36 粥
隆二は、お腹が満たされてそのまま寝ようと思っていたのだが、下からにぎやかな声が聞こえてきた。
人が集まっているようなので、歯磨きついでに覗いてみようと思った。階段を下りていくと宿の入り口は閉まっており、受付の隣のドアが開けられていた。
看板が出ていてスープ皿のような絵に小銀貨の絵が2つ並んでいた。
ロティもそれを見ていた。
「ロティさん、これは何事?」
「たぶん、粥を売っているんだと思う。食べ物が売られることが稀だから、宿泊客だけでもこの人だかりです。」
「なるほど…」
「リュウジさんも食べるの?」
「いや、俺はいい…ロティさんは食べたるようなら、明日どうだったか教えて」
「うん、わかった」
隆二は、ロティに軽く手を挙げると部屋へ戻った。
翌朝も人だかりができていたので、落ち着くのを待って入った。
ロティがテーブルについていたので、隣を確保してもらう。
「盛況ですね」
「あらぁ、リュウジさんも食べてくれるのかい。」
「ええ、小銀貨2枚ですね。」
「はいよ。」
目の前に深皿とスプーンが置かれた。
深皿に入った粥は教えたよりもかなりゆるめだ。
ロティの隣に座り、食べてみると雑炊に近いゆるさで、薄い塩味がするだけだった。
あまりの緩さに驚いて周囲を見る。
皿を前にした客たちは怒り出すどころか、笑顔で大切そうに一口一口を食べていた。その様子を見ると、何も言い出せなくなってしまった。
「ゆるかったね。」
「そうですね。リュウジさんの粥とはかなり違いましたね。」
「でも…それでも貴重な食べ物なのでほとんどの客が来たみたいです。皆さん美味しそうに食べていたのでよかったです。」
「そうだね…」
食べ終えてロティの部屋に行ってつい隆二がこぼしたが、ロティはそう言って女将をフォローした。
「客は30人くらいだろうけど…米1㎏も使ってはいなさそうだね…」
「たぶん、カップ3杯くらいじゃないかな…」
「そりゃ随分と…」
「それでも、穀物を食べられる貴重なタイミングだからね。」
「う~ん…そうだろうが…」
「仕方ないですよ。本当に食べ物に困っていますから。広く薄く売るのも必要ですよ。」
「それもそうか」
「リュウジさん、そろそろ商業ギルドへ行ってみませんか?」
「そうしよう。それと屋台街も見たい。」
「それはもちろん、ではギルドで登録してから屋台を見て回りましょう。」