60 来客③
ヒイロの一言に対して、シュリーさんが言葉を続けた。
「ただの米です。米の粥なだけです。」
「コメというのも、実は初めて食べたのですが…先ほどベランダでコメだと言っていましたね。」
「ええ、あれは苗を作っているだけですし、あれだけでは茶碗1膳にもなりません。」
「そうはいっても、スプーン数杯の粥でかなり改善したのは確かです。」
「そうですか。そういうならそうなのでしょう。」
そう答えつつも、治るタイミングだったのだろうと隆二は考えていた。
「来週…月曜日から週に3回販売してくれると言ってくれたが、今週だけは明日もというのは難しいだろうか?」
「明日ですか…土曜日なら、おそらくロティさんがスープ売りの屋台を出します。ロティさんのスープは、あの粥をもう少し薄めたものですが、そちらを求めてはいかがでしょう?」
「ロティさんのスープもコメなのか?」
「はい、同じものです。」
「そうですか…」
「私は、明日は用がありまして…申し訳ありません。」
「いや、無理を言ったのはこちらだ。申し訳なかった。」
「いえ、わかっていただければ結構です。」
「それと、申し訳ないがもう一つ聞きたいことがある。」
「なんでしょうか?」
「あの小さな畑のことだ。」
「ああ、蕪やベビーリーフですね?」
「あれはなぜあれほど茂っている?」
「種を植えたからですよ。」
「それだけか?」
「水遣りはしています。」
「うむ…」
「畑に植えても、ろくに根付きさえしなくて困っているのだが、何か特別なことをしているのか?」
「そんなことはないと思いますが?」
「う~む…」
2人ともプランターを見て悩んでいる。
「なぜそんなことを?」
「ここ数年、酷い飢饉で作物はほとんど実らなくて困っているんだ。」
「そうなんですか?川に水もありますし、水不足ではないですよね?」
「ああ、違う。水はあるし、雨も定期的に降っている。」
「山に実りはありましたね。畑に何か問題があるのでしょうか?」
「そうだと思うが、それがわからない。」
「そうですか。」
「ああ、農業ギルドもいろいろと調べているようだが、これと言って原因がわからないらしい。」
「そうですか、それは大変ですね。」
「だから、ここのベランダで育っていることに驚いている。」
「なるほど、事情は分かりましたが、俺もこれと言って特別なことをしていないのでわからないです。」
「そうか、そうだよな。急にすまなかった。」
「いえ、ではお気をつけてお帰りください。」
隆二は話を終えるとすぐに、宿の玄関まで見送った。