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6 はじめての道①

 隆二が車を走らせてしばらくすると、丘を下り、道らしきものが見えた。舗装されていない茶色い土の道には車輪跡がある。その幅の狭さから想像できるのは馬車か荷車だろう。



 道沿いに進み、目指していた木々の中の細道を見つけた。

 そこから車が走れるギリギリの道を進んでいく。少し開けた場所に出るとそこに水があった。

 静まり返ったそこは、虫や鳥のさえずりもなくとても静かだった。


 隆二は、車を降りて泉に近づき地底を見る。水草がある程度茂っているようなので、酸やアルカリのどちらかが強いということはなさそうだ。じっくりと見て回ると水が吹き上げている場所があった。魚類の姿が見えないので、泉質に注意は必要だろうが、泉で間違いなさそうだ。

 泉の水で近くの石を入れてみるが、変色などが起こる様子はない。顔を近づけてみるが匂いはないようだ。

 指先を入れて水をつけてみてみるが、特に粘りなどはなく水のように見える。お茶の入っていたペットボトルを入れて水を汲んだ。

 少し口に含み、刺激や味に違和感がないか確認してみるが問題はなさそうだ。目に見えない細菌や寄生虫がいるかもしれないが、そこまではわからない。

 沸かして飲むのが安全だとわかっているが、鍋がない。

 安全性の確認をする術がないのは、厳しい状態だと思ってしまう。


 「まいったね…」


 隆二は、1本分の水を汲んだものの飲もうか飲むまいか悩んでしまう。飲み物がないわけではないのだ。残りが着実に減っているのが不安なだけで、まだ10数本はある。

 

 「まあ、いいか…」


 飲むにしろ飲まないにしろいずれにしても水は必要だ。

 空きボトルは、水を入れたペットボトルの水で濯ぎ、濯ぎ水は地面へ流した。なんとなく、泉に汚れを持ち込まないようにしたほうがいいと思った。その容器全てに水を汲み終えると、顔を洗いたい、できれば水浴びもしたいと思ってしまう。

水底が深そうなのと透明感にやはり躊躇する。タオルを泉に浸し、その濡れタオルで顔と体を拭くことにした。


 体を拭いてさっぱりとすると、隆二は日用品に入っていたTシャツに着替えた。レディースのMは、細身の隆二でもピッタリとフィットしてしまっていた。筋肉自慢がフィットした服を着ているような状態だが、筋肉がないのでただの変態にしか見せない。

 

 「うん、まあ…とりあえずの我慢だ。」


 とにかく服を洗いたかった。

 数日着たままというのが耐え難かったのだ。

 ペットボトルの入ったコンテナを空にし、日用品の中から洗濯洗剤を取り出した。泉からほんの少し離れた場所にコンテナをぐりぐりと押し付けて土の中へ数センチめり込ませた。その中に大きい袋をかけた。これで泉を汚さずに済むだろう。ビニール袋で水を汲んでコンテナの中へ最低限の水と洗剤、洗濯物を入れてしばらく漬けておく。その間にも、ビニール袋に水を汲んでは、コンテナの近くへ置いていく。

 しばらく経ったところで、洗濯物を足で踏んで洗う。洗濯板がないし手でこすり洗いでは時間がかかると思ったのだ。汚れが出てきたので、しばらく踏み続けてから洗剤入りの水を土にしみこませた。

 周囲に集めた水を入れて2回すすいだ。手で絞った後、洗濯物を振り回して人間脱水機となってみた。それを木の枝にひっかけて干した。

 それから毛布とタオルを洗い、枝にかける。最後に履いていたトランクスを脱いだ。

 それを残っていた水で洗うと水を捨てる。トランクスも枝にかけておく。

 

 うん、さっぱりした。

 身に着けているのはTシャツだけという恰好では誰にも会えない。人が来ないことを祈りながら、運転席に別に乾いたタオルを敷いて座った。


 車の荷台は、コンテナから出したペットボトル飲料と汲んだ水が転がっている。濡れたコンテナは軽くタオルで拭いてある。袋類は濡れているので木の枝にかけて干してある。

雑然とした様子なのは仕方がない。

入りきれなかったりんごを齧りぼんやりと周囲を見ていた。

 泉に野生動物はやってこないらしい。それともこの辺にはいないのか?

 よくわからないことが多すぎる。



 隆二は、乾くまで時間があるからと仮眠を取った。


 目が覚めても服は乾いていない。トランクスが乾いたので履くと、やっと落ち着いた。風通し良すぎるのはよくなかった。


 ビニール袋は乾いているので、回収して畳む。それでも時間があるので、スマホを弄っていた。

 マップは世界地図ではなく帝国内地図になっていた。

 ここは帝国内なのだろう。

 指を開いても拡大はされないので、これ以上のことはわからない。


 そういえば、この『アイテムリスト』はまだ開いていなかったな。コンビニの取扱商品が並んでいるアプリで、配達先がスマホをもっていない場合に、代行発注するためのものだ。

 開いてみよう。

 そう思い、指をかけたところ画面上で指が滑った。



 画面が横にスライドされ、2ページ目が表示された。


 

 !?

 元々仕事用のスマホなので、2ページ目はなかったはずだ。

 アイコンが一つだけあった。


 『インベントリ』

 

 アイテムボックスである『箱』がある。それなのに、インベントリだと?

 タップして開いてみると、真っ暗な画面の中に『スマートウォッチ』がふわふわと動いているだけだった。

 スマートウォッチ?

 

 システムメッセージが立ち上がった。

 『インベントリへようこそにゃん♪私はリリーにゃん♪』


 「おっおおぅ」



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