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70 宿の部屋で②



 「あの…これ…サラサラになるまで乾かしてある。」

 「そりゃあ塩だからな。」

 「混ざり物が何もないよ?真っ白だよ?」

 「ああ、精製塩だからな。」

 「これは銀貨5枚の塩じゃないよ。倍でも買えないかも…」

 「ロティさん、銀貨5枚って俺が言ったんだ。遠慮はしなくていい。」

 「いやでも…。」

 「いいって、いつも買ってくれて助かっているよ。」

「ありがとう。なんかごめん。」

 「ロティさん、正直でいい奴だな。信用できる。」

 「いや、そんな…」

 


 塩1つで50万か…生きるために必要なものだから、ある程度高くても買うだろうが、1/10の価値としてもかなり高すぎる。生きていくのに必要な分を賄えているのかも怪しいと思えてくる値段だった。

 

 だからと言って、味を濃くしては食べられなくなってしまう。

 俺の方の粥も今の味でいくしかない。



 次の粥売りの日、隆二はヒロに服を用意していた。


 「ヒロくん、今日はこれに着替えてもらえるか?」

 「えっあの…」

 「仕事着だよ。うちの粥売りの時に着てきてほしい。前の日の午後か、仕事の日に水浴びをすること。大雨とか川が危ない時には、水浴びは無理だろうから体を拭いてくること。できるな?」

 「うん…いいの?」

 「仕事着だからね。受け取って」

 「うわっこの服すごく滑らかだ」

 「そう?早く着替えて」

 「うん」

 


 ヒロは部屋の隅へ行くと、上着を脱いで渡した服を着た。



 「どうかな?」

 「うん、少し大きいけどそれくらいならすぐ丁度よくなるだろう。」

 「え…それはちょっと…」

 「大きくなるのはいいことだ。そこに座って」

 


 隆二は、ヒロの頭を撫でると椅子に座らせた。

 


 「これを飲み終わったら、カウンターの前に客を並ばせてくれ。」

 「うん」

 「それと、出された食べ物を食べるときは「いただきます」と言おうな。」

 「うん、わかった。いただきます。」



 ヒロは、目の前に置いたミルクティーを牛乳で割ったものを飲み始めた。濃厚すぎるかと思ったが、一口飲んでニマっと笑ってコクコクと飲んでいるので、大丈夫そうだ。

 成長期の子供が、あの粥だけで生きているとしたら栄養素の全てが足りていないだろう。牛乳は、全ての栄養素が入っていると聞いたことがあるし仔牛はそれで育つのだ。せめて仕事の時ぐらいは、栄養のあるものを飲ませてやろうと思う。


 

 

 それからヒロは出勤するとすぐに客を並ばせてくれるようになった。

 客たちも思いのほか、子供であるヒロの言うことを聞いていた。


 

 「ギルドで売っているからか、客たちはヒロくんのいう事を聞いて並んでくれる。」

 「そりゃそうだよ。」

 「ギルド様様だ。」

 「そうじゃなくて、リュウジさんはヒロくんに服を与えただろ?」

 「ああ、仕事着のことか?」

 「うん、あんないい服を着ている子に手を出したら、ギルドやリュウジさんがどうするか考えるからね。」

 「そういう事か、それでも守れるならいい。」

 「リュウジさんは優しいね。僕に対してもそうだし、手伝いの子供にもそうだ。」

 「そうでもないよ。しっかり計算はしている。」

 


 ロティがクスクスと笑い始めた。

 他愛もない会話を続けながら茶を飲む時間は好きな時間だ。

 日本にいた頃は、こんな時間はいつの間にか無くなっていたと思い出した。


 



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