73 街歩き②
「とりあえず、宿へ着いたら粥を食べさせてやろう。」
「は?」
「粥は嫌いか?」
「まさか…わかった。行く。」
周囲はざわざわとしていたが、隆二は気にせず少年を連れて歩き始めた。宿を通り過ぎたのは、汚れている少年を洗わなければ部屋に入れたくなかったのだ。
宿に部屋の空きがあれば、そこに入れたいが…最近は人気のようで満室が続いていたのだ。女将さんに相談だな…同じ部屋は、できればやめておきたい。
柄ではないけれど、少しだけ威圧的に振舞った。
隆二は、そうしてしまう自分の小物っぷりに笑ってしまう。
粥の話を出したのは、食べ物で釣っただけだ。それで逃げ出さずにいてくれるならそれでいいと思った。
「どこに向かっている?」
「とりあえず川だよ。水浴びしてさっぱりしよう。」
「はぁ…」
「さあ、服を脱いで川に入ってきなさい。」
川で水を浴びてから、川辺の石に座らせた。
「目を閉じていろ。シャンプーをするから目に入ったら痛いぞ。」
「シャンプー?」
「髪専用の石鹸だ。いいから目をつぶりなさい。」
「あんた何言って、俺なんかにそんなものを使う気かよ。」
「いいから、目をつぶって。頭を洗ってやるから。」
シアンが動くのを辞めるのを待ち、シャンプーをかけて頭をマッサージするように洗う。予想通り泡立たなかった。
一度流して、次はリンスインシャンプーで洗う。少年は目を閉じているので、インベントリの水を使って流していた。
「よし、目を開けていいぞ。これで体をこすりなさい。」
ボディソープを付けたネットスポンジを渡した。
「なんだこれ?」
「石鹸を付けたスポンジだ。それで体をこするんだ。」
「はぁ…なんだこれ柔らけえ…」
「尻も脇の下もしっかりとこすりなさい。」
「ああ、やっている。」
シアンが体を洗っている間に、服をインベントリから取り出した。パンツとTシャツにハーフパンツのフルセットは、何かあった時に販売しようと用意していたものだ。
ロティが俺の来ている物を高級品というので、売るに売れなくなっていた。
着替えさせる前に髪を切った方がよさそうだな。
「髪を切ってもいいか?」
「うん、構わないけど…」
「ケガしないようにするから安心しろ」
隆二は、シアンがおびえたのを見逃さなかった。
ハサミを取り出して前髪を揃え後ろも短く切っていく。素人なので、見様見真似だったが、それなりに切れた気がする。おかっぱになってしまったのは許して欲しい。
「もう大丈夫だよ。目を開けなさい。」
「もう?」
「よし、もう一度川で流しておいで、上がったらこれで体を拭きなさい。」
「えっ…この布で?」
「そうだ」
シアンは戸惑いながらも川へ向かった。
シアンが水浴びをして髪の毛を流している間に、隆二は周囲に落ちた髪をインベントリへ集めた。川辺に髪が大量に落ちていては事件と思われるかもしれないと思ったのだ。
もう一度水浴びから戻ってきたシアンに服を渡して着替えさせた。元から着ていた服はボロボロだったが、思い入れがあるかもしれないので、洗濯しておいた。
「あの…こんな服着たことない…」
「ん?大丈夫だ。似合っているよ。それじゃあ宿へ行こう。」
恥ずかしそうなシアンだったが、やせ細っていてかわいそうではあったが先ほどよりはましになっていた。
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