64 選んだもの
隆二は独り言を言いながら、アイテムリストをスクロールしていた。
「おっ…これにするか…宿の部屋では選べない代表だ。」
選んだのは、カツカレー弁当だった。
期間限定・数量限定の50%増量キャンペーンで売られていた。トンカツが2枚も乗ったカツカレー984kcalという暴力的なカロリーの塊だ。
学生時代、帰り道でカレーの匂いがどこからか漂ってきては腹が鳴っていた。作っている家の外まで匂いが漏れるのは確定なので、宿の部屋では選べなかった。
電子レンジスキルで温めると、付属の先割れプラスプーンを取り出した。
「いただきます。」
「うまっ!カツもうまっ!」
ごはんを一口食べ、トンカツも一切れそのまま味わう。本当はサクサクのカツを食べたいけれど、コンビニ弁当では望める訳がない。それでも1㎝ほども厚みのある肉と衣はうまいと思う。次にカレーとごはんを黄金比ですくって食べた。
久しぶりのカレーはやはり美味しい。
そこからは夢中になって食べた。
普段は、周囲を気にしていることもあって食べている量は少なかったらしい。半分ほどで腹が満たされつつあったが、全部食べ尽くした。
満腹になり睡魔が誘うままに昼寝をした。目を覚ました時には陽が傾き始めていて隆二は急いで車を走らせ、街へと戻った。
手ぶらではおかしいので、籠に森で見つけたキノコを入れて門を通った。
「リュウジさん、おかえりなさい。沢山収穫しましたね。」
「ただいま。おかげ様で結構見つけられました。」
兵士たちの視線を感じつつ、通行料を渡して門をくぐった。
「リュウジさん、おかえりなさい。あら~どこまで行ったの?沢山収穫しましたね。」
「ただいま。おかげ様で結構見つけられました。」
兵士たちと同じ言葉を女将からかけられた。
違うのは、女将の目がまっすぐにキノコへ向かっていることだ。
「それ今から売りに行くのかい?」
「まぁ…」
「こんな時間じゃ人も少ないよ。私が買おうか?」
「あはは…女将さんにはかないませんね。」
「ちょいと見せておくれよ。」
「これは随分と大きくて太くて立派だねぇ…籠の中全部で…銀貨5枚でどうだい?」
「え?そんなに?」
「どう?」
「それならいいよ。」
「ありがとう。それなら、これお代だよ。」
宿に戻ってすぐに1週間分の宿泊料を稼いでしまった。
その日の夜、きのこ入りスープがレストランのメニューに加わったらしい。
「さすが高級宿は違うなぁ」
「粥はあるし、きのこのスープまであるなんてなぁ」
「いや、俺はここに5日いるがきのこを見たのは初めてだよ。あんたらついていたのさ。」
「それはラッキーだった。」
中庭から客たちの声がしている。
それを聞きながら、隆二はプランターに少しの水を与え夕暮れを見ていた。
今夜は満月らしく、夜でもそれなりに明るい。
隆二は、窓を全開にしたまま窓辺でテーブルについていた。ここに来て2週間が過ぎ、木の葉亭が安全であることはわかっていた。
明日から定期的に粥を売るけれど、前回を考えるとギルド職員が人を並ばせるのだろう。そこに申し訳ない気持ちがあった。この間は臨時だったからいいとしても、毎回というのは今はよくても先々で問題になるだろう。
そう考えると、人を並ばせるための人員を雇うほうがいいかもしれないと考え始めた。