27 ロティ③
ロティにとってはよく見るまでもなく、リュウジさんは異質だった。
白い肌に短く切りそろえられた黒い髪と黒い瞳。男の手とは思えないほど傷も指の曲がりもない長い指。物腰が柔らかく上等な布でできた色のついた服を着ていて、靴は見たことのない素材の紐で縛る靴だった。
庶民の靴は、基本木靴だ。
小さくなると、古着屋へ行き一回り大きな靴を購入し、小さくなった靴は売ってくる。
日に当たれば肌は黒くなるものだ。日焼けのない真っ白で染みひとつない荒れのない肌は、子供の頃からほとんどの時間を室内で過ごしていたと予想できた。
あれほど見事に髪を切る技術の職人などそう多くはないだろう。ナイフで髪を切るのは難しいし、あのU字のハサミという道具を使ったとしても、あれほど揃えられるとは思えない。
帝国の貴族は髪を長く伸ばして結わえている。それは髪を切り揃える時に怪我をしないためだといわれている。
庶民であれば紐で結わえるか肩近くで切っていた。切ると言っても適当につかんでナイフで切るので、長さが揃うことはない。
農民や商人であれ職人であれ、その子供であれば、物心がついたころには手伝いをさせられ、5才になれば重いものも運ばされる。そのため背中を伸ばせない者も出てくる。
手だって使っていれば、傷の一つや二つ付くのは当たり前だ。同じ作業を続ければ、それに合わせて指も曲がってくる。
騎士や兵士であれば、剣で怪我くらいするだろうけど、そういった傷は見当たらない。騎士たちのように姿勢がいい。
つまりそれ以上の地位の人間になると思う。
なにより、着ている服が見たことのない品だった。
ほつれのないまっさらに近い生地の服には色がついていた。昨日は真っ白な上着で今日は真っ黒だ。どちらの色も見たことがない。布は素材の色があるので、白くなることはなく染料を使っても素材の色に加わるのでくすんだ色になる。黒は何度も染料を重ねて黒くすると聞いているが、闇のような黒は見たことがなかった。
染料は高価なものだ。染物は貴族の物であり、庶民が手に入れることはできるものではない。あれほどに突き抜けた白や黒を着ている人が庶民のはずがないのだ。
ロティは、代々商人の家系であり、実家は領都に大きな店を構えている。子供は行商から始めるが、ロバと荷車を与えられるほど裕福だ。
馬は、貴重で貴族の持ち物だ。
四つ足のロバも貴重な労働力であり、裕福な商売人の家でやっと持てる動物だった。それを与えてくれた両親は偉大なのだ。
そして、隆二はさんが出してくる見たことのない軽くて美しい水筒と水。粥やパンなどは食糧難の今では口にできる者も少ないだろう。
それに、あの背負い袋はアイテムバックのようだろう。そうでもなければ、バック一つで旅をするなどと無謀なことはできない。食べ物も出してくれるが、バックの大きさと出てくる量が合っていなかった。