52 商店街
店主がガサゴソと奥を探って出してきたのは、日本でいうところの手のひらサイズのフライパンと、一般的な28㎝か30㎝のフライパン、それから手のひらサイズで6㎝ほどの深さのある片手鍋だった。
「こんなところかな、好みに合っているか?」
「思っていたのとは違うが…」
「だよなぁ、これもなかなか売れなくてな…まとめて大銀貨1枚でどうだ?」
「いやぁ…」
「よし、それなら銀貨8枚!それでどうだ?」
「う~ん…」
「銀貨6枚!これ以上は負けられねえ」
「しょうがねぇな」
「おっしゃ!こいつらは平らで落ち着きが悪いからこの籠に入れてやらあ」
結局、店主に乗せられてフライパンや片手鍋も手に入れていた。それも、実は一番欲しかったサイズだ。どうやら大きな鍋の需要が高いらしく。一人分の鍋がない。
どこの店に行っても20㎝以上の鍋しかなかったのだ。
大きい鍋も20㎝の鍋も値段はそれほど大きく変わらないのは、作る手間なのだろう。
「なあ、なんで大きい鍋が売れ筋?」
「そりゃあ、あれだよ。薬缶は造りが複雑な分値段も張る。薪も高いから何度も火を熾していられない。一度に沸かしてまとまった湯を沸かすのさ。」
「ああ、湯冷ましを飲むのか…」
「それもあるが、生きていくためのスープだよ。スープったって具なんか売ってやしないから、雑草でも手に入ればいいが。大抵は塩を入れて飲むだけだね。」
「それってただの塩水じゃ…」
店主は眉を下げた。
それがここの現実か…。
隆二は、荷車を押して店を出ると、しばらく歩いていたが途中人気がなくなったところで路地に入りインベントリへと収納した。
宿に戻り、荷車を取り出して鍋類を洗った。洗剤でよく洗ってから食堂のかまどを借りて火入れし油を塗りなおした。
「ずいぶんとたくさんの鍋を買ったんだね。」
「ああ、あまり売れないと言っていたので、まとめて買ってきた。」
「そりゃ随分とお人よしだね。」
「そんなことはないよ。商売に使えば儲けられるさ。」
「そうかい?ならいいけど…」
「女将さん、今夜も粥を売るのかい?」
「ああ、そのつもりだよ。」
「だったら、1杯買いに来るから取っておいて欲しい。」
「もちろんだよ。」
「あと、客が来るんだが部屋に入れてもいいかい?」
「誰だい?商売女なら別料金もらうよ。」
「そんなんじゃないよ。商業ギルドのギルマスだ。」
「なんだ。ヒイロさんかい。それなら構わないよ。」
「知り合いだったか。」
「そりゃそうだ。うちだってギルドに所属してんだ。」
「ああ!そうだよな。考えていなかった。」
豪快に笑うおかみさんと話している間に鍋の手入れが終わった。
「リュウジさん、もし…まだ米があるなら譲って欲しいのだけど…」
「ん~ってか、ロティに言わずに俺?」
「そりゃあわかるよ。それに粥の作り方を教えてくれたのはリュウジさんじゃないか。」
そう言われてみればそうだった。あれでは持ってきたのは自分だと言ったようなものだと反省する。
「それで、いくつか譲ってもらえるかい?」
「そうだな…2袋で良ければ…」
「助かるよ。値段はこの間と同じでいいかい?」
「ああ、いいよ。」
「ありがとう。恩に着るよ。粥のおかげで満室だし、うちの者も元気になってきて助かっている。」
「そうなの?それならよかったよ。」
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