23 時間の概念①
翌日、隆二はリュックサックにある程度の荷物を詰め、車を収納してから小屋を壊した。小屋に使ったレインコートは畳んでリュックサックに仕舞う振りをして、インベントリへと収納した。
枝はロティの荷台へと積み込んだ。
長めの1.8m越えの枝が16本あるので、荷台の半分近くを埋めてしまった。
ロティから受け取ったお金は、銀貨1枚に小銀貨4枚、銅貨12枚越えだ。本来なら重くなるのだろうが、リュックサックに入れてあったがま口の小銭入れは軽いままだ。
もともと、仕事に行くときには最低限の金だけ持ち歩いていた。小銭は、配達途中にジュースを買えられればよいと思って持ち歩いていた。
その存在をすっかりと忘れていたが、昨日リュックサックの中身をすべて出して確認して見つけたのだ。充電用のケーブルとモバイルバッテリー、小銭入れと数粒のチョコレートとキャンディが入っていた。
がま口の小銭入れは、開けると真っ暗闇で中が見えなかった。逆さまにして出てきたのは銅貨数枚だけだ。百円玉数枚と十円玉や50円玉が入っていたはずなのに、ずいぶんと安く交換されたものだと憤っていた。
そこにロティから受け取った硬貨を入れると、全部飲み込んでいた。取り出す時は、何を取り出すのかをイメージしていれば簡単につかむことができた。なるほど、見たことも呼び方も知らないとどうしていいのかわからないところだが、イメージ力の問題で取り出せなかったらしい。
この小銭入れを失くすと全財産を失うことになるので、小銭入れの根付をつけるリングに家の鍵をつけていたチェーンを通した。ズボンのベルトを通す部分にチェーンの先の金具を取り付け、小銭入れはポケットへと入れた。
「リュウジさん、出発しますよ。」
「ロティさんよろしく。」
ロバの歩みはゆっくりで、荷台の先頭に板を渡して固定しているだけの椅子にロティは座り御者をしていた。
椅子の下に木箱が入っている。
今は一部の木箱を抜いて、枝の先を入れ込み反対側を荷台から出すことで固定していた。左右のバランスが悪いと引き難いこともあり、隆二は反対側へと座っていた。
リュックサックは荷台に転がしている。いつでもインベントリへ収納できる距離だ。ロバ車は、やはり揺れがひどい。走っている間は、あまり話はできなかった。
隆二は時折ロティに背を向けてマップで位置の確認をしていた。
スターティアへ行くというので、同行させてもらったが、なかなかキツイ道のりになりそうだ。
2時間経った頃、休憩のために止められた。
隆二は、ロバ車を降りて伸びをした。尻が痛いし腰もなんだかおかしい気がする。
ロバにバナの葉の器の水を飲ませ、自分たちはペットボトルのお茶を飲んだ。
「リュウジさん、そのリュックサック…アイテムバックですよね?」
「ん?…ん~まぁ…」
「あっ大丈夫です。貴重なものですし言いふらしたりはしません。」
「そうか、助かるよ。」
「でも、本当に貴重な物ですし、商人なら大金を積んでも欲しい物ですから気を付けてください。人前では使わないほうがいいと思います。」
「ああ、そっか…そうだよね」
「僕は、リュウジさんに助けられていますから、そんなことはしませんが…目をつけられたら大変です。それに…」
「うん?」
「リュウジさんの持っているものはどれも高級品ですし、貴重な物のようですから、本当に心配です。気を付けてください。」
「そうか、わかった。」
「リュウジさん、もしよければスターティアで泊まるところ紹介します。僕がいつもお世話になっている宿です。隆二さんは商売したいなら、商業ギルドへ行って登録しないといけません。」
「ギルド?」
「うん。登録すると商売の許可が出ます。店舗を持つ場合と屋台や移動販売で税の納め方が変わります。」
「へぇ、そうなのか…」
ある程度システムが出来上がっているのか?
税ね…日本のように稼いだ4割は税で持っていかれるような国はうんざりだが、ここはどうなっているやら…。
「リュウジさん、この水筒も中のお茶も貴重なものだと思います。僕みたいな者にも一緒に食べたり飲んだりさせてくれてありがたいです。感謝しているのでお金は受け取って欲しいです。」
「いや、そんなものは大したものではないから。」
「そんなことあるはずないです。今本当に食品がなくてどこも困り果てているんですよ。」
「そうか…」
「リュウジさん、麦か穀物、芋など持ってはいませんか?」
「ん~…」
「麦は粉に挽いたものであれば少し、穀物は…米であれば多少はあるが…。」
「僕に売ってもらえませんか?それと米とはどんなものですか?」
「米は、そうだな…昨日食べた粥が米だ。麦で作るより柔らかくできる。」
「あれですか、あれは美味しいものでした。ほんのりと甘くて…お持ちの分から少しでいいので売ってください。」
「宿についたらでいいか?」
「はい!もちろんです。」
「あとごめん、宿っていくらぐらいするんだ?」
「宿は、食事なしの泊り1泊で1万ダルです。1週間連泊すると5万ダルになります。」
「なるほど…」
「妙な事を聞いてもいいか?」
「はい」
「1週間は7日か?一か月は?」
「はい、一週間は7日で一か月は4週間です。ついでに言うと1月から12月まであり、4週間ずつなので48週336日で1年です。」
なるほど、どの月も4週間で成り立っているのか。それは聞いておいてよかった。