98 傷だらけのヒロ③
翌朝、日の出前に目が覚めた。
ロロナにリンゴジュースを飲ませているところだった。
二人ともふらふらとしてはいたが、厠へ行きたいと立ち上がった。ギルマスが心配しながらも連れて行ってくれる。
戻ってきた二人を椅子に座らせ、昨夜の卵雑炊を再加熱したものを食べさせた。
二人とも、壁に寄り掛かってはいるもののなんとか自力で食べられるようになっていた。ヒロは腕が痛いようで反対側の手で食べているが、大丈夫だろう。
「ギルマス。ありがとうございます。二人とも大丈夫そうですね。」
「そうだな…よかった。」
「ギルマスのおかげです。医者に見せてくださいましたからね。」
「そんなことは大したことじゃない。リュウジさんの薬のおかげだ。」
ギルマスは少し迷ったように視線を左右に漂わせてから、隆二を見た。
「リュウジさん、大変図々しいお願いだが、二人ともよくなっているようだし、もしできるなら、この容器に入っている薬の残りを譲ってもらえないだろうか?」
「それを?構いませんが…」
「それと、もし卵を持っているならそちらも1つ譲ってほしい。もちろん金は出す。」
「ありますよ。少々お待ちください。」
隆二は、卵を1つとデカビタミンの未開封をリュックサックから取り出した。それを見て、ギルマスが目を見開いた。さらに、隆二は常温保管の牛乳200ml1本を取り出した。
「ギルマス。ご家族に飲ませるのであれば、最初にデカビタミンを1/10本ほど飲ませて、時間を置いてからもう一度デカビタミンを飲ませ、次に飲めるようならこちらを開けて温めて飲ませてください。砂糖が残っているなら砂糖も入れると飲みやすくなります。これは開けたら置いておけません。飲ませる相手が飲めないなら、他の人が飲んでしまわないとなりません。すぐに腐ります。」
「わかった。」
「これを飲んで寝ておきたら、デカビタミンを飲ませて…が基本です。卵はそれからがいいでしょう」
「リュウジさん、わかった。そのようにやってみる。」
「ギルマス、対価はあとで構いませんので、ご家族の元へ行ってください。」
ギルマスは、礼を言うと慌てて出て行った。
ギルマスは砂糖を欲しがっていたし、今回のデカビタミンを欲しがったのも、ロロナと同じ症状の家族がいるのだろう。
薬師がくれた砂糖とヨモギの薬は滋養強壮の薬だった。枯れ死病と言われている病は、病ではなく栄養失調だと思う。
そんな状態なら確かに砂糖は有効なのだろう。だけど、それだけでは一時しのぎにしかならない。根本的に足りていない栄養を補わなければ、またすぐに元に戻ってしまう。
隆二にできるのは、目の前にいる人と関わった人の大切な人にほんの少し手を差し伸べることだけだった。
隆二はなんとも言えない気分になる。
「リュウジさん、二人とも食べ終わっています。」
「あっ…食べられてよかった。まだ食べられそうか?」
「うん、食べられるけど…」
隆二は、以前4等分にしてシアンに食べさせた残りの3切れの誠実を取り出した。芯を取り、皮をむいて1切れずつ生のまま与えた。
「あまい…」
「美味しい…どれも美味しい…」
ロロナが泣いてしまった。ヒロは離れたベッドからロロナを見て泣いてしまう。シアンは無表情で食べていた。
「二人とももう少し寝なさい。」
「リュウジさん、ここにいてくれる?」
「ああ、いるから心配しなくていい。」
シアンは、宿へと帰らせた。
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