63 森へ
翌日、隆二は門を出てしばらく歩いた。
久しぶりの石塀の外側は、広い荒地が広がっている。
町の中も、緑は見ないけれどこれほど広い大地でさえ生えていないのは異常だった。
土は、赤茶で硬い。石も混ざっていて凸凹している。歩くだけでもそれなりに大変だった。
遠くに見える大きな岩を目指して歩いた。
「ここならいいかな?」
町の石壁からの死角になる岩陰に入った。
スマートウォッチでインベントリを選ぶ。
「リリー、目の前に車を出して。」
『かしこまりにゃん♪』
久しぶりに車に乗りこむと近くの山まで移動した。
がたがた道は走りにくく時速は20㎞ほどしか出せない。それでも1時間ほどで山の入り口へと到着した。
「リリー、車を収納して。」
『かしこまりにゃん♪』
山の中を進み、足元の土がふかふかの場所にやってきた。薄暗いが所々の木々の狭間から光が差し込んでいた。
「リリー、この辺りの土の地面近くを2㎝ずつ集めて木箱に入っている袋に収納して。」
『かしこまりにゃん♪』
インベントリにはアイテムリストで交換したごみ袋をかけた箱を収納してある。
この辺りという指定では、隆二の周囲数メートルになるため、隆二は何度も繰り返して腐葉土の中でもほとんど土になっている部分を5箱分収納した。
「おっこんなところに小川か…行ってみるか。」
川を見つけたので川沿いに歩いていた。
川から2mから10mには木が生えていない。川まではなだらかな窪地になっていて小石も多いことから増水するとこの辺りは川になるのだと分かる。
川幅は1mほどしかなく小さな川なだけに天気には注意しないと危険な場所なのかもしれない。
むにゅん!と妙な感触に驚いて足元を見る。透明な何かがあった。パッと見は、クラゲ?と思ったがこんなところにいるはずもない。
じっくり見ると、中央付近に透明な丸いものが見えた。
ん?
おおっ!?
もしや、これはあれか?
異世界物といえば、おなじみのスライムか?
隆二は、ビニールを掛けた木箱を川の水で満たす。スライムってインベントリに入るのか?
生き物を収納できないのは、よくある設定だがここも同じとは限らない。
「リリー、木箱の中の袋に川の水を入れて。」
『かしこまりにゃん♪』
隆二は思い込みでの判断はしないと決めていた。透明な物体の上へ触れるか触れないかくらいの感覚で手を乗せた。
「リリー、この川の水の入った木箱にコレを収納して。」
『かしこまりにゃん♪』
「おっ…収納はできるのか。」
リリーに呼びかけるとスライムは消えたので、収納はできるようだ。
早速詳細を見る。
『水色スライム』
やっぱりスライムだ。こいつ戦えるのか?ティムできるかな?
それとも別の使い方があるか?
よくわからない物体ではあるけれど、とにかく楽しくなってきた。
未知の生物探しに夢中になってくる。川沿いを歩いていると、また数匹のスライムを見つけたので収納する。
そのうち、色の違うスライムも見つけたので、箱を分けて入れていった。
隆二は、開けた場所へ出たところで結構歩いた気がして立ち止まった。
手を天に伸ばしてそのまま後ろへとのけぞるように伸ばした。
「休憩するか…」
「リリー、目の前に車を出して。」
『かしこまりにゃん♪』
隆二は木の近くに車を取り出して、乗り込んだ。
アイテムリストでデカビタミンに交換する。ビタミンの添加された栄養ドリンク風の清涼飲料水だ。
半分ほど一気に飲んでしまった。疲れた体には染み渡る気がした。
折角山の中にいるのだ。宿では臭いが心配で食べられない物を食べよう。
アイテムリストを開いて悩む。
「にんにくマシマシガツンと太麺」
「にんにく香る鶏唐揚げ弁当…これも美味そう」
「肉厚生姜焼き弁当…これもいいな…いや、どれも美味そう」
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