86 薬師の店
粥売りを終えた隆二は、シアンへ荷物を預け先に帰らせた。
そのまま、ヒロと連れ立って薬師の元を訪ねた。
屋台広場周辺にある街中の店ではないらしく、街はずれで細い道へ入った。
地元の人が利用する商店が並んでいるらしい。
商店街は、レンガ造りの立派な建物が多いが、1本入ると木造の建物になっていた。
「ここです。いいですか?」
「ああ、もちろんだ。」
「すいません…」
ヒロが声を掛けながら、店のドアを開けた。
この世界ではガラス窓はあまり見かけないが、薬局の入り口横には腰高の窓がついていて、自然光で明るい。
薬師の店は、漢方薬局のような匂いをしていた。
店先は3畳ほどと狭く、木材で出来たカウンターがあり、その後ろの棚には引き出しが無数に並んでいた。
棚の上部には、ドライフラワーの様に逆さまにされた草が掛かっていて、干しているようだ。
もう一度ヒロが声をかけた。
入店してしばらくしてから出てきた老人は、隆二を見て相好を崩した。
「これはこれは、お待たせしましたな。どういった症状にお困りかな?」
隆二は、ヒロの背中を押した。
「あのっ、枯れ死病だと思う。妹の手足が棒みたいで、ほとんど寝ていて…」
「食事はできているのかな?」
薬師の問いかけにヒロは首を振った。
「それでしたら、枯れ死病でしょうな。朝と夜飲ませる薬は5日分で銀貨5枚になる。」
その言葉にヒロは目を見開いた。
5万ダルは、成人男性が1か月の重労働をして得られる金額だった。
「わかった。では、それをもらおう。」
「5日分でよろしいのか?」
「ああ、それでいい。飲ませてみないと合うかもわからないからね。」
「ふむ、よろしい。では、少々待たれよ。」
そういって、薬師は店の奥へと行ってしまった。
その間、店を見回していた。
薬師の棚には、さまざまな生薬の名が書かれているようなので、スマホを取り出し写真を撮っていく。
「リュウジさん、そろそろ戻ってきそう」
「ん」
ヒロは、隆二の行動に何も言わないが人に見られるのはよくないと判断したらしい。忠告に従い、スマホを仕舞った。
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