26 ロティ②
「体調はおかしくなっていない?」
「かなり楽です。喉もお腹も満たされて…」
「それならよかった。」
「食べられそうなら、これも食べるといい。」
「!?」
目の前には、見たことのない果実がおかれていた。りんごやなしのような形だけれど、それだって幼い頃に何度か食べたことがあるくらいだ。母がナイフで切り分けた物を1切ずつ食べた。
ここまで手厚くされては、何を差し出させられても不思議じゃない。それでも、今食べられる幸運があるのだ。我慢することなどできるはずがなかった。ロティは目の前の果実に噛り付いた。
とたんに果汁が口いっぱいに広がり、シャリシャリの歯ざわりもよく食べられる芯ぎりぎりまでを食べつくした。芯はさすがに食べられそうもないので、ロバの方へ放り投げると、ロバはむしゃむしゃと食べる。
久しぶりの食事だったからか体中に痺れるような充足感があふれていた。
「まだ辛いと思うから、眠ったほうがいい。水は置いておくから飲んで。」
「すいません…」
「俺は隣の小屋にいるから、声をかけてくれれば顔を出す。」
「すいません…」
ロティは眠って起きると、信じられないほど体中に力が漲っていた。横になったまま見上げると見慣れない屋根の布があり、昨日のことが夢ではないと証明していた。自分に掛かっていたのは、見たことのない分厚い毛布が掛けられていた。
春を迎えたとはいえ、荒野の夜は寒い。普段なら木箱で周囲を囲い浅い眠りを繰り返してきた。このおかげで温もりの中眠れたようだ。
起き上がり体を動かしてもどこも痛くない。寝ていた荷台には見慣れない容器と透明な水筒がおかれていた。
それらを手に取ると、やはりとてつもなく軽い。上へ掲げてみると、キラキラと輝いて見える。
昨日のことは夢ではなかったらしい。
ロティは隣に経っている小屋へ声をかける。しばらくして、ドアを開け閉めするような音がし大男のリュウジさんが顔を出した。
「ロティさん、気分は?」
「かなりいい。お世話になりありがとうございます。」
「朝ごはん食べられそうだね。」
リュウジさんは、また粥を食べさせてくれた。その上、お茶の入った水筒まで渡してくる。ありがたく飲むけれど、とても手持ちの金を渡しても足りる気がしない。
リュウジさんに金袋を渡したが、最初は断られた。
お金について教えて欲しいというので、金に触れたことがないとわかった。
この国の金の単位であるダルと、コインについて説明をしていく。
リュウジさんは初めて聞くらしく真剣な表情で聞いてくれた。
そしてほんの少しのコインを受け取り嬉しそうに見ていた。