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この世界の果実水というのは、果物を薄く切った物や皮をほんの1切れか2切れ水に入れたもので香りがする程度だ。この果実水は、隆二が果汁100%ジュースをスライムで固めたバーを湯で溶かして冷ましたものだ。
コンビニで売っている果汁100%ジュースのほとんどは濃縮果汁を希釈し香料を足してあるものが少なくない。そのため、香りは強く果汁が入っているので薄いが色がついていた。
「果物の香りがとても強くて少し酸っぱくて美味しい…」
「ああ、本当に…これは美味いな…」
「ローランさん、お待たせしました。もう少しでギルマスが来ます。」
「ギルマスですか?」
「はい、あの日お連れした方は、ここのギルドマスターです。」
ローラン夫妻は、薬師様だと思っていたので驚いた。
ここのギルドマスターがなぜ私たちを助けたのだろう?薬師様でないのに、ドロップを持っていた?あのカスタードバーはドロップだと思っていたけれど違うのか?
「そうでしたか…」
「それは果実水ですね?いかがでしたか?」
「とてもおいしいです。でも、俺が知っている果実水とは全く違う。」
「そうですよね。普通、果実水というのは薄切りの果実を浮かべて香りをつけるか、皮を入れて香りを付けます。」
「これは違うのですか?」
「はい、こちらは絞った果汁をバーにして、それを溶かしたものです。」
「バーというのは、あの果実を食べた後に飲んだものですか?」
「そうです。同じようなものです。」
「それは素晴らしい。それであれば、日持ちがするのですね?」
「そうですね。バーで3か月…溶かして半日は大丈夫です。」
「おぉ…そんなに…」
「バーはドロップとは違うものですか?」
確信をついたところでノックが響いた。
リリアさんが立ち上がり、ドアを開けると妻が慌てて立ち上がった。
「失礼…」
「ああ!あの時は本当にありがとうございました。おかげ様でこれほどまでに回復し、動かなかった足まで動くようになりました。」
部屋に入ってきたのがあの時の人だとすぐに分かった。
霞がかっていた辛い記憶の中に、確かにこの人がスプーンで与えてくれた記憶があった。
ローランは、椅子から立ち上がると隆二の元へ駆け寄ると床へ座り頭を下げた。
この辺りでの最高位の礼の形だ。日本でいう土下座に近く隆二は戸惑ってしまう。
「顔を上げてください。」
「椅子へどうぞ。そんな体勢ではお話できません。」
「はい、すみません。」
椅子へ座ると、正面にギルドマスターが座り、その隣にリリアさんが座った。
「こちら、工業ギルド、ギルドマスターのリュウジさんです。リュウジさん、こちら先日伺ったローランさんです。」
「ええ、覚えています。顔色もよくなりよかったです。」
「ギルドマスターには、本当に返しきれないほどの御恩をいただきました。」
「いえ、そんな…」
「それで…お代についてですが…その…かなり高額だと思います。その……金貨10枚で足りますか?」
「えっと…」
ギルドマスターが苦笑している。やはりそんな金額で手に入るものではないのだろう。そうなると、俺が働いたところで支払えるものではない。
「これから働いてお返ししていきたいと…」
「ローランさんのお仕事は何をなさっていますか?」
「それは…」
ローランは視線を漂わせた。
体が動くようになったばかりで、まだ仕事を見つけていなかった。寝たきりの時期が長いこともあるが、それ以前にこの町での仕事は少ないと倒れる前の記憶があった。なかなか見つからないと思うと動けずにいたのだ。
「もしよければですが、私の仕事を手伝ってもらえますか?」
「ギルマスの?それは、もちろんです!こちらに通えばよろしいですか?」
「できれば…通り1本南側でのお仕事が主になるかと…」
「わかりました。明日からでいいですか?」
「ええ、助かります。明日の朝8時に、3番目の区画へお越しください。」
ローラン夫妻は、ヒロの家にある倉庫へ通うことになった。1本南側ならば歩いて15分分近い。馬車でなんとなく道順は把握できた。歩いても1時間はかからないだろう。
夫妻はただ働きをする気であったために条件などは一切聞かなかった。
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