93 ベビーリーフ
「リリア」が一部「リリー」となっていたため訂正いたしました。
隆二は、プランターを見て少し困っていた。
ベビーリーフが、育ちすぎて若芽ではなくなっていた。密集しすぎてもいるので、インベントリへと根ごと収納して植え替えを行う。できるだけ最低限の間隔での植え替えをしてみたが、1つの盥だったものが4つになってしまった。そのせいでベランダどころか室内にも置くしかない。
レタス類は外側から摘んでいくと長く収穫できる。
『箱』にいれるのは厳しいが、インベントリでも2日くらいは持つだろう。そうだとしても…食べるのには多い。
籠1つ分を収穫してしまったので、それを持ってギルドへ向かった。
「今日は販売日ではないが、何かありましたか?」
ギルマスが、カウンターの向こう側に出てきたので近づいたところで問いかけられた。
「いえ、おすそ分けに来ました。」
「おすそ分け?」
ギルマスへ近づき、籠にかけた布を外して見せた。
「〇×▽!!!」
ギルマスが慌ててカウンターの中へ俺を押し込めた。
そのまま奥の厨房へ連れていかれる。
「それっなんっ!?」
「ベビーリーフが育ちすぎてしまって、普通のレタス類になってしまいましたね。こっちはゴマの香りのする葉っぱです。」
「まさか籠売りしたいとか?」
「いえ、お裾分けですよ。多く取れたから皆さんで食べてください。」
「は?」
ギルマスに籠を渡した。
「では、また明日粥を売りに来ますね。」
「いや、ちょっと待て。皆で食べてって…ただでくれる気か?」
「はい。収穫しすぎて食べきれないので…」
「はぁ!?」
「ほら、前に宿に来た時にご覧になった桶のベビーリーフです。」
「ああ、あれか…あれがここまで?」
「そうです。育ちすぎましたけどおいしいですよ。生で食べても大丈夫です。洗ってありますから、そのままどうぞ。」
「そうなのか?」
ギルマスが1枚食べた。今食べたのは、サラダ菜だ。やわらかいけど苦味がある。
「うまいな…新鮮な葉物なんていつぶりだろうか…」
「うまいでしょ。食べてください。それだけあればギルドの皆さんで食べられると思います。いろいろな葉物がありますが、ちぎって全部混ぜて食べるとおいしいですよ。」
「いや、助かるが…」
「いつもカウンターをお借りしているお礼です。」
「そうか?それならありがたく…」
商業ギルドのギルドマスターであるヒイロは、籠を持ったまま呆然と隆二を見送った。
「ギルドマスター大丈夫ですか?」
他人行儀に声をかけてきたのは、娘のリリアだ。
その後ろには、サブマスのシュリーもいた。
「こいつを見てみろ。」
「はい、一体何が…!?」
リリアが籠にかけられた布を外すと、2人とも声を上げて口を押えた。
「これっ…葉物野菜ですか?鮮度が…いま摘んだみたいな…」
「あっ…これってまさか、あれですか?部屋で育てていた…」
シュリーが思い出したらしく、そう問いかけてくる。
ヒイロは視線を合わせて頷いた。
「あんな小さな畑でこれを収穫ですか…本当に信じがたい人ですね。」
「もの知らずだと思っていたが、これをおすそ分けだと言っておいていった。この価値がわからないらしい。」
「おすそ分け?今の時代にこれを?」
「ああ」
「生の野菜の価値もわかっていないのですか?」
「そのようだ…」
「あの…お話し中にすいません。部屋にある小さな畑とはどういうものですか?」
「リュウジさんの部屋を訪ねた時に、ベランダに盥を置いていた。その中に土を入れて育てていたのがこれらしい。」
「宿の部屋でこれを育てたというのですか?」
リリアの驚きはもっともだが、ヒイロとシュリーは頷くしかできなかった。
「部屋で野菜を育てるなんて聞いたことがありません。それに、土地が枯れていても…そんな事が出来るなら…」
リリアの言葉のその先を3人ともが考えてそして打ち消した。
いくらなんでも夢物語すぎる。
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