41 ロティの屋台
隆二が商業ギルドへ登録して2日後、ロティは予約した場所へ屋台を出しに向かった。
隆二から仕入れた米を宿の竈を借りて仕込んできたのだ。
ロティは小さな体で、ロバ車の荷台だけを引いてきた。売り物をリリアに説明したので、販売時間にはギルド兵が2人来てくれた。
食料を売れる人が少ないため、人々を抑えるために来てくれたのだ。
「そろそろ売るのか?」
「うん、始めますね。」
「わかった。お前は俺たちが守るから、安心して売ってくれ。」
ロティは、頼もしい言葉を聞いて頷いた。
最終確認として、周囲を見回した。荷台の端に箱を置き、鍋を用意していた。
客がお金と容器を置く台も用意してある。お金を入れる箱もある。大丈夫だ。
「今から穀物の入ったスープを売ります。2番お玉1杯で小銀貨1枚です。」
ロティの声に人々が顔を向けた。
「穀物だって?本当かい?」
「本当だよ。少ししか入っていないけど穀物が入っている。」
疑わしそうに見ている人がいる中、リリアさんが近づいてきた。
「1杯ください」
「どうぞ」
小銀貨と共に椀を台へ置いてきたので、椀へスープを入れた。うっすらと塩味のする白濁したスープは、米の甘みが出ていて悪くはないと思う。
「あら、とろみがあるのね。」
「米という穀物が溶けたものでほんのり甘いです。」
「あら、本当。甘くておいしいわね」
リリアさんのその感想を聞いて、人が押し寄せた。
あっという間に用意した100杯は売り切ってしまった。
鍋に湯を入れて軽くゆすぎ、鍋についた粥をこそぎ落とした。
それを椀2つに分ける。元々少しは残っていたので元のスープほどではないけれど、粘度もあった。
「今日はありがとうございました。こちらお礼です。」
「おう、遠慮なくもらうぞ。」
彼らが飲んでいる間に片づけをする。
小銀貨100枚はバックに入れ、彼らに宿まで送ってもらった。
「お帰り、あんなゆるい粥売れたのか?」
「穀物入りスープね。さすがに粥とは言えません。」
「わかっているのか」
「そりゃあね。500gで100人分は粥とは言わないよ。」
一人当たりたった5gの穀物だ。それでも、塩も穀物も貴重なので、買ってくれた。本当は濃くしたいが、そうすると単価も高くなるし多くの人に行きわたらない。そう考えてのことだった。
ロティはそれから週に2回、1か月に渡り屋台を出すことになった。
スープのように薄い粥でも、求める人が多く大人気となった。
これが単に薄い粥でも意味はあっただろうが、隆二がMPで交換した食品を食べるとMPのない現地人にもMPが与えられた。それがほんの僅かだとしても、それはHPに変換されていく。5gの米で5MPだった。1MPが1000HPに変換された。これは成人の上限である。計算上は1食食べると最悪5日分のHPにすることができる驚異的な食べ物だった。ダメージが大きい人たちは、その修復にHPを使うため、3日ほどしか持たない。それでも驚異的な食べ物であることに変わりはなかった。
それにより、餓死寸前だった町の人たちが生きながらえることになったが、彼らの知るところではなかった。
木の葉亭は米10g相当の粥だった。それもやはり疲れ切った宿泊客のHPを補充し、自己修復力を上げていた。
ロティに至っては、隆二といる間に最大250MP相当を一度に食べており、誠実も1個食べているので、完全回復したうえ十分なMPを持っていた。多少のことでは動じない体になっており、急速に成長の遅れを取り戻しつつあるのだが、二人は全く気が付いていなかった。