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「あれ…」
「あなた!目が覚めたのね。気分はどう?」
「不思議だ…妙にすっきりとしていて、動けるような気がする。」
ローランは今なら動ける気がして、手をついて体を起こそうとした。気が付いた妻が背中を支えてくれる。
簡単に上半身を起こすことができた。
妻が背中に竹で作られた支えを入れてくれた。
ずっとぼんやりとしていた気がする。霧散した意識が集まり自分を認識できるようになっていた。
「これは楽だね…」
「そうでしょう?ギルドのリリアさんが連れてきてくれた薬師様がくださったの。」
「薬師様?もしかして高価な薬を使ってくれたのか?」
「金額はまだわからないです。その、何も請求なさらずに帰られてしまって…」
「は?そんなことがあるのか?」
「落ち着いたらリリアさんにお聞きしに行こうと思っていました。」
「そうか、すまない…」
「それよりも、あなたがここまで回復してくれてうれしいわ。今、薬師様から飲ませるように言われていたものをお持ちしますね。」
しばらくして妻が持ってきてくれたのは、淡く白っぽいものだった。
カップに入っているそれをスプーンで運んでくれる。
ローランは、口を開けて食べさせてもらう。ここ半年ほど食べさせてもらっていたので、自然な反応だ。
甘い…うまい…これは薬なのか?
体に染み渡るような不思議な感覚がした。
「これは…うまい…」
「そうですね。これはとても甘くておいしいです。」
「お前も飲んだのか?」
「はい、1つをシーランと分け合いました。そうするようにと薬師様から渡されました。」
「そうか…お前たちもすまない。」
「いえ、昨夜このお薬を飲んでから体が軽いです。あなたもベッドから降りられるようになりますよ。」
「そのカップを持てる気がする。」
「これを?こちらをこぼしては困りますから、こちらの白湯を飲んでみてください。」
妻が差し出したカップには、半分ほどの白湯が入っていた。
白湯であればこぼしてもいいけれど、貴重な薬をこぼすわけにはいかない。
ローランはそれを受け取るとカップを傾ける。自分の手で飲み物を飲むのはいつ以来だろう。自分で飲めたことが嬉しい。
「あなた…」
妻を見れば、妻が口に手を当てて涙を浮かべていた。
膝の上には、薬の入ったカップがある。ローランは、白湯のカップを置くと薬のカップを手にした。スプーンで掬うが、スプーンを持つ手は震えてしまう。それでもどうにか一口飲めた。
カップを口元へ運び、スプーンからこぼれてもいいようにして飲んでいく。
いや、これならカップから少しずつ飲めばいい。
ローランはスプーンを妻に渡して少しずつ飲む。
すべて飲み干すと、妻が改めて白湯を持ってきてくれた。
「あなた、白湯もどうぞ。」
「ああ、ありがとう。」
「それを飲み終えたら少し寝てくださいね。」
「そうだな…」
妻に背あてを抜いてもらい休んだ。
寝ていて、もよおしてきて慌てて起き上がる。
厠へ行きたいと思いベッドから足をおろして立ち上がった。
「あなた…どうしまし…ローラン!」
妻が慌てて寄ってきて、支えるように抱き着いた。
「急に立ち上がって大丈夫ですか?」
「ああ、厠へ行きたくて…」
「わかりました。支えますね。歩けますか?」
ローランは慎重に1歩を出した。2歩、3歩…妻に支えてもらっているが、足を出せる。自分の体重を受け止めていられた。
足はやせ細っているけれど、歩ける。
「嘘みたいだ…歩ける!歩けるぞ!!」
「ええ、あなた…歩いているわ。」
厠でも妻の手を借りざるを得なかったが、どうにか用を済ませることが出来た。
それから数日、薬師様がおいていったカスタードバーというものを飲んだ。食べ物は相変わらずなかったが、その薬を飲むだけで元気になっていくのがわかる。
息子のシーランもやせ細っていたけれど、顔色は悪くない。
「パパ、足が動くようになったの?」
「あれ…そういえば…」
「私が支えていなくても、杖がなくても歩けるの?」
ふいにテーブルに手をついて立ち上がった。
動かなかった左足を軸にしていた。
「えっ…いわれてみれば…」
「うそ…」
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