48 商売をしよう②
リリアさんが、手で制すようなアクションを繰り返しながら離れていく。カウンター後ろの職員に何事かを伝えると職員は走って消えていった。
リリアさんは、あからさまに深呼吸をしてから、コホンと咳払いをした。
「リュウジさん、それで…それはおいくらで売るつもりですか?」
「パンと茶をセットにして、1組…」
「セット?一緒に売るということでよろしいですか?」
「はい、そうです。」
「お茶とセットだとかなりの…あのおいくらのおつもりで?」
2000ダルももらおうとしているのはぼったくりだと思われるだろうか?ここはあの薄いスープと同じ1000ダルにするか?時間が倍になるだけで、11年で家を持てるならそれだって十分に早いはずだ。それとももっと安くすべきか?
「ごっ…いえ、その…せっ」
「5000ダルですか、こんなご時世ですからそこまでしてもおかしくはないのでしょうけど、それではあまりにも手が出ません。お茶を外してもう少し手の届く範囲に…」
「へ?」
「え?」
リリアさんが、大きな誤解をして5000ダルは高いといい始めた。そりゃあ高すぎると俺だって思う。だが、そう言う声が出るのであれば2000ダルでも売れるのか?
「2000ダル。パンとお茶のセットを2000ダルで売ります。」
「うぉおおおお!!!!」
隆二が宣言のように言うと、周囲から割れんばかりの歓声が上がった。
隆二が取り出した籠の中身に驚き、リリアとの成り行きを見守っていた商人たちだった。
値段を聞くまでもなく彼らは、今日の商売を辞めて例えいくらだったとしてもすぐに買うつもりになっていた。
それが、2000ダルという手の出しやすい範囲に落ち着いたので、興奮するのも無理はなかった。手に出しやすいと言っても1日の儲けそのままであり、手伝いの人たちにとっては2日分の給金だ。
それでも、食べ物を手に入れるのが恐ろしく難しい状態なので、食べられるものであればいくらでも買うと決めていたのだ。しかもそれがパンである。パンなんてもう何年も姿を見ていない高級品なのだ。
「おまえら静まれ!!!」
頭上から怒号が飛んできた。
皆で見守る中、階段を下りてきたのはここに来て初めてみる色付きの服を着た人物だった。やせ細っているものの一目で立場がある人だとわかる。
「君がリュウジさんか?」
「はい、リュウジです。」
「商業ギルド、マスターのヒイロだ。」
「お世話になります。」
「ふむ…」
ギルマスは、カウンターに置いた籠と隆二を見比べていた。