50 ギルマス①
隆二は、2階にあるギルマスの部屋へ連行されていた。
最初は丁寧に断ってみたのだが、問答無用で連れてこられたのだ。
ギルマスの部屋に置かれているのは、大きな執務机と椅子があり、その前に木製の椅子とテーブルがあった。丁寧に模様が施されていて豪華な造りをしていた。
そこに座るように促されたので、座ると正面にギルマスが座り、その斜め後ろにリリアさんともう一人の男性が立った。
出入り口を塞ぐように槍を持った兵士が立っていた。
「それで、リュウジさんはどこのボンボンなんだ?」
「は?そんな者ではないですよ。しがない庶民なのでそういう気遣いは無用です。」
「ほぉ…」
丁寧な言葉遣いが身についている庶民などいるはずがなく、隆二が着ている服は庶民が簡単に手が出せるものではない。上等な布であり、装飾こそないものの色まで付いていた。
染物は大変に貴重なものであり、ヒイロでさえ1着しか持っていないのだ。
隆二を牽制するために、着て出たのだ。
ヒイロは、隆二の態度を見て牽制する意味がないと悟って上着を脱いだ。
下に来ているシャツも、上等なものだったが素材そのものの生成りのため地味に見える。
「あれほどの数のパンをどうやって用意した?」
「それは、まあ…仕入れたので…」
「あれほどの物を?あれはどう見ても白パンだった。それに、パンを渡すときに包んでいた物はなんだ?」
「ああ、あれはティッシュです。鼻紙ですよ。」
「はながみとはなんだ?」
え?そこから?
あっそうか…ここの登録も竹札に書いたのを失念していた。紙が存在していないのかもしれない。
隆二は、リュックサックからティッシュの箱を取り出し、1枚を渡した。
「これは、その…ここにはないものなのを失念していて、忘れてほしいのですが…このように薄い紙を2枚重ねにしているので、鼻をかんで捨てるのに丁度いいのです。」
「は?鼻をかんで捨てるために使うのか?手でかめば洗い流すだけだろ?」
やはりそうなるのか…。シャワー中くらいしかしたことがない。
「あれは白パンですが、あれであれば…60組ずつくらいは売れます。」
「本当に!?」
「はい」
ギルマスは真顔であごに手を当てた。
「リュウジさん、パンにするには粉に挽いていると思うが、もし粉にせずならもう少し量を出せるのか?」
「量ですか…それは人数という意味でいいですか?」
「ああ」
「う~ん…そうですね、米で作る粥、大麦でもいいですが…それであればお玉1杯売りで…」
リュウジは計算をしていた。ロティの薄いスープは、500gの米で100人に売っていた。宿の女将は一人当たり倍の米を使っているようだった。1㎏で100人分、2㎏で200人分として、宿の夕食の時の小銀貨2枚であるなら400枚稼げる。大銀貨4枚相当か…パンならば1週間の稼ぎに等しいが…そんなに売れるだろうか?
粥と聞いて、ヒイロが身を乗り出した。