92 職人と隆二
職人は金属の棒を3本が三角形につながっているものを四角い箱の内側に取り付けた。
「この針は、三又という槍の先だ。間が3センチほどあるのから、真ん中に入ってしまうと仕留められんが、1本ぐらい当たるだろう。狭い三又だと水になるから、スライムの身が欲しいのには向かねえ。当たらなかったら、少し回してもう一度被せるといいだろう。」
目的は伝えていないのに、読み取ってくれていた。1で10を知るタイプのようだ。
「使ってみてもいいか?」
「もちろんだ。」
隆二は、蓋を外しすぐに箱をかぶせた。ぷよんという感触がしたところでぐっと押し付けると固いものに刺さった感触がある。
箱を持ち上げると刺さったままのスライムも持ちあがってしまった。
「そうなるのか…ちょっと待っていろ」
ガサゴソとして、職人は火箸のようなトングを出してきた。
「手で取るにも、三又は危ないからな自分の手までケガをしかねん。これで核を摘まんで引き抜くといい。」
隆二は受け取ると、火箸を差し込んで核をつかみ引き出した。核はビー玉というよりは、もう少し柔らかい。固めのグミのような弾力だった。左右に捩ると、すぽっと抜けて面白い。緑スライムの核は緑色だった。
「これはいいですね。」
「緑や青はいいが…赤や黄は気をつけろ。本当に一瞬で大やけどになる。」
「わかりました。それで…これはおいくらでしょう?」
「うむ…そうだな…失敗作の三又を使っているし、大銀貨1枚でいいだろう。火箸もつけてやる。」
失敗作を再利用した割には高いと思ってしまうが、金属自体が高いので仕方ないのだろう。
「俺は隆二です。また何かあったら来ますのでよろしく。」
「ふん、俺はドラムだ。話くらいは聞いてやる。作れるかどうかはわからんぞ。」
「かまいませんよ。相談に乗ってください。これ代金です。」
隆二は、大銀貨1枚を渡すと工房を後にした。
それから、隆二は木箱を増やし、部屋にいる間はインベントリから出して様子を見ながら時間を過ごすことにした。
一応、忠告を受けたのでスライムを触るときにはレインコートを後ろ前に着ていた。つまり顔にフードをかぶっている状態だ。スライムの放つ液が塩酸や硫酸なら意味がないかもしれないが、多少の物であれば防げたらいいなという希望的判断だった。
アイテムリストにある防護に使えそうなものはレインコートとラテックスグローブ、それと眼鏡くらいだろう。眼鏡は花粉アレルギー用の透明なものと老眼鏡しかないのでアレルギー用の物もかけていた。できる限りの完全防備だが、怪しいことこの上ないので、とても人には見せられない。
シアンにだけは手伝ってもらうため同じ格好をさせている。
シアンは、アイテムボックスのようなスキルには気が付いているのだろが、何も言ってこない。何も思っていないわけではなく、足音が聞こえると教えてくれるので、人に隠すことだとは思っているらしい。
そうやって隆二は、スライムを養殖しながら記録をしていく。そして、増えすぎるとドライスライムへ加工していった。
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