85 シアンの回想⑤
シアンは最初こそ隆二に警戒したものの、これほどの主人に出会えることはないと確信していた。
自分のような者に、今のような生活を与えてくれる。寝るところも食べるところも用意してくれて、ひどいことはされていない。今の働きではまったく合わない自覚はあった。
せめて、リュウジさんに近づく危険な物があるなら、排除するのは自分の役目だとも思い始めていた。
「ごめん。そんな顔しないで。」
ヒロが、慌てて謝った。
「詮索したかったわけじゃないよ。リュウジさんにはとても感謝している。仕事をくれて粥を手に入れられるようになって…本当にうれしい。うれしいけど…」
「ヒロさん?どうしたの?」
ヒロが泣き始めて、シアンは驚いた。
驚きながらも、リュウジさんがしてくれたようにヒロの背中を撫でてみる。
「ごめっ」
「いいよ。落ち着けるまでないていいよ。」
「どうした?」
リュウジさんが様子を見に来てくれたらしい。
ギルドの井戸の脇で泣いているなんて、目立ってしまっていた。
「ヒロさん、シアンにいじめられたのか?」
「そんなことしないっ!」
「違います!!」
シアンが否定すると同時にヒロさんも否定してくれてホッとした。
「リュウジさん、いつもお仕事させてくれてうれしいです。とても助かっています。でも、僕…とても困っていて、お金を貸してもらえませんか?」
「金?」
リュウジさんが、ヒロを見つけてから首を傾げた。
「いくら貸してほしくて、何に使う?」
「妹が…」
「妹?」
「妹がいます。2人だけの家族で…でも、妹が死んでしまいそうで、薬が欲しいから…」
「妹さん、粥は食べているのか?」
「汁を少しすするくらいです。食べさせたいけど、食べてくれなくて…」
「そうか…」
「はい…」
「薬はどこで売っている?」
「それは、薬師の店です。」
「場所はわかるのか?」
「はい」
「金額はわかるか?」
「いえ…とても高価だとしか…」
「それなら、俺もついていこう。金は出す。その代わりこき使うからね。」
「え…」
ヒロが呆然とした顔で声を出した。
たぶん、俺も同じ顔をしている。リュウジさんなら、俺のご主人様ならそう答える気はしていた。だけど、本当にそう答えるのを見るとやっぱり驚いてしまう。
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