8 はじめての道③
隆二は、枝に干していた洗濯物をすべて取り込んで車へひきこもる準備をする。
ズボンとTシャツをたたむと運転席の横へと置いた。
一つ興味があった。漫画でよくあるやつだ。切り倒した木ではなく立っている木を収納するというのはできるだろうか?
隆二は、少し離れたところに2本並んでいる木の前へ移動した。
スマートウォッチのインベントリを開き、手首のスマートウォッチを押し当てた。木が1本だけ、周囲にうっすらとした光を帯びた。
『収納するのかにゃ?』
「YES」
「うぉっと…あぶねえ」
目の前の木が消え、足元が崩れた。隆二は慌てて膝をついた。根が張っていた場所の土が崩れたようだ。木の幹の太さの穴が目の前にあり、結構深そうで落ちなくてよかったと思う。
スマートウォッチを見ると、木のアイコンが増えている。根も表示されているあたり、斧で倒した木と判別できるようにだろうかと思う。
この穴を埋めないと事件になってしまう。
木の収納ができるなら、土もできるような気がする。隆二は泉の前の開けた場所の土へスマートウォッチを付けた。周囲の土がぼんやりとした光を纏った。手首を目の前にする。
『収納するのかにゃ?』
「YES」
『形のない物、小さすぎる物は容器が必要にゃん♪』
容れ物?そりゃあそうか、土を1粒ずつとか言われても困る。ビニール袋を収納してから、土の収納を行った。買い物用のビニール袋なので、入る量はあまりない。それを穴のところへ移動して投入するのを何度か繰り返した。
集めなくても収納できるし、重い物を持ち歩かないのはチートだと思うが、それでも行ったり来たりと何往復も歩いているため疲れてきていた。何度も同じことを行いやっと穴が塞がったように見えた。
泉の前の広場は窪地になってしまっていた。土を集めたので、雑草なのかわからない根がついたままの葉が無数に転がっていた。土がなくなったせいで、根が土から露出したらしい。
それらを拾ってインベントリへと入れた。薬草か食用かもしれないという期待からの行動だ。
隆二は、泉の水で手を洗うと車へ戻った。
弁当の入ったコンテナを取り出した。冷蔵の弁当はこれで最後だ。あとは、冷凍の弁当はある。スナック類やつまみ系もあるから、もうしばらくは大丈夫だろう。
保存可能だと分かったことから、無理に1度に2個を食べる必要がなくなり、どうやって長く持たせるかになっていた。弁当を1日2個とスナックかつまみでごまかせれば10日は生きられるはずだ。
明るくなったら、車を動かそう。もう少し広く開けた場所があればもう一度木の収納をチャレンジしてみよう。10本もはいるなら結構広いだろうし、数だというなら草もそれなりの数が入っている。制限がかかれば、重量なのか容積なのか数なのかもある程度の予想がつく。人里に出れば確認の手段が少なくなるだろう。食料のあるうちに試してみたいと思った。