56 リリア②
「ね…ちゃ…」
「ロイ!気が付いた?もう少しお粥を食べましょう。」
「ん…」
リリアは、ロイが声を出したので舞い上がった。ここ2週間ほどは声も出せない状態だったのだ。
今度は母と同じように後ろ抱きで抱き起して、米粒も少し食べさせる。先ほどよりも量を食べさせるが、また口を閉じて眠ってしまったので、リリアはロイをベッドへ戻した。
そろそろ戻らないといけないよね。
「お母さん、もう少し食べてほしいのだけど…」
「ん?うん…」
まだまどろんでいる母に3口ほど粥を食べさせた。それ以上は難しそうだ。
リリアは残っている粥を食べると、器に湯冷ましを入れて飲み干した。
「それじゃあ、ギルドに戻るからまた夜にね。」
リリアはそう寝ている2人に声をかけると、家を出た。
洗った器を持ってギルドへ戻ると、先陣で出ていた者たちが戻っていた。
受付など忙しくしていたが、皆顔色がよくなっていた。家族と分け合って少しは食べることができたのだろう。
「どうだった?」
リリアが廊下に出たところに父であるロイがやってきた。
「父さん、二人ともスプーンに5つくらいずつ食べてくれたよ。」
「そうか、それはよかった。リリアも食べられたのか?」
「もちろん。母さんもロイも汁を多く食べたから、米粒は私が食べたもの」
「そうか、それならよかった。」
「あのお米って不思議な食べ物ね。」
「ん…そうだな…」
「不思議なくらい、体中が満ちるのが分かったの。」
「ああ、そうだな。よくわかるよ。」
「リュウジさんって何者なのかしら?」
「それはわからないが、こちらへ他意がある様子はない。善良な人だと思う。」
「それは、私もそう思うわ。」
貴重な食べ物を、販売とは言え皆へ振舞っているのだ。
誰もが抱え込んで自分だけで食べてしまうだろう状況だ。人へ渡したくない状況でそれができるのは、馬鹿なほどに善良なのだろう。
そういえば、リュウジさんを連れてきたロティもまた同類だ。
彼は儲けにならなくても各地域を回って食べ物を運び続けてくれていた。それも限界のようだったが、今回は素材の販売ではなく、スープにして周囲へ分け与えていた。
こちらも販売というスタイルではあったが、貴重な穀物を広く行きわたらせるには、素材で売るよりも調理済みがよいと判断したのだろう。
この町では、薪も貴重でありそれぞれの家で購入できる状況ではなくなりつつあった。
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