74 シアン①
「女将さん、この子を宿泊させたいけど部屋は空いているかい?」
「リュウジさんお帰り、あらあらまあまあ。ちょいと待ってね。」
女将さんは、板の確認をしていた。
「リュウジさん、空きはあるけどいい部屋じゃないよ。」
「どんな部屋か見てもいい?」
「もちろん」
女将さんの案内についていくと階段を上ってすぐ横の小部屋だった。板張りのベッドが1台とサイドに箱があるだけの部屋で窓も小さい。
「こんな部屋は嫌だろう?」
「シアンどうだ?」
シアンは頷くとベッドへ座った。
うん、嫌がってはいないらしい。階段近くとはいえ同じフロアーの方が目も届いていいだろう。
「気にしないらしいので、ここで。」
「そうかい?それなら、どのくらい泊まる予定だい?」
「俺と一緒に、しばらく泊まるつもりだから…1週間ずつの支払いでいいかな?」
「もちろんさ。それならこの部屋は小銀貨6枚でいいよ。」
それを聞いたシアンが目を見開いて顔を上げた。
大丈夫だというように隆二はシアンを見てからうなずいた。
「支払いをしてくるから、休んでいていい。」
女将と一緒に階段を下りる。
「女将さん、夕食の粥も頼んでいいかな?2人分」
「もちろんだ。美味しく作らないとね。」
「それじゃあ、これ部屋の分と粥の代金だ。」
「ああ、ありがとう。あのお坊ちゃんの名前は?」
「あれはシアンという。可愛がってくれると助かる。」
「もちろんさ。粥は食堂に来るかい?部屋へ運ぼうか?」
「俺の部屋へ頼むよ。」
シアンの部屋の鍵を受け取り部屋へ戻った。シアンはベッドの上でぐっすりと眠ってしまっていた。
出会った頃のヒロよりも痩せた体だ。髪も絡まっていて、梳いても洗っても全てを梳くのは無理だった。短く切ったからサラサラとしているが、きれいなおかっぱにできたと思ったのに、よく見れば短くなりすぎてしまった部分もある。
見えない病気があるかもしれないし、手元に置いておいて死なれるのは困る。なにより裏切られても…一応、誠実を食べさせておこうか?
あれは3回までなら完全回復させられると書いていた。だが、命に関わる事態に合った時に使ってやれる回数も減る。
それを考えると躊躇するが、そもそもそんなに命がけの事態など起きるだろうか?
粥を食べさせてから考えよう。
隆二は、シアンにひざ掛けをかけた。ひざ掛けでも十分に覆ってしまえる体格でなんとも言えない気持ちになる。
部屋の鍵をかけると自分の部屋へ戻る。あの部屋の鍵は内側からも外側からも掛けられるが、どちらから開けるにも鍵が必要である。
部屋にいる間は、鍵を差し込んだままにして部屋側の棒鍵をかけていた。寝る時は、枕元へおいていた。イメージとしては昔の靴箱のカギだろうか、上から差し込む板だった。
隆二は、部屋に戻りシアンの着ていた服を干した。
一応、洗濯したがこうやって見るとあまりにもボロボロだった。しかも、布自体がとても粗い。タコ糸を織ったような布なのだ。人の服などじっくりと見たことはなかったが、皆似たようなものだろう。そう思うと、自分の服が上等に見えるのは擦り切れや色がついているだけではないとわかる。
コンビニの取扱商品なので、シンプルな柄のない商品が多い。一部柄物がないわけではないが、この世界の人たちを見ていると購入するのはためらわれた。
シアンには、シンプルな服を選んだつもりだ。
ノックが聞こえ、出ると女将が粥を届けてくれた。それを受け取り、自分でテーブルまで運んだ。お湯の入った薬缶も受けとる。
カセットコンロで再沸騰させてから水筒へ注いだ。それとは別に竹カップの1つにも注いだ。
隆二は、シアンの部屋へ向かった。
廊下の窓からは陽が傾いていく様子が見える。
3時間ほど経っているようだ。そろそろ目が覚めるだろうか?
部屋の鍵を開けて入ると、シアンが飛び起きた。飛び起きて、周囲を見回してかけてあるひざ掛けを見て目を見開いていた。警戒している猫みたいだ。
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