41 石囲いの町①
「リュウジさん!」
出てすぐの壁沿いで待ってくれていたロティが笑顔で駆け寄ってくる。ロバの荷台に乗っていたはずの長い枝はなくなっていた。
「ロディさんお待たせしました。」
「時間かかっていたようで心配しました。」
「荷物の検めに時間がかかったね。」
「待っている間に、あの枝は売れました。これ代金の半分ね。」
「ありがとう。」
隆二は、お金を受け取るとポケットへ突っ込んだ。
「さあ、乗ってください。」
「ロティさん、ありがとう。助かる。」
周囲は堅牢な石造りの塀と建物が並び町の要塞だということがよくわかる。
石造りの橋を渡ると、石造りの3階建ての建物が並び、広場らしき場所には屋台が並んでいるようだ。屋台は板で作られていて、露店商は薄茶色の敷物の上に品物を並べている。
家々は石の色合いなのでグレーや薄茶色だ。
屋台も歩いている人たちも服は生成りばかりだ。色合いが違うのは汚れ具合だろうと思えるほどに色がない。
「リュウジさん、先に宿へ行きましょう。ゆっくり体を休めて、明日商業ギルドへ顔を出して、街も見て回りましょう。」
「そうだね。ロティさん。とりあえず休みたいです。」
ロティについていく。時間をかけて進む間、ロバ車から町の様子を見ていた。
街の終わりに近い場所で細い道へ入る。1本奥の道沿いにある建物の前でロバ車が止まった。
「リュウジさん、ここです。ロバを裏に連れていくので、一度降りてもらえますか?」
「ああ、わかった。」
石造りの建物の前でロバ車を降りた。
ロティは建物の横にある細い道を入っていく。すぐに戻ってくるのに、知らない場所に一人になると急激に不安になった。
見慣れない建物と色のない世界に独りぼっちだ。
正確にはグレーと生成りの多い世界なのだが、隆二はそれらを感じる余裕がなかった。
うん、これはよくない。隆二はそう思い、宿に入ったら風呂に入ってすっきりとして、柔らかいベッドでゆっくり寝ようと決めた。
「お待たせしました。宿へ入りましょう。」
ロティが戻ってくると、隆二も少しだけ緊張がほぐれた。
「こんにちは。部屋は空いていますか?」
「あら、ロティさんおかえり。上手くいっているようだね。」
女将さんらしき女性が笑顔で迎えた。
この人も他の人たちと同様にかなりの細身だ。顔には皺が刻まれ、長い髪には艶がなくまとめて櫛でとめていて、まとめきれていない髪が数本落ちていた。
「おかげ様でね。とりあえず1週間滞在したい。」
「はいよ。それなら銀貨5枚だね。」
「うん。それとこちらリュウジさん、とてもお世話になっている方で同じくこちらに滞在したい。」
「ロティさんの紹介なら大歓迎だよ。1泊で銀貨1枚、1週間で銀貨5枚だ。」
ロティが紹介すると、女将さんは隆二を見て笑顔を振りまいた。
「では、1週間でお願いします。」
隆二はロティに習い銀貨5枚を並べた。この銀貨は、つい先ほど枝が売れたからと受け取った物だ。
「それじゃあ、これがロティのいつもの部屋とリュウジさんは隣の部屋にしましょうかね。」
ロティは鍵を受け取ると、そのうち1枚を隆二へと渡した。
鍵は、それぞれ形の違うヘッドがついていた。鍵と言っても板の先に異なる凹凸がある程度の簡易な物だ。
「落ち着いた頃に、体を拭く湯を届けますね。」
そう声かけを受けながら二階へ向かう階段を上がった。
湯を届けるという事は、部屋に風呂はないのか…隆二はかなりがっかりした。
ロディは馴れた様子で階段を上がり、廊下から下を見た。廊下の窓は開けられていて、中庭が見えたのだ。