91 職人
隆二は、宿へ戻ると熱さましのドロップを3等分にスライスして乾かした。
3回~5回分と言っていたので、溶かして全部飲ませるか半分ずつの2回に分けるかは飲ませて様子を見ながらでもいいのだろう。
それから、スライムを仕留めるための針を探すことにした。
槍は長いので、室内では向かない。薬師は桶の中で仕留めていたが、籠のほうが良い気もする。いずれにせよ刺す道具がなければどうにもできない。
偶にならあの薬師にスライムを届けてもいいだろう。
透明スライム1匹で金貨1枚はおいしい。400匹売れば目的の家が買えるが、そんなに流しては値崩れするだろうから実行はできない。
半分でドロップ100個分ということは、ドロップ1つを固めるスライムだけで5000ダルだ。
そうなると、あのドロップはいったいどれほど高い値がつけられているのかと考えると体が震える。
日持ちさせるのは、この世界では難しいことなのはなんとなく理解していた。
特に薬は、煎じて数時間では短すぎて必要な時に使えない。ドロップ剤の有用性は理解できるし広まってほしいが、薬草のこともあるから大量に作るのは難しいのだろう。
生きた物を届けるのは年数回にしても、ドライスライムを作るのは悪くないだろう。自分でも何かに使えるかもしれないのだ。スライムを育てる木箱を増やすつもりだが、世話をするにも限度があるので処分後の手段があるのはありがたい。
隆二は店を鉄器職人の店で武器職人を紹介された。
「スライムだって?槍がいいと思うぞ。」
「槍だと長すぎて…できればこのくらいの長さが…」
隆二が手を広げて示した50㎝ほどを見て、職人は眉をひそめた。
「そんなに短いと、スライムと至近距離になる。反撃して液を吹きかけられたら最悪の場合失明する。危険なことはするもんじゃない。」
「危険なことはしませんよ」
「スライムと対峙すること自体が危険だって言ってんだ。わかんねえ奴だな。そんないい服を着ているやつにはお遊びのつもりだろうが、相手はモンスターだ。人間の道理なんざ通用しねえ。お貴族様だろうと金持ちだろうと貧乏人だろうと危険性は同じだ。」
「そんなことはわかっていますよ。」
「わかってねえから言ってんだ。」
なるほど、この人口は悪いがめちゃくちゃいい人なのだろう。人間の道理では、俺は遠慮をする相手だといいながら、これだけの忠告をしてくれている。
あまりにもいい人なので、誤解は解いたほうがいいと思ってしまった。
「ちょっとお見せしますね。」
隆二は、リュックサックを下して中から桶を取り出した。
「この中に、緑スライムが入っています。こうやって捕獲したスライムを仕留めるときに使いたいのです。」
「捕獲済みってわけか…でも危険なことには変わらない。緑スライムの吐く液は臭くてしばらくにおいが残る。それに目に入ったらヤバイ代物だ。」
「えっそうなんですか?」
「ああ、この距離で仕留めて平気なスライムなんて、青くらいだろう。それだって顔に乗っかられればこっちがあぶねえ」
「なるほど…では、これを安全に仕留める道具を考えてもらえますか?」
「…つまり、あんたは必ず桶に入れてから仕留めるだけなんだな?」
「そうなりますね。」
「それならちょっと待っていろ。」
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