68 粥売り③
隆二は、気が付かれないようそっと深呼吸をする。
「そうですね。何かまずかったですか?何か法に触れるとか?」
「それはないが、砂糖は高級な薬だ。それを初めてあったヒロへ与えるなんて驚いた。」
「そんな大したことではありませんよ。仕事中に倒れたら困ると思っただけです。」
「なるほどなぁ」
「今日はともかく、これからも頑張ってもらわなくてはなりませんのでね。」
「次も仕事をさせてくれるのか?」
「もちろんです。」
「それは、助かる。あの子は、両親が亡くなっていて妹と二人暮らしをしている。」
「え?あの子と妹だけですか?」
「ああ、隣近所で様子は見ているが、いかんせん食べ物だけはどうにもしてやれなくてな。畑で採れるものなんてほとんどないから、困っていたんだ。」
「そうでしたか…」
「リュウジさんが雇ってくれるなら、とても助かる。」
「そうは言っても、1日置きの粥ではとても足りないのでは?」
「そんなことはない。米の粥は普通の食べ物とは違う。少ししか食べられなくても信じられないくらい体力がつくのは、妻で分かっているからね。」
「そうですか。ではそろそろギルド分の粥を盛ってもいいですか?」
「もちろん頼む。」
「では…」
隆二は、ギルマスの用意したカップに粥を入れていく。お玉14杯分なので、銀貨2枚と小銀貨8枚だ。
それを受け取り、鍋をすすいだ湯もおまけとして渡した。
「リュウジさん、もし砂糖を持っているなら少し分けてもらえないだろうか?」
「砂糖ですか…まあ、あります。どのくらい入用ですか?」
ギルマスは悩む様子を見せた後、覚悟を決めたように隆二を見た。
「カップに一つと言ったら無理だろうか?」
「高いですよ。」
「わかっている。それでも持っているなら頼みたい。」
「それは、薬としてですか?」
「ああ、妻と息子が目を開けたとは言え…回復したわけじゃない。」
「わかりました。」
隆二は、リュックサックを開けて出す振りをして、インベントリから砂糖を入れた壺を取り出した。
アイテムリストでは1㎏で売っているが、普段使うのに袋ごとは不便なので壺に移していた。
「こちらひとつでいいですか?」
「驚いたな。持ち歩いているのか。」
「持ち運ぶのは1つ分だけです。」
「それって…いや…何でもない。金貨1枚で足りるか?」
砂糖壺1つに金貨1枚!?
いくら何でも暴利すぎる。100万ダルなんて受け取れない。壺は1つで銀貨1枚だった。10万ダルの大銀貨1枚受け取ってもいいだろうか?
いや、待て。落ち着こう。俺は試されているかもしれない。
いくらなんでも高すぎだ。
物資不足を立てに暴利を貪る悪党と思われては困る。
「大銀貨3枚でいいです。」
「え?」
「お世話になっていますので…」
ギルマスの反応がどちらの「え?」なのかわからず、適当な言葉を取ってつけた。本当に暴利を貪る奴という意味なのか、本気で金貨と言っていたなら安いと思っているのかわからない。本当にたったこれだけの砂糖が金貨1枚なら、費用対効果がもっともいいものが砂糖になる。
「ありがとう。すぐに用意する。」
ギルマスは、厨房を出て数分で戻ってきた。
砂糖の製法は、国家事業として秘匿されていて、例えギルマスであってもそう簡単に手に入らないことを隆二は知らなかった。
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