56 リリア①
ギルド職員の今日の出勤者は20名だった。
購入した粥を20個に分けなおした。
ロイが職員に5人ずつ交代での一時帰宅を認めると、粥を大切に抱えて足早に帰っていく。
「リリア、頼むぞ」
「はい、お母さんとロイを見てくるわ」
リリアは、粥を持つと小走りで家まで走った。
母と弟のロイは、枯れ死病でベッドに寝たきりになっていた。
最近では、水もあまり飲めなくなっている二人だった。これを食べさせればどうにかなるかもしれないと期待していた。
「お母さん!ロイ!お粥を手に入れたの」
二人が寝ている部屋へ行くと、母が弱弱しい視線を向けてきた。
母の視線は一度リリアを見て、そのままロイへ視線を移した。それからもう一度リリアを見たので頷いて見せる。
「ロイ、お粥を持ってきたから食べましょう」
ロイがわずかに目を開けたので、細く干からびたような体を少し起こさせた。
スプーンで粥の汁を掬うと慎重に口元へ運んだ。ロイは唇をほんの少しだけあけて飲みこんでくれる。
ああ…よかった。
これを飲んでくれたなら、まだ大丈夫。
ロイは大丈夫だ。
スプーンに数口飲ませるともういらないと言うようにロイは口を結んでしまった。
「久しぶりですものね。少し休憩してからもう少し食べましょう。」
リリアはそう声をかけると、母の元へ行った。
「お母さん、ロイが食べてくれたから、お母さんも食べようね。少し体を起こすよ。」
リリアは、母を起こすと背中側へと周り後ろ抱きに抱えた。
母の方が、ロイよりは幾分ましな状態なのだ。母にも粥の汁を数口飲ませてから、米粒も食べさせた。
母も数口食べたところで口を結んでしまった。
「もういいの?少し休憩してもう少し食べてもらうからね。」
リリアは母を寝かせると、ロイの元へ戻った。
スースーと随分と穏やかな顔で眠っていた。
父は、昨夜粥を1杯食べたらしい。二人に食べさせて残りはリリアが食べるようにと言っていた。
リリアは、粥を一口食べてみる。麦粥とは違い、米は柔らかく溶けていく。塩が入ってはいるけれど、しょっぱさよりも甘さが際立っていてとても美味しい。粥の汁にも滋養がある味がしていた。2口食べると、体中にしびれたような何かが行きわたる感覚があった。
なるほど…これは、とても体にいい物なのだろう。
これはもう少しずつ2人に食べさせなくてはと思うが、いつになく穏やかに眠っていた。
器をベッドサイドに置くと、リリアは掃除を始めた。
米は穀物だと聞いているけれど、それだけではない何かを感じる。それはそうなのかもしれない。突然現れたリュウジさんは、大男と言われている父よりも背が高くしっかりとした体付きをしていた。
その上、短く切りそろえた髪はどうしたらそのように切れるのかわからないほどだ。
そして、着ている物が素晴らしく上質なものだった。
貴族様でも着ていないような厚みのある生地は、斑もなく染められていた。しかも依れも無ければ傷もない新品の布だ。
あれほどの物を着ているのに、腰が低く丁寧な対応をしてくれていた。
庶民だというけれど、どこかの王侯貴族だと言われた方が納得できる。それほど、動きも洗練されていた。
何より、傷一つない肌と長く曲がりのない指は、苦労のしていない労働しない人の手だ。それなのに、粥を作って売っている姿も不自然さはないのが不思議だ。
常識を知らないようで、白パンとお茶をセットにしてたった2000ダルで売っていた。私が勘違いしてもう少し安くなんて言ったかららしい。しかも売るときに見たことのない紙というもので包んで売っていた。
その紙は真っ白で柔らかそうなものだったが、鼻水をかんで捨てる物だとこともなげに言っていた。
鼻水なんて葉っぱにかんで捨てるか、水で洗えば済むことだ。それをあんな美しいものに出して捨てるなんて、簡単に言う物だから肝が冷えた。
だけど、たぶん本当にそうしているのだろう。
大金を持っているのだろうに、こんなところで商人の真似事をしているのは、意味が分からない。だけど、それで助けられているので、できるだけ続けてほしいとも思う。
無知に付け込んでいるようで申し訳ないけれど、町のためだものギルドとしてはリュウジさんをうまく誘導したい。
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