230
「リュウジさん、やりすぎ…」
「そんなことはない。ロティさんには、ここに帰ってきて欲しいからな。」
「リュウジさん…」
「それにな…中に入って竹のここをこうすると、荷車の高さを変えられる。」
「はぁ…確かに半分になったね…?」
「荷車の高さは木箱2段分しかないだろ?」
「うん…?」
「つまりだ…床面は木箱6個分で2段重ねて12個だ。足回り入れておおよそ20個分のスペースになる。入るかどうか試してみないか?」
「!?」
「やってみる。」
「一応、全量入っている状態で試してくれ。」
隆二は木箱10個と折りたたんだ木箱5段で1箱スペースを2箱分で20個にして乗せた。ロティはそれを収納してみると、入ったのだ。
「ええ!?」
「入ったな…」
「これって…」
「ロバは無理だと思うが…木箱20個を取り出しても荷車をたたんでいれば収納できるなら、安全の選択肢は増えたな。」
「う…ん…」
「あとな…」
「まだあるの?」
「もちろん。荷台を出してくれ。高さを元に戻して…中へ入ってこい。」
「うん、それで…?」
「ここね。車輪と車輪の間のここ左右ともにだけど、板を外せるようになっている。」
「へぇ…」
「こっちが脱出用。そして、こっちは金庫だ。ロティの収納に入れられるのはわかっているけど、こういう場所があると安心できるだろう?」
「うん、そうだね…」
「あと、ここ…御者席の下にも一応収納がある。」
「なるほど…」
「折りたたみできる木箱は20個全部だ。」
「ありがとう…大荷物が減った時にも便利だね。」
「そうだろう?いろいろと考えたけど、一番大事なのはロティさんが安全に帰ってくることだからね。」
「うん、わかった。」
「万が一、夜盗に囲まれて身動きが出来なくなったら、これに火をつけて外へ放っておくこと。その時には、ロティは上のベッドに逃げること。約束できるよね?」
「えっと…どうやって火をつければ…そう簡単にはつけられない。」
「これを渡す。これはライターといって、ロックを外してここを押すと火が出る。」
「うわっ」
「人に見られないように気を付けて。」
「うん、もちろん…」
「あの、これってどういうものなの?」
丸い物に紙を巻いてあり、見た目は丸い爆弾だ。それを4つクッキーの缶に入れてある。
「これは、煙を吸ったら眠ってしまう。その間に逃げるんだ。」
「わかった。」
「ロティは吸わないように気を付けて、出来たらロバは早めに遠くに行かせるように。」
「うん、わかった。」
ロティが頷くのを見て、隆二は少しだけ安心した。
考えられる限りの安全策を施したけれど、絶対の安全などないのだ。
「それと、これ預かっていた服だよ。こっちは防刃加工している。でも服のない場所は守れないからね。」
「うん、わかった。」
「できれば、頭にはこれを巻いてほしい。」
「これも防刃?」
「そうだよ。布だから、万が一の時にはこうやって巻き付ければ目元以外は守れるだろ?」
「リュウジさんは過保護だね。」
「これはレインコートだ。雨をはじくから念のために持っていてくれ。雨の日には無理はしないでほしいよ。」
「わかった。ありがとう。」
「あとの準備もしっかりしろよ。」
「もちろんだよ。」
隆二は、ロティが心配だった。前回の町は荷を狙っただけだからいいけれど、もし全てを狙っていたらと思うとぞっとする。
体格もしっかりしてきているから力もある。早く走ることができるようになってはいる。それでも、不意を突かれたら終わりだ。用心に越したことはないのだ。
荷台を渡した4日後、ロティは2箱分のコメと同量の押し麦、トマトときゅうり、小松菜と蕪、スラ塩と水樽と藁の箱を手に入れた。
さらに1箱にぎっしりと詰められたカスタードバーだ。カスタードバーは20組ずつジッパータイプの袋に詰められており、それを木箱いっぱいに入れてあるのだから、相当な数があった。
荷台にぎっちりと詰め込み、乗り切れない物はロティの収納へと入れた。
そして今回も隆二は、簡単に食べられる個包装のクッキーバーと飴の大袋を渡した。
ロティは前回の飴は半分残っていると言ったが聞いてもらえない。それどころか、栄養を強化できるという白い粉を1壺渡されてしまった。
そうしてロティは2週間の予定で行商へ向かった。
読んでくださりありがとうございます。
評価をいただけると嬉しいです。




