49 商売をしよう③
隆二の前には、ギルマスとリリアさんが立っていて真正面から見つめられていた。
悪いことをしてこれから叱られる子供のようでとても居心地が悪い。
「それで、そのパンと茶を2000ダルで売るというのは本気か?」
「はい、今リリアさんとそう話をしていました。」
「そうか、籠売りと聞いたが?」
「はい、場所をとるようなものではないので、それで十分かと」
「はぁ…考えは分かったが、あまりにも危険だ。そっちのカウンターを貸してやるから中に入って、そこで売りなさい。」
「え?いいんですか?」
「ああ、特別だが外で籠売りなんてさせたらあっという間に死んでしまうだろう。ここで売る分には、周囲の目もあるし、俺たちもいる。カウンターの中からなら距離もとれる。」
「はぁ…」
周囲は、ヒイロの言葉にもっともだと頷いていたが、隆二は気が付いていない。
「それと、俺たちも含めて茶を飲んだことのない奴も多い。売る前に淹れ方を説明してくれ。」
「わかりました。それでは、あの…お湯を用意していただけますか?」
「お湯?いいだろう。では、そこから中に入れ」
「あっ…あの、場所代は?」
「そんなものはいらない。ここでうちのギルドメンバーに売ってくれて、リュウジさんが怪我無く帰ってくれるならそのほうがいい。それほどの物を売れる者などそういないんだからな。」
「そうですか?では、お言葉に甘えさせてもらいます。」
隆二は、カウンターの中へ入る。
埃もなく手入れが行き届いていた。隆二が動くのに合わせて、人々もカウンターの前へ我先にと並んだ。ギルド職員が目を光らせているので、素直に従って並んでくれていた。
隆二の後ろに並んでいた人たちも、隣の窓口に並んでいた人たちも隆二の前に並んでおり、窓口は誰一人ならんでいない。ギルド職員も固唾を飲んで隆二を見ていた。
「パンはここに置いて、金と交換で渡せばいい。」
「わかりました。」
「お湯が沸いたようだ。説明を頼む。」
ヒイロが一歩下がり、カウンターへお湯の入った薬缶がおかれた。
隆二はリュックサックから竹コップを取り出した。それと予備に持っていたティーバックをポケットから取り出した。
「今から、パン1つとお茶1Pをセットにして販売します。小銀貨2枚です。」
「うぉぉ!!」
ギルマスが手の平を下にして静まらせる。
「お茶の淹れ方ですが、このように手でちぎって袋を開けます。中にこのような袋が入っているので、糸を伸ばして四角い紙をカップの外側になるように入れてお湯を注ぎます。」
「四角い紙を持って、このようにふりふりしていると色のついた液になるので、色が出たら出来上がりです。」
「ギルマス、よかったらどうぞ。」
「ああ」
ギルマスが驚いた顔で、カップを受け取ると一口飲み、口を綻ばせるのを見て客から歓声が上がった。
「では、お一人ずつどうぞ」
小銀貨2枚がおかれると、隆二は右手でティッシュでくるんだパンを手にし、指先でティーバックを摘まむ。左手で金を受け取りリュックに突っ込んだ。
あっという間に60個すべてを売り切った。
「これで売り切れです。今日は完売です。」
並んでいた人たちは、肩を落として受付カウンターへと向かった。
なるほど…ギルドメンバーでも、これだけのことになるなら…外での籠売りは本当に危険だったのだろう。
これは止めてくれたリリアさんとギルマスに感謝だな。
隆二が本日のミッションをクリアし、片付けを終えるとギルマスが声をかけてきた。
「リュウジさん、今から話をしよう。」