28 ロティ④
リュウジさんは、僕の拙い説明でも真剣に聞いてくれる。
食べ物を出し惜しみせずに分けてくれ、ロバに飼い葉代わりの草も与えてくれていた。水も惜しげもなく出してくれる。
上等な馬車と違って幌もない荷台の乗り心地はよくないはずだけど、文句も言わないで乗っていた。
僕が回復して、粥を十分に食べられるようになったからと、パンまで食べさせてくれていた。
それも柔らかい白パンだ。パンなんて何年振りに食べたのかさえ思い出せない。麦を粉にするには、沢山こぼれてしまうから、貴重な食べ物を減らすようなことはしなくなっていた。
白パンなんて食べたこともなかったけれど、柔らかくしっとりとしていてスープがなくても食べられた。今まで食べたことのあるパンだって貴重なものだったけれど、あれはなんだったのかと思うほどに違う物だった。
そういった物も行動も含めて育ちがよく安全な場所で育ったのだろうと想像できた。
ロティがスターティアで定宿にしているのは、庶民が入れる宿としては最も高級な部類だった。1泊1万ダルは日雇いの仕事を5つ6つこなさなければ泊まれない。
以前は食事もできたが、今は食材を手に入れるのが難しいらしく素泊まりのみになっていた。
リュウジさんがどれほどの物を持っているかわからないけど、もし可能なら売ってもらいたい。渡した金で泊まれるが、それでは心許ないだろう。
僕が買い取ることができれば、リュウジさんもそれを売りに行く僕もお互いにいいはずだ。
「リュウジさん、なんでもいいので食べ物を売ってもらえませんか?」
「なんでもと言われても…」
「小麦や穀物があればうれしいです。」
「それなら…小麦は挽いた粉しかない。穀物は…米ならある。」
麦を粉にするのはとても大変なことだ。脱穀してから粉ひきにかけるのだ。それを持っていて、それしかない?
それだけでも驚いてしまったけれど…。
「コメ?」
「昨日、粥を食べただろう?あれだ。」
「あれがコメですか…あれはいいものですね。それに小麦を粉に挽いているのならすぐに使えて便利だと思います。」
「そうだろう」
「売ってもらえますか?今ではなく、宿に着いてからがいいですが。」
「かまわないよ。宿についたらだね。」
「本当に!?約束ですよ!」
「ああ、こちらも助かるよ。」
リュウジさんは、僕の反応に驚いたようだが、食糧を変えるとなったら誰だって同じ反応をするはずだ。そういうところも含めて、リュウジさんは世の中に疎そうだからしばらくはついていたいと思ってしまう。
ロティはロバを走らせ、出発からたった2日でスターティアの門前へ到着していた。
驚異的なスピードだった。通常なら3日はかかる距離だ。隆二さんが、ロバにたっぷりの餌と水をくれたおかげに違いなかった。