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ギルドメンバーがざわついた。
盥には大量の大豆が入っていて、それが6つ並んでいた。
当たり前だ。種はそのまま植えるものだ。それを芽を出せるようにと言われて驚くのも無理はない。
「この種は水を張った盥に入れて2晩置くぞ。水は毎日取り換える。」
「へぇ」
「ほー」
午後の作業の最初に、種の世話をしてから畝を作っていく。
「2日経ったから、今度は濡れた布に包んで乾かないように時々水を振りかけながら蓋をして乾かないようにするぞ。」
そう言ってさらに2日後、小さな芽が出ていた。
「おぉ?芽が出ているな?」
「取り扱いには気を付けてくれよ。芽が折れたらその種はだめになる。」
「おうっ。」
皆で手分けをして、慎重に種を蒔いていった。
それらが終わると、今度は大量の雑穀が入った盥を用意した。それらを水やり道具を設置していない畑へと播いていく。
「皆、わかっていると思うが、今回大量の種を使った。」
「ああ」
「これは全てリュウジさんが用意してくれたものだ。もちろんただではない。収穫できたら種を倍返しすることになっている。取れない畑があるかもしれないが、その時にはギルドで責任を持ってお返ししなくてはならない。」
ギルドメンバーが背筋を伸ばした。
「同じ量を3回分は返せるように頑張ろうじゃないか!」
「おおおお!!!!」
「種は蒔いた。明日からは、朝に水やりをすること。リュウジさんのところで研修する時には、家族に頼むか家へ戻り次第行う事。」
「はい!」
「雑穀を播いた畑も、できる限りは水やりをしてくれ。」
「はい!」
「午前中、うちでの研修は続けるから来るように。明日から収穫をする。」
「はい!」
シドの声が明るく、大量の種を蒔いたことからギルドメンバーも明るく取り組んでいた。
それが、シドにはたまらなく嬉しいことだった。今考えると農業ギルドとは名ばかりだった。作物を育てる技術も知識もないのに、ギルドを名乗るなんてとんでもないことをしていた。今のように知識を共有し、種を融通し合うのが役割なのではないか?
育て方は各家の秘伝と言いつつも、誰一人まともに作物を育てられなかった。そんなもの農家といえるか?そんな素人集団のどこが農業ギルドだ。
「あっ…これは農作業ではないのだが、リュウジさんが午後からの手伝いを探しているらしい。手伝いの内容は秘密を守れる者で3人だそうだ。報酬は、日によるらしいが、食べ物をくれるらしい。」
「やる!」
皆が手を挙げたので、家族のいる雑穀畑の者から3人選んだ。
それから数日後、午後の仕事を始めた彼らはなぜか雑穀の必要性を感じたらしく、水やりも手作業で頑張っているようだ。
耕作機は、すぐに売れるとは思っておらず、一緒に使う事でその意義は伝わったはずだ。
なんせ、普段なら2週間はかかる1軒分の畑が1日で耕せたのだ。しかも、あのカレンダーを見れば、作物が終わったらすぐに耕し2週間置いたのちに次の作物を植えることが有効に畑を使う方法だと分かる。時にはその前に、苗とやらを作り肥料が馴染んだ畑に植えていくのだ。畑を短期間で耕せられればそれだけ作物を作り出せる。
翌日からは、朝蕪と小松菜を収穫した。
リュウジさんは月金で売っているので、シドは、火~木と土に販売した。
シドの場合は毎週4畝播いていたので、各曜日には1畝分ずつ分の小松菜と蕪を売り出せた。
リュウジさんは、ミニトマトやきゅうりを月金以外でも売り始めたがその頃には蕪や小松菜を出さなくなっていたので、お互いに商品は重ならなかった。
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