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83 シアンの回想③



 「粥が来たから、食べに来なさい。」



 足の震えが止まらないと焦っているところへ、あまりにも呑気な言葉をかけられて震えが止まった。

 シアンは男についていく。機嫌を損なったら粥は食べられなくなってしまう。



 「俺の部屋は、ここの一番奥だ。しばらくは、シアンが部屋を出る鍵は俺が預かるが、そのうち信用できると思ったら、鍵は渡す。それまでは不自由だろうが、我慢しなさい。君が何か問題を起こしたら、俺の責任になってしまうからな」

 「うん。」



 シアンは移動中、自分の服を見てその鮮やかな色に見惚れ、その手触りの良さについ服に触れていた。

 思い出して髪を触り、短く切りそろえられたことを思い出し、その慣れない手触りに何度も触ってしまう。

 そうしているうちに一番奥の部屋についた。



 「ここだ。入って…。」

 「うわぁ…さっきの部屋に驚いたけど、ここもすごい。」



 思わず言ってしまった。あの部屋でも驚いたのに、この部屋にはテーブルに椅子などいろいろな物がおかれていた。



 「シアン、住んでいるところに荷物があるなら、取りに行こう。」



 シアンはすぐに首を振った。荷物なんてあるはずがない。

 服だって着ていたものだけだった。




 「それじゃあ、そこに座ってその湯冷ましを飲みなさい。それから粥を食べよう。」



 シアンは、勧められた席に座った。すでに湯の入った竹カップと粥を置いてある。

 カップを持ち上げて、湯冷ましといわれる物を飲んだ。

 するりと喉を落ちていく。竹の香りのする水は初めて飲んだがおいしい。


 男を見ると、じっと見ているがダメではないようだ。

 スプーンを使うのは久しぶりだったけれど、何度かはあった。手を伸ばすと男がうなずいたので、スプーンで皿の白い粥を掬い上げた。


 湯気が立っているものを食べるのは初めてかもしれない。

 そのまま口に入れてあまりの熱さに驚いた。コップの水を飲み、今度はゆっくりとした動作で食べる。

 白い汁の中に粒が見える。ほんのりと甘く少ししょっぱい。

 こんな贅沢なものを食べさせてもらえるなんて、たぶん今夜死ぬのだろう。

 だけど、それでもいいと思った。

 これからひどいことをされるとしても、こんなにおいしいものを食べて死ねるなら、俺は幸せなんだと思った。


 そんな思いで食べていると、男は見たことのない金色の丸い果物を取り出した。ナイフでそれを切り分け、種の周囲を切り取る。その器用な手つきを眺めていた。


 俺の視線に気が付いたのか、目の前の男はそれを俺の前にずいっと出してきた。



 「食べてごらん。甘くておいしいぞ。」

 「うん」



 その実を受けとり、噛り付く。

 じゅわっと甘い汁が口いっぱいに広がっておいしい。

 こんなにおいしいものは食べたことがない。さっきからずっと初めてのおいしいものばかりだ。なんでこんなにおいしいものがある?

 なぜか涙があふれてくる。




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