!!」とジェスチャーで必死に伝えるも氷戈には変な目で見られ、シーナは耽ったまま続けるのだった。
「なんだろう、この気持ち....あ、分かっ_」
「_なきゃ」
「え?」
シーナの言葉を遮った、怨嗟すらも感じられる声に氷戈は耳を傾ける。
「_なきゃ、消さなきゃ...シィちゃんに色目を使う奴は消さなきゃ、だよね...?」
「は、はぁッ!?何言って_」
「逃げろヒョウカっ!!今ならまだ間に合_」
「消し飛ぶべし消し飛ぶべし....やっぱりお前は消し飛ぶべしッ!!あッ、逃げるな痴漢野郎ッ!?」
「うあぁぁぁッ!!?痴漢って何ィ!?その場で立ってただけじゃんかッ!?」
「目線がエロいのよ!!コラ待てェェッ!!」
「おーっし、氷戈ぁ?ほなそろそろ行くでー、って...ありゃ?どしたん、これ?」
現場へ戻って来たリグレッドは阿鼻叫喚な状況に首を傾げるも、直ぐに笑って言うのだった。
「ナッハッハっ!!なんや、自分らもう仲良うなったんか!!ボクの学舎が賑やかになってくれるんは嬉しい限りや」
「本当にいいのか....あれで?」
「死ねェぇ!!!」
「ぎゃぁぁああ!!?」
どこの世界に行っても追いかけ回されるのは変わらない氷戈であった。
☆登場人物図鑑 No.15
・『トーラ・スカルテー』
茈結所属/24歳/145cm/39kg/欲『仮治鎚』
茈結専属の医者。身体が小さいので白衣をダボダボに着こなす事が出来るが、本人は普通に邪魔だと思っている。好きなことは怪我人の手当てと激辛料理巡り、抱き枕コレクション、静かな場所。苦手なものはカフェインと虫、高い場所、注射。
欲『仮治鎚』は『専用のハンマーで殴った患部をその威力分だけ治療する』というもの。例えば『擦り傷を治す場合』は少し叩けば完治するが、『骨が折れた場合』だと思いっきりぶっ叩かなければならない。トーラのぶっ叩きの威力を越える重症の場合はどうにもならない。
患部の治療において即効性があり、余計な動作を要しない点は非常に強力であるが、叩かれた時にしっかり痛いのが玉に瑕。別名『傷口に鉄槌』『泣きっ面に殴打』等々。




