90 スライムの
薬師は手早く薬草を持ってくると調合を始めた。
それを湯に投じ、かき混ぜている。そんな鍋がいくつもできた。
「おぬし、これをゆっくりとかき混ぜてくれぬか?5つの鍋を順番にかき混ぜてくれ」
「いいよ。かわろう。」
隆二がかき混ぜに入ると、薬師は透明スライムを小さく角切りにし始めた。半分ほどを角切りにし、残りをスライスしている。
「切り方を変えるのはなぜだ?」
「角切りにしたのは、今すぐ使う。スライスしたのは、これを乾かしてドライスライムにするのだ。一度には使いきれぬからな。」
「なるほど。スライムを入れた薬ってどんなものだ?この間の枯れ死病の薬以外にも使うのか?」
「薬の作用には影響はない。作った薬を日持ちさせるドロップにするために使うのだ。」
「ドロップ?」
「そうだ。濃い目の薬の元だ。湯に溶かして必要な時に使える。昨日見ただろう?」
「なるほど、あれか…それはいいですね。」
「薬というものは煎じてしまえば、数時間で薬効がなくなってしまう。粉薬でも1週間しか持たぬ。だが、ドライスライムを入れて作ったドロップであれば半年くらいは保つ。それにドロップを溶かした液薬も3日は保つようになる。」
「なるほど、それは使い勝手がよくなるな。」
「そうであろう?透明スライムでなければ薬効を保てぬ薬があるのでな。それを急いで作っておるのだ。鮮度の良い物を使えば1年近くまで保つ。青スライムはどう鮮度が良くても半年程度だな。」
「なるほど、勉強になる。ドライスライムはどうやって干すんだ?」
「ちょっと待っていろ。やって見せる。」
薬師は、角切りにした透明スライムを5つの鍋に入れていく。それを隆二がかき混ぜていると淡く光った。
薬師は、それを見て火からおろして木でできたトレーに流した。
それを5回繰り返している。
「さすが鮮度がよいな。大成功だ。」
「それはよかった。これは何の薬なんだ?」
「こちらから、熱さまし2枚、痛み止め2枚と咳止めだ。」
「へぇ…」
「冷やし固まったら、角切りにする。一つで20個になる。100倍に薄めた物で5回分になる。」
「なるほど、熱さましだと急に必要になるからドロップにしておけるのはいいな。」
「そうであろう。それに材料がいつでもあるわけではないからな。作れる時に作らねば効果が落ちる一方だ。」
「そうなのか?」
「ああ、薬草を乾燥させてある程度は持たせられるが…生薬に勝るものはないからな。今日のわしはついている。」
薬師はにへらっと気持ち悪い笑みを浮かべた。
「では、ドライスライムの作り方だったな。やって見せようではないか。このように穴をあけて縄を通し、日陰の風通しのよいところで干す。」
「それだけ?」
「それだけだ。ただし、乾くのに時間がかかる。かびてしまえば貴重なスライムがゴミになる。スライスするときに1㎝以下にしても1週間はかかるからな。」
「なるほど、勉強になる。」
「ドライスライムはどうやって使うんだ?」
「それは、砕いて煮込む。粉に挽くのもよいが力がいるのでな。ゆっくり煮溶かしておる。」
「なるほど…青も同じか?」
「同じだ。」
「勉強になった。これは礼だ。」
隆二は、リュックサックから取り出すふりをしてヨモギ草50を取り出した。
「よいのか?これほどの品はなかなかないぞ。おぬし採取の腕は抜群なのだな。」
「そうなのか?褒められるとうれしいな。」
「ふむ、これほどの品をいろいろと助かった。ちょいと待っておれ。」
薬師は、固まったばかりのドロップを1切れコップに入れて渡してきた。
「これは、熱さましじゃ。枯れ死病の者は回復の時に発熱することがある。そうなるとそのまま儚くなることもあるのでな。それで3回分か5回分にはなるであろう。まだ柔らかいからすぐに使わないならそのまま日陰に置いておくとよい。」
「わかった。ありがとう。」
隆二は、宿へ帰った。
明日ヒロに会ったら、これを渡してやろう。そう考えていた。