81 シアンの回想①
シアンは、粥売りを終えた隆二へと声をかけた。
「リュウジさん、お鍋いいですか?」
「ああ、うん…シアンお願い。」
リュウジさんは、鍋の中身をきれいにこそぎ落とていた。
接客中に空になった鍋はすぐに下げて水に浸けてある。水に浸ける前に、リュウジさんの真似をして湯をかけて濯いだものをカップに入れるのも忘れていない。
食べ物はとても貴重で、売るほど持っている人は少ない。当然、それを溶かしたお湯だって貴重だ。
シアンにとっては当たり前のことだけど、リュウジさんは苦笑いしながら説明してくれたのだ。
「残り物というか、滓だけどね。貴重らしいから…」
食べ物は貴重品だ。当たり前の事だけど…リュウジさんといると、その感覚が少しおかしくなる。
シアンが井戸の水で洗い物を終え振り向いた頃には、隆二もギルド用の粥の取引を終えていた。
「シアン、洗い物は終わったか?」
「はい、すべて片付けました。」
「そうか、それなら水浴びに行こう。」
リュウジさんは、腰から金袋を提げてはいるけれどあれはダミーだと一緒にいて気が付いた。
もうひとつの財布は、金物の口がついていていくらでも入るようだ。
その財布も普段はアイテムバックに入っているようだ。
いつも背負っているバックからは、なんでも出てくる。とても見た目と見合わないので、早々にアイテムバックだと気が付いた。
「アイテムバックはとても貴重なものだ。国内にも数えられる程度しかない。リュウジさんは、その辺をわかっていない。シアンが側にいるなら、周囲に悟られないようにフォローしてやってくれ。」
ここに来るようになってすぐにギルドマスターが言ってきた。
リュウジさんに何かあって困るのは、俺自身だ。
シアンが物心のついた時には、路地の浮浪児集団にいた。
俺が幼い頃は、まだ食べ物は売っていたので店主が客と話している隙に奪って食べていた。
時には畑まで行って直接盗んでくることもした。
浮浪児の集団ではあったけれど、10才のリーフがまとめてくれていて、小さい子にも食べ物を分けてくれていた。そのおかげで生きてこられたけれど、そのリーフもある日目を覚まさなかった。
たくさんいたはずの仲間たちもいなくなり、自分ひとりになって早々にしくじって捕まった。
慣れないことをするものではなかった。
兵士たちに捕まり「指を落とす」と言われて頭が真っ白になった。
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