44 売り物
ロティが苦笑いをしているので、話題を変えたい。
「お茶でも飲むか?」
「うん、それならお湯をもらってくるね。」
ロティが、部屋をお湯を買いに出て行った。女将に米を譲った時以外、部屋に来させるようなことをしていない。体を拭く湯は夕方に届けられるが、それは部屋の外での受け渡しだ。
あの時は、たぶん…女将に買わせるためにお湯を注文したのだろう。
ロティは、毎日ロバに乗って出かけていく。それは、ロバの運動不足解消と餌の都合だろう。藁を売ってはあるが、あれだけに頼るとすぐに無くなってしまう。
「お待たせ、水筒にも入れる?」
「ああ、助かる。」
薬缶の湯を水筒に入れてから、カップ2つに注いでくれた。
お湯の入ったカップに緑茶のティーバックを1つずつ入れた。ロティは紅茶よりも緑茶が好きなようだ。
「この香りほっとする。」
「そうだな。」
「明日、商売をしてみようと思う。」
「早速だね。何を売るの?」
「悩んでいるけど、食物がよさそうだね。」
「うん、それは助かると思う。」
「粥は、ここの女将とロティも売っているから別の物にするよ。」
「そうなの?同じでも構わないと思うけど…」
「屋台を借りてまではまだ躊躇する。それよりは、簡単に売れる物にするよ。」
「ふ~ん…それなら籠売りにするの?」
「そうだな。それでも売れるような物がいいかもな…」
「それって大丈夫かな?」
「ん?」
「薄いスープを売るにも、ギルドから監視が付いているからね。籠売りは危険かも…」
「そうは言っても手軽で安い物を売るのに屋台では利益出ないだろ?」
「それはそうだけど…でも、そんなに安い物になるかな?」
「ああ、たぶん…」
「ふ~ん…決まったら教えてくださいね。」
「ああ」
ロティはなぜか疑っているような目を向けてきていた。
「絶対だよ。リュウジさんが危ない目に合うのは見たくないですよ。」
「そんなに心配しなくても大丈夫。ロティさんは心配性ですね。」
隆二は笑ったが、ロティは本気で心配していた。
今日、米を少し入れただけのスープでさえ、人が殺到した。
100人分も用意したけれど一瞬だった。1時間もかからずに売り切ってしまった。ありがたいことだけど、それだけ食べ物に困っていることを証明していた。