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ドニーから檻が出来上がったと連絡が入ったので、隆二とシアンは工房へ向かった。
「出来上がったはいいけどよ。こいつは場所をとるぞ…置く場所はあるのか?」
「もちろん、大丈夫だよ。荷台に乗るのは…4つが限界かな…」
「積みきらない分は運ぶ。」
「助かるよ。今から寄り道するから届けるのは、夕方だと助かる。」
「わかった、そうしよう。」
隆二たちは持てる範囲で荷台へと載せて木の葉亭に寄った。
木の葉亭の女将には、定期便の米を届けた。ついでに納屋を借りてインベントリへ収納させてもらった。
隆二は、研究所の中で檻を取り出した。
この世界の金属はコーティングされていないためにすぐに錆びる。隆二は、スライム液でコーティング剤を作っていた。水槽いっぱいにコーティング剤を入れ、金属を入れて引き上げる。紐で吊るしている部分はコーティングできないので、角度を変えてもう一度コーティングをかけていた。
可動部は乾かしているときに何度か動かすことで可動を保てた。
隆二は、運んできた檻を釣り上げて可動部を順番に動かしていく。最後までいくと最初に戻るように間隔をあけて動かすことが大事だった。
「リュウジぃ、いっぱいもったひとがきたよ。」
「ロロナ、ありがとう。」
ドアの外からロロナの声が聞こえて、ドアを開けた。
ドニーが弟子と共に檻を運んできてくれた。ドアの前には荷台の上へ高く積み上げられた織があり、弟子たちが倒れないように支えていた。
隆二も手伝い、荷台から慎重に降ろした。
「こんなところまですいません。」
「いや、俺はたまげている。ここの畑はどうなってんだ?」
敷地に入ってすぐの畑へ視線を向けていた。
ヒロとシアンに任せている小麦畑だ。青々とした葉が茂っているのだ。
「たまたまうまくいきまして、シドさんたちも手伝ってくれているんです。」
「シドって農業ギルドのギルマスか。」
「ええ、ギルドの他の方たちもですね。」
「そりゃあ、すごいな…なあ、この檻はどう使うんだ?畑にはつかわねえだろう?」
「使い方、見たいですか?」
「ああ、作ったものがどう使われるのか興味がある。」
「では、こちらへどうぞ」
隆二は、研究室の向かい側にある兎小屋にしている倉庫へと案内した。
「こりゃあ一体…」
「見ての通りの角兎です。大ゲージで繁殖させて、中ゲージに移して子を産ませ、浅ゲージで子兎を育てます。まだまだ試行錯誤をしていますが、ドニーさんのおかげである程度はうまくいっています。」
「ここで子兎を育てているってことでいいか?」
「はい、その通りです。」
「この兎は売るのか?」
「もちろん、そのつもりです。今は少ないのでまだ出荷できませんが、来年にはある程度出せるようになると思いますよ。」
「こりゃあすげえなぁ…」
ドニーは角兎をすごいとは言っているが、視線は檻にくぎ付けになっている。
自分の作った物だろうに何か気になることがあっただろうか?
「なぁ、なんでこの檻はさびていないんだ?」
「それは、さび止め剤を塗ってあるので」
「なんだと!そんな物があるのか!?」
「ええ、まあ…ただ温度管理をしないと使えません。」
「構わん、俺にも売ってくれないか?」
「ええっと…いいですが、高いですよ?」
「そんな事はわかっている。今使っている獣脂だって高いが、それでも錆びる。これはさびてもいなければべたべたともしてない。こんなものがあるなら使いたい。」
「わかりました。ちょっと待っていてください。」
隆二は試作したさび止めドロップ2粒を手の平へのせた。
「これが、さび止めです。」
「ドロップ剤なのか…」
「はい、これはお試しで差し上げます。本当にいいと思ったらまた相談しましょう。」
「わかった。」
「使い方ですが…ドロップをカップ1杯の水で煮て溶かしてください。それを刷毛で塗ればいいです。可動部については、塗ったままにすると固まるので、乾くまでは動かしてください。」
温度管理など、使い方の説明を終えるとドニーは喜んで帰っていった。
「リュウジさん、始まったよ。」
ロティに呼ばれて急いでロバの小屋へ行く。
ここに来て1月半、待ちに待った時間だった。
ロバの出産はよくわからないので、ロティはロバを飼っている人を呼んできた。
3時間後、ぬるりと仔が産まれた。
ロバは生まれた仔の全身を舐めてケアを始めた。これなら大丈夫そうだ。
翌日、水と餌を与える。いつもと異なり雑穀を多めに入れていた。ロバの仔は母について回る。もう歩けるのだからすごい。
一月と少し経った頃、ロバの仔は雑穀や藁も食べ始めた。
それを見て、ロティが行商に出る時期が近いと思い、隆二は様々なものをバーにしていく。
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