69 宿の部屋で①
粥売りの翌日、隆二は休暇を過ごしていた。
プランターに水やりを終えると、インベントリから水漏れのする盥を二つ取り出した。どちらも60センチほどの直径がある。その下にゴミ袋を敷いて水でベランダが腐食しないようにする。盥にその辺で集めた土と腐葉土を混ぜたものを入れた。
そこに水を軽く撒いてから、余っている蕪の種を6つ蒔いた。
もうひとつの盥には、乾燥大豆を水につけたものを4粒蒔いた。大豆は種のはずだ。これで芽が出たら枝豆を食べられるかもしれない。
それが収穫出来たら、ビールと合わせたいと妄想を膨らませる。
金は結構貯まってきていた。
小銭入れに入れると、いくらでも入るのでいくら入っているのかさっぱりわからない。それでも、稼いだ金額は大まかには覚えているから、買い物にそれなりに使っていても、溜まっているに違いないのだ。
「リュウジさん、いる?」
「ああ、ちょっと待って」
ロティの声にドアを開けて、部屋へ入れる。
「また小さい畑を増やしたの?」
ロティの視線が、ベランダへ向けられていた。
「ああ、枝豆が食べたいが売っていないので育ててみようかと」
「枝豆ってどんな豆?」
「大豆だ。大豆を緑色のうちに早採りしてさやごと茹でる。」
「リュウジさんがそんな顔をするなんてよっぽど美味しいものなのかな。」
「わかるか?」
「うん」
ロティがおかしそうに笑うので、隆二も釣られて笑った。
「米がなくなったのか?」
「それもあるけど、この間屋台街に来ていただろ?」
「ああ、盥を買った時かな?」
「うん、あの時思ったのだけど…隆二さんの財布はかなり変わっているからさ。これ使ってよ。人前ではこのくらいがいいと思う。」
目の前に、粗い布で作られた袋が置かれた。
「屋台であの財布は見せないほうがいいと思う。それと、それを腰にぶら下げていたら、万が一スリが来ても被害はそれだけで済むだろ?」
「なるほど、そういうことか。腰に下げていないのは不自然だったのか。」
「そういうこと。リュウジさんの場合服からして違うから意味ないかもしれないけど、用心に越したことはないだろ?」
「そうだな。わかった。ありがとう。ありがたく使わせてもらう。」
「よかった。」
「それで、米は1袋でいいか?」
「うん、ありがとう。あと、できれば塩はあるかな?手持ちがなくなっちゃって…」
「あるぞ。1㎏でいいか?」
「そんなに!?手持ちで足りるかな?」
「塩っていくらで手に入れるんだ?」
「そこからかぁ…さすがリュウジさんだなぁ。塩は地域にもよるけど、2番お玉1杯で銀貨1枚くらいかな。高いと倍くらいの時がある。」
「へえ、それなら1袋銀貨5枚でどうだ?」
「いいの?」
「ああ」
「お金用意してすぐ来るね。」
ロティが部屋を出たので、隆二はその間に米1袋と塩1袋を取り出した。
「お待たせ、これ米と塩の銀貨7枚…」
ロティは、塩を見て固まっていた。
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