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「これが厠ですか!?」
「立派すぎませんか?」
「中も素晴らしいですよ。厠とは別物です。」
「右が女性用で、左が男性用です。ほら私たちも早く済ませてしまいましょう。」
同じ馬車で来た人たちが、建物へと入っていくのでローランもサブマスターについていく。
ドアのない入口は、壁で目隠しされていて奥までは見えない。内部は外側と同じ白い壁で出来ていて、屋根の下に開けられた間口から光が差し込んでいて明るい。
小さなドアが並んでいて、その反対側には樽と水受けが並んでいた。
「これは…」
「樽の下に足で踏むレバーがあるので、それで水が出ます。個室にも同じものがあるから、用を足したら手を洗ってください。」
「わかりました。」
ずらっと並んだドアを開けると、水樽と椅子がおかれていた。椅子は竹のようだが、その上に木製の座面と蓋がついていた。
壁には絵が描かれていて、どうやら蓋を開けて座るらしい。
蓋を開けると、下は深皿のようになっており下ではなく奥側に穴がついていた。座面には穴が開いていて、なるほど座ると排泄物は穴から落ちるのか。
ローランは使用し、絵図に従い蓋をして椅子の横に置かれた水樽を使う。手を洗うとその水が椅子へ流れるように受け皿から竹筒が伸びていた。
「なるほどなぁ…」
「ローランさん、終わったなら行きますよ。」
「ああっすいません。すぐに出ます。」
個室を出ると、ローランさんが待っていた。
「すいません、お待たせしました。」
「どうだった?」
「すばらしかったです。とても楽に用を足せて、手を洗うとそちらに水が流れるのですね。」
「そうだろう?手を洗うことで、途中で詰まらずに流れるらしい。」
「へぇ…」
「臭くないのは水を流すからですか?」
「実は、私も詳しいことは知らない。」
「そうでしたか。」
「なにせ、工業ギルドからは驚くような発明品が多くてね。把握しきれないくらいだ。」
「へぇ…それほどですか…」
「では、ギルドへいこう。」
先ほどは気が付かなかったけれど、トイレを出ると水路の向こう側に大きな建物が建っていた。飾り気のない白い建物は、新しいだけあって輝いていた。
「そこに座っていてください。」
サブマスターはカウンターへ行ってしまう。
ローランたちは、入口近くのベンチに座った。入口の左右にベンチが並んでいた。商業ギルドでは、椅子とテーブルはあるもののそれは相談などを行うためのものだ。
用事で行くのでカウンターの前に並ぶのが常であり、そういう意味で座る場所はなかった。
しばらく待っていると少女が迎えにきた。案内されたのは、椅子とテーブルがあるシンプルな部屋だった。
部屋では、リリアさんが出迎えてくれた。
「ローランさんお待たせしました。こんなところまで来ていただいてすみません。」
「いえ、とんでもありません。リリアさんのおかげでこのように元気になれました。しかも見てください。足も動くようになったのです。」
「え?本当ですね…これは素晴らしいです。」
「リリアさん、それでお薬のお代ですが…俺の全財産ではすぐに支払いきれないかもしれませんが、絶対にお返しします。」
「それは…助けてくれた方に言ったほうがいいですね。私は案内しただけですから…」
「では、その方の居場所を教えていただくことはできますか?」
「少々お待ちください。今確認しますね。」
リリアさんは、そういうと部屋を出て行ってしまった。
ギルド職員が入れ替わりで入ってくる。
「失礼します。お時間がかかるかもしれないので、こちらを飲んでお待ちください。」
目の前に置かれたコップに入っているのは白湯ではないようだ。何かを出されることなどめったになく、白湯であってもうれしいものだ。家を訪ねてきた客に出すのも白湯が普通だ。
「これは…白湯ではないようですが?」
「こちらは果実水です。ギルドマスターが試作したものですから、よければお帰りの際にでも感想を教えてください。」
そういうと、すぐに部屋を出て行ってしまった。
「あなた…このようにもてなされてしまっては…」
「ああ…だが、出された物を断るのも…」
「そうですね…」
ローラン夫婦は、果実水へと口をつけた。
「!?」
「果実!?」
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