62 水樽屋
「ここは何を置いているの?」
「いらっしゃい。うちは水樽だ。横を向けてこいつを抜けば水が出てくる。」
「へぇ…」
樽の上部に栓が付いていて、横を向けて抜くと水が出てくるようだ。
水道のない場所では便利だろう。できるなら栓はコック式だと助かるが、栓が付いているだけ、マシだろうか。
少なくてもバナの葉の容器よりはずっといい。
「これいくつかあるのか?」
「ああ、この大きさと二回り小さいのがあって、どちらも8つずつある。」
「へぇ、他に盥はあるか?」
「盥か?それならここにあるのが全部だ。」
「その後ろにあるのは予約品か?」
「いや、あれは…よくよく見ると隙間があったんだ。盥としては使えねえ。」
「そうなのか、それなら…水樽とここの盥を全部買うから、その穴あきをつけてくれないか?」
「は?あんな欠陥品をか?」
「ああ、その代金は出せないが、こちらは安くしてくれとは言わない。」
「そいつは構わないが…全部で銀貨15枚にもなるぞ?」
ここにきて初めて総額を言われた。計算がないわけではないらしい。
「それでいい。今持ち合わせがないので、木の葉亭まで運んでもらえないだろうか?」
「そりゃ構わねえよ。こんだけ買えば運べねえのは当たり前だ。」
「そうか、助かる。手付に銀貨1枚支払う。残りは宿で」
「おう、わかった。今すぐ店じまいして届けに行く。」
「そんなに急がなくていい。もう一軒行きたいところがあるんだ。」
「そうなのか?わかった。先についても待っているから安心しろ」
「助かる、またあとで」
隆二は、目星をつけていた木箱屋へ向かった。
木箱も10個注文し、ひと箱分を渡して宿へ運ぶように頼んだ。
宿へ戻ると、2人の店主が到着していた。
そこで、裏口で荷物を下ろしてもらい、確認してから代金を支払った。
「いやあこんなに売れるなんて、うちのが喜ぶよ。」
店を離れたからか、店主たちがほくほく顔を見せた。
「これで、何か食物を買って帰ろうと思っていてな。」
「俺もそう思っていたんだが、あのスープは売り切れたらしい。」
「なんだって!あれを飲めば枯れ死病でも希望を持てるって聞いたんだが?」
「俺もそう思っていたんだが、売れないと買えない。やっと売れたから手付で買いに走ったんだが、売り切れだったんだ。」
「そうか…まいったな…」
「スープって米の入ったやつか?」
2人の会話を聞いていた隆二が、声をかけた。
「ああ、そう米が入っているスープだ。」
「そうか、それは残念だったな。もしよければ薄い粥を1杯ずつ買えるように手配しようか?」
「え?粥!?」
「ああ、米の粥だ。小銀貨2枚で2番お玉1杯分だ。」
「買う!頼むっ持って帰りたい!」
2人は必至の形相で頼んでくる。
よほど食べ物がないのだろう。女将さんに頼んで、二人が購入できるようにした。
2人は買った粥を抱えて急いで帰っていく。それを見送ってから隆二は、受け取った荷をインベントリへと収納した。